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Sパラメータとは

散乱パラメータは、「Sパラメータ」とも呼ばれ、電気信号が印加されたときの電気回路網(または回路)の振る舞いを記述する数学的な行列の要素です。

数ギガヘルツを超える高い周波数では、電圧や電流を直接測定することが困難になります。そのため、Sパラメータを使用して、電気回路網のポート間のパワーウェーブの入力-出力の関係を記述します。

電気エンジニアは、通信システム、集積回路やプリント回路基板(PCB)、マイクロ波回路、無線周波数(RF)回路など、さまざまなエンジニアリング設計にSパラメータを適用できます。

Sパラメータは、使用している他のタイプのパラメータ(Yパラメータ、Zパラメータ、ABCDパラメータなど)とは異なり、(開回路や短絡の終端の代わりに)整合負荷を用いて電気回路網の特性を評価します。

Sパラメータの適用分野

数式は、私たちの周りの世界を記述するのに役立ちます。小信号の電気回路網では、線形方程式を用いて、独立した電圧量や電流量を従属量(同様に、電圧量や電流量)に関連付けます。

したがって、非常に複雑な回路であっても、シンプルな数式を介して出力電圧や出力電流を入力電圧や入力電流に関連付けることができる、「ブラックボックス」に変換できます。

高周波回路が登場する以前は、主にYパラメータやZパラメータを用いて回路網性能の特性を評価していました。しかし、特に導波路などの伝送線を組み込んだ回路網などのより高い周波数では、回路網性能を電圧や電流に直接関連付けることが困難になります。

したがって、Sパラメータは、電気回路網または回路内を伝播する電圧波の散乱特性を記述する、散乱マトリクスの要素を参照します。これらは、E.W. Matthews、黒川兼行らによって広く知られるようになった散乱波の概念に由来しています。Matthews黒川兼行など。

進行波とは

電磁進行波が障害物に遭遇したとき、あるいは異なる誘電体媒体を横切るときに、波は散乱します。したがって、Sパラメータは、伝送線に沿って伝播する電流と電圧が、素子や回路網によって形成される不連続性に遭遇するときの散乱の状態を表します。この不連続性は、素子や回路網のインピーダンスと伝送線の特性インピーダンス(または負荷インピーダンス)が不整合であるときに生じます。

入射信号が回路網のポートに到達する際、そのエネルギーの一部がポートから離れた方向に反射され、残りのエネルギーは回路網内の他のポートに伝送(または散乱)されることで、信号の増幅または減衰が発生します。

Sパラメータの計算

Sパラメータは、特定の周波数における入射波と反射波の特性を表すため、エンジニアはこれらの周波数に加え、試験対象装置(DUT)の特性インピーダンスを指定する必要があります。

Sパラメータは、マイクロ波および無線周波数(RF)回路(300MHz~300Ghz)の設計、解析、および最適化において最も有用であり、広く使用されています。RFデバイスの内部特性をモデル化する必要がなくなり、設計時は入出力の挙動のみに集中できます。

エンジニアは、各回路ポートの電圧と電流を測定することで、Sパラメータを導出します。これらのパラメータは、入射波と伝送波(または反射波)の電圧比として計算された無次元の係数です。マルチポート回路網の散乱マトリクス(nポートマトリクス)は、個のSパラメータで構成され、各パラメータは回路内の入力-出力経路を表します。

各パラメータは無次元の複素数であり、その実数部は信号の振幅を表し、虚数部はテスト周波数における信号の位相を表します。振幅は、線形または対数スケール(この場合はデシベル)で表現できます。相は、通常は度数で表現され、場合によってはラジアンで表されます。

エンジニアは、Sパラメータを測定するときに、以下の条件もあわせて指定する必要があります。

  • テスト周波数
  • 特性インピーダンス(通常は、50Ω)
  • ポート番号の割り当て
  • バイアス電流、温度、制御電圧など、その他の条件

Sパラメータの表現

Sパラメータはマトリクスとして表示されます。ここでは入力ポートを表します。

したがって、2ポートの回路網のSマトリクスは、以下のように記述されます。

ここで、

  • は入力ポートの反射係数
  • は出力ポートの反射係数
  • は入力ポートの透過係数(または逆電圧ゲイン)
  • は透過係数(または順電圧ゲイン)

対角パラメータは、「反射係数」と呼ばれます。これは、信号の入出力が1つのポートで発生するためです。それに対して、非対角パラメータは、異なるポートでの入出力を示す「透過係数」と呼ばれます。これは、任意の次のマトリクスでも同様です。

Sパラメータは、各点がテスト周波数を表す線形図または極図にプロットできます。

RF回路設計におけるSパラメータ

エンジニアはSパラメータを測定して、線形の高周波(RFまたはマイクロ波)回路網における損失、ゲイン、インピーダンス、電圧定在波比(VSWR)などの特性を決定します。10ギガビットイーサネット、SATA、PCIe、ファイバーチャネルなどのさまざまな電気規格では、どれもSパラメータを使用してテストの準拠手順を策定しています。

主な用途を以下に示します。

  • 増幅器の設計: RF増幅器の設計では、Sパラメータを使用してゲイン、安定性、および線形性を解析して、最終的に最大の帯域幅と入出力の整合を達成できるようにします。
  • フィルタの設計: Sパラメータは、ハイパス、バンドパス、ローパス、およびバンドストップフィルタにおける周波数応答、挿入損失、リターンロス、選択性を評価するのに役立ちます。
  • 周波数応答の特性評価: Sパラメータは適用される周波数によって異なるため、広範囲の周波数にわたるRF回路の特性応答を示すことができ、帯域幅、共振、寄生成分の影響、およびその他の周波数依存応答の特性評価が可能になります。
  • 伝達応答の特性評価: Sパラメータは、RF回路がポート間でどの程度電力を伝達するかを示し、損失、ゲイン、位相シフトの応答の特性を評価します。
  • インピーダンス整合: Sパラメータ(特に反射係数)を調べることで、回路素子間の最適なインピーダンス整合を達成し、ソースと負荷の間の電力伝達を最大化できます。
  • インターコネクト解析: Sパラメータは、インターコネクトや伝送線におけるクロストーク、シグナルインテグリティ、インピーダンス不整合、およびその他の影響の特性評価に役立ちます。
  • シグナルインテグリティ解析: 信号パワーは減衰、反射、インピーダンス不整合によって悪影響を受けることがあり、回路網のSパラメータを調べることで、これらを軽減できます。
  • 回路の設計: Sパラメータを使用して、さまざまなRF回路構成を評価し、ゲイン、損失、電力伝達、インピーダンス整合に関する設計仕様を最適化します。
  • 回路網の解析: 個々の素子のSパラメータをカスケード接続することで、複雑な回路網の性能(位相シフト、ゲイン、周波数応答など)を解析できます。

Sパラメータを使用する利点

Sパラメータは、RF回路、増幅器、フィルタなど、線形の電気回路網の性能に関する重要な情報をもたらします。この情報には、以下のものが含まれます。

  • 信号の大きさ、位相、反射、減衰の詳細
  • 信号損失とインピーダンス不整合の発生箇所
  • 伝送線パラメータ(R、L、C、G、TD、Z0など)

さらに、Sパラメータは開回路や短絡を必要としないため、RF周波数におけるYパラメータやZパラメータよりも測定が簡単です。また、ABCDパラメータ、Hパラメータ、Tパラメータ、Yパラメータ、Zパラメータなど、他のパラメータ形式にも簡単に変換できるため、回路の解析や設計に柔軟性をもたらします。

さらに、Sパラメータは、回路シミュレーションソフトウェアで読み取り可能なTouchstoneファイル(ASCIIテキストファイル)として簡単に保存できます。

Sパラメータの使用に関する制限事項

Sパラメータの使用には多くの利点はあるものの、制限事項がいくつかあります。

  • Sパラメータは、周波数領域解析(信号の周波数応答)でのみ使用できます。時間領域解析(信号の時刻歴応答)には使用できません。
  • Sパラメータを使用する場合、回路網の特性を電圧波と電流波の観点から同時に評価することはできません。同時に評価するには、ABCDパラメータを使用します。また、SパラメータよりもABCDパラメータをカスケード接続する方が簡単です。
  • ほとんどのシリコン負荷は非線形に振る舞います。

デジタル回路は、主に電圧しきい値によって制御されます。このしきい値については、電気エネルギーの流れを理解する必要があるため、時間領域解析が必要になります。時間領域解析は、アンテナを使用した回路設計でも重要です。この場合は、反射や漂遊信号の特性を評価する必要があります。

周波数領域解析では、数学的な解析が簡素化され、システム品質を直感的に理解できます。周波数特性の時間依存要素を指すときは、ゲイン、帯域幅、共振周波数、位相シフトなどの用語が使用されます。 

「変換」(フーリエ変換など)と呼ばれる算術オペレータを使用して、周波数領域と時間領域の間で信号情報を変換することも可能ですが、誤差が生じる可能性があります。

Sパラメータのタイプ

マトリックスモデルにおける「ブラックボックス」とは、さまざまなポートを介して他の回路とやり取りするトランジスタ、コンデンサ、抵抗、インダクタなど、相互接続された素子を含む電気回路網を表します。

小さな入射信号が印加されたときに線形に振る舞う場合に限り、回路網には任意の数の素子を含めることができます。また、線形に動作する場合に限り、減衰器、増幅器、カプラ、フィルタなどの一般的な通信システムコンポーネントも含めることができます。

小信号Sパラメータ

大半のケースで、Sパラメータは単一周波数の小信号回路網に適用されます。これらの回路網では、ゲイン圧縮やその他の非線形効果を無視できるほど、十分に小さい信号を扱います。そのため、小信号のSパラメータは、反射波と入射波の電圧比として単純に計算されます。

以下のような線形回路網があります。

  • 入射電力の合計値が全ポートの反射電力の合計値に等しくなる、電力損失が生じない(無損失の)回路網。これは、Sパラメータマトリクスがユニタリーであることを意味します。
  • 入射電力の合計値が出射電力の合計値を超える、損失の大きい受動回路網。つまり、電力損失が生じる回路網です。
  • 伝送信号に影響を与える可逆な材料のみで構成された可逆受動回路網。ケーブル、スプリッタ、減衰器、結合器は、どれも可逆回路網の例です。この場合、Sパラメータマトリクスはその転置に等しく、となります。

大信号Sパラメータ

入力信号の強度が増すと、ゲイン圧縮などの非線形効果が顕著になります。したがって、大信号のSパラメータは入力電力レベルによって異なります。これらは「電力依存のSパラメータ」とも呼ばれます。

エンジニアは、非線形回路に適用される周波数領域解析手法である回路網の調和バランス法シミュレーションに基づいて大信号Sパラメータの測定を行います。大信号のSパラメータは、反射波と入射波の電圧比としても計算されます。

混在モードのSパラメータ

エンジニアは、周波数対ゲインのプロットやスミスチャートを使用して、Sパラメータの計算を確認する必要があります。そのために、混在モードのSパラメータをプロットします。これらのパラメータを使用して、差動回路網における近端クロストーク(NEXT)および遠端クロストーク(FEXT)の特性を評価します。

2ポートSパラメータ

一般的に、回路網の解析では、2ポートSパラメータを使用します。これは、大規模な回路網での高次Sパラメータマトリクスの設計図にもなります。2ポート回路網における反射波と入射波の関係は、次式で与えられます。

ここで、はポート1における入射波の振幅、はポート1における反射波の振幅です(ポート2におけるについても同様)。

2ポートSパラメータの測定から以下の回路網特性を導きます。

  • 挿入損失
  • 入力リターンロス
  • 出力リターンロス
  • 線形のスカラーゲイン
  • 線形の複素ゲイン
  • スカラー対数ゲイン
  • 逆ゲインおよび逆アイソレーション
  • 反射係数
  • 電圧定在波比

Sパラメータを使用したシグナルインテグリティの測定

前述のように、Sパラメータは、個のポートを含む一般的な(どのポートにも信号が印加され、反射する)電気回路網の応答を記述するのに役立ちます。したがって、パラメータは、ポート1の入射信号からのポート2での回路網応答を表します。Sパラメータは、通常は1ポートおよび2ポートの回路網に適用されます。

3ポートのSパラメータ測定は非常に困難ですが、専用のソフトウェアを使用してモデル化することは可能です。また、マルチポートのSパラメータ測定値はデバイスメーカーからすぐに入手できますが、エンジニアはこれらの測定値が正確であることを確認する必要があります。

ベクトルネットワークアナライザ(VNA)の使用

シグナルインテグリティを担当するエンジニアは、ベクトルネットワークアナライザを日常的に使用して、さまざまな動作条件におけるRF回路およびマイクロ波回路の性能を評価します。その結果、多くのケースで、大量のSパラメータデータの埋め込み解除、カスケード接続、可視化を行い、理論的な解析と実験の組み合わせを実行します。一般的に、このプロセスでは以下を行います。

  • 電磁理論、伝送線理論、回路理論を適用して数学方程式を導出する、回路モデルまたは回路図の理論的解析
  • Sパラメータを抽出するための専用ソフトウェアを使用した(導かれた方程式に基づく)回路挙動のシミュレーション
  • ベクトルネットワークアナライザを使用し、さまざまな周波数にわたってSパラメータ値を抽出する実験
  • 必要に応じて、回路からの個々の素子のSパラメータ寄与成分の埋め込み解除(減算)

テスト中、VNAソースからDUTに既知の信号を送り、DUTを通過する信号の変化を測定します。これらの変化は、VNAに接続された受信機(または受信機群)で捕捉されます。

一般的なVNAは以下のもので構成されます。

  • スイープ発振器(通常は合成器)
  • 情報表示装置
  • 2つ以上のポート(通常は双方向性カプラおよび複素数比測定装置に接続される)
  • RFケーブル

オプションとして、バイアス電圧またはバイアス電流を制御する手段、またはデータを保存するためのコントローラを含めることができます。

ベクトルネットワークアナライザは、RF回路網の単一素子(あるいは受動素子群または能動素子群)の周波数応答を捕捉します。特定の信号の電力を測定し、その位相と振幅を捕捉します。

これらの振幅および位相の測定から、群遅延損失、インピーダンス損失、リターンロス、挿入損失の特性など、さまざまなデバイス特性を導き出すことができます。

VNAは、複数のポートで構成される単一装置またはマルチパス装置で、以下のように、任意のポートに信号を印加できます。

  • 2ポート、1パスのVNAは、入力ポート1で反射信号値と送信信号値を返します。ただし、ポート2で逆のパラメータ (および) を取得するには、DUTを反転する必要があります。
  • 2ポート、2パスのVNAは、信号フローを反転させることもできます。つまり、任意のポートで反射係数と透過係数を抽出するために、いずれかの方向で測定を実行できます。

さらに、キャリブレーションが実行される基準面の位置は、VNA測定値に影響を与えます。

測定誤差

測定誤差の原因としては、以下のものがあります。

  • VNAの受信機の周波数応答のわずかな変動による、周波数応答の変動
  • 特性基準インピーダンスとテストポートでの入力インピーダンスのわずかな差によって生じる、ポートインピーダンスの変動
  • 入射波と反射波の一部が互いに衝突し、いずれかの方向の測定に影響を与える方向性の誤差
  • あるポートの入射信号のごく一部が別のポートの受信機チャネルに漏出し、クロストークが発生するアイソレーションの誤差

Sパラメータの可視化

可視化は、Sパラメータデータの解析における重要な最初のステップとなります。位相と振幅のデータは、直交座標または極座標のいずれかでプロットできます。スミスチャートは、整合回路網の解析に使用される極座標プロットです。

Sパラメータの計算を正確に実行するには、エンジニアがRF回路理論をしっかりと理解し、シミュレーションソフトウェアの使用経験があり、かつ信頼性の高い機器を使用する必要があります。

RF回路でのSパラメータの設計

RF回路の設計は、複数回の反復を伴う複雑な作業です。精度、回路の複雑さ、利用可能なツールによってアプローチが決まります。

高周波RF回路でSパラメータを設計する一般的なアプローチのステップを以下に示します。

  • 回路のレイアウト: 回路レイアウト設計では、インピーダンス整合とシグナルインテグリティに注意しながら、回路の素子、伝送線、インターコネクトのトポロジーを検討します。
  • 素子の選択: 要件に応じて、増幅器、ミキサー、フィルタ、およびその他の素子を選択して、ゲイン、電力処理、周波数応答などの特性のバランスを取ります。
  • シミュレーションと最適化: 専用のソフトウェアツールで回路モデル、相互接続、素子の特性、およびその他のパラメータをプログラミングして、シミュレーションされたSパラメータ値を取得します。次に、入力(伝送線の長さなど)を微調整し、帯域幅、ゲイン、インピーダンス整合などの最適なSパラメータ値を得ます。
  • プロトタイプ作製: 必要なパラメータが得られたら、ベクトルネットワークアナライザを使用して回路プロトタイプを作製し、実際のSパラメータ値を測定します。
  • 検証: プロセスの最後のステップとして、VNAのSパラメータ値とシミュレーション値を比較します。不一致があると、回路設計と素子の選択を改善するよう求められ、測定したSマトリクスとシミュレーションされたSマトリクスが一致するまでプロセスを繰り返します。

Ansys RaptorHについて

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そのため、半導体チップにおける電磁結合の特性を評価することが不可欠になります。

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∑_(i=1)^n I_i=0

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