Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
神話やロールプレイングゲームのダンジョンズ&ドラゴンズ(D&D)のファンであれば、「ワイバーン」をご存じかもしれません。ワイバーンはドラゴンに似た、2本の脚、翼、尖った尾を持ち、D&Dや、さまざまな物語では冒険に出る主人公たちにとって危険な生き物として描写されています。
ワイバーンが、宇宙とどう関係があるのでしょうか。Wyvern社では、空を飛ぶモンスターの代わりに、人工衛星とハイパースペクトル画像を使用して、目に見えない地球の真実と呼ばれるものを明らかにしています。Wyvern社の検証および妥当性確認リード兼共同創立者であるCallie Lissinna氏は、次のように述べています。「私たちの究極のミッションは、人類にとってより持続可能な未来を実現する、地球に関するデータを提供することです。」
現在、同社は稼働中のDragonetteコンステレーションを使用して、低軌道(LEO)から高空間解像度の商用ハイパースペクトル画像データを収集しています。そして、この信頼性の高い高品質なデータを、今日の最も重大な課題に取り組んでいるさまざまな業界の専門家に提供しています。
たとえば、気候危機について考えてみましょう。ハイパースペクトルデータは、地球の表面で実際に何が起こっているかを示し、気候変動の原因と症状の両方をより適切に管理するために不可欠となるツールです。その原因の1つは温室効果ガスの排出です。Lissinna氏は、将来的には、衛星によって地球の大気中の温室効果ガスを検出して測定できるようになると述べています。ハイパースペクトルデータを使用すると、リモートパイプラインのガス漏れなどを早期に検出できるため、こうした漏れを修正して、大気に流入する排出量を最小限に抑えることができます。もちろん、それだけではありません。Lissinna氏は、ハイパースペクトルデータを使用することで、時間経過に伴う水域の変化、特定領域における植物種の組成など、さまざまなタイプの気候変動画像も検出できると指摘しています。
もう1つの重要な用途は、農業です。Wyvern社の機械設計リードであるDavid Miller氏は、作物の健康状態と収量に影響を及ぼす環境条件の評価に、同社のデータがどのように役立つかを説明しています。さらに、水や栄養素が必要な場所を正確に特定することで資源配分を最適化し、土地被覆の変化を観察して、主要化学種の健康状態を監視することも重要な用途として挙げられています。Lissinna氏が「2050年には100億人に食料を供給しなければならないため、地球上で私たちが持続可能に成長し続けていくためには、利用できる資源をどのように活用するかを知ることが必要です。」と説明するように、どれも非常に重要な取り組みです。
これらは、Wyvern社の宇宙ベースのハイパースペクトル画像データを活用できるいくつかの領域です。このデータを使用することで、多分野にわたる世界中のリーダーが、地球表面全体の変化を正確かつ精度高く監視して、時には隠された問題について情報に基づいた意思決定を行えるようになります。
ハイパースペクトルカメラの重要性を理解する前に、知っておくべきことがいくつかあります。地表面上のあらゆる物質には分光的特徴があり、Lissinna氏はこれを「化学組成の指紋」と表現しています。ハイパースペクトル画像では、これらの分光的特徴が小さなスペクトルバンドに分解されます。Lissinna氏は、「これらの小さなバンドを使用することで、画像内のすべてのピクセルの化学組成を見ることができる」ため、通常の写真では不可能な詳細まで取得できるようになると説明しています。したがって、これらの画像を使用することで検出および分類能力が向上します。
もう少し詳しく説明すると、一般的なイメージカメラでは、スペクトルは3つのスペクトルバンド(赤、緑、青)に分解され、フルカラーに再構成されて、最終的な画像が生成されます。そのため、通常の写真では、草原は緑色で表現されます。ハイパースペクトル画像では、スペクトルは多数のスペクトルバンドに分解され、追加情報が明らかになります。たとえば、ハイパースペクトルデータでは、緑色の草原ではなく、追加のスペクトルバンドを用いて、水や特定の栄養素が不足している箇所を識別できるように表示されます。ハイパースペクトル画像を使用すると、植物でのクロロフィルの発現など、肉眼では判別できないことも確認できるようになります。
従来型のRGB画像とハイパースペクトル画像の比較(資料提供: Wyvern社)
Wyvern社が開発した最新のDragonetteコンステレーションは、地上サンプリング距離5.3メートルで23個の固有スペクトルバンドを持つハイパースペクトル画像データを生成します。これにより、地表面の固有の化学特性や物理特性を識別できるようになります。これらの画像は、同社のチームによってレベル1B(L1B)に処理され、利用者の既存のワークフローに統合しやすいようにGeoTIFFに変換されます。
同社のチームは、それらの画像を確実に最適化するために、Ansysのシミュレーションを活用しています。
Miller氏は次のように述べています。「当社では、設計サイクル全体でシミュレーションを活用しています。」軌道設計とミッション計画の最初のステップから活用しています。同社のチームは、デジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit(STK)を使用して、さまざまなシナリオを調査し、最も効率的な軌道を決定して、ニーズに見合う最適な人工衛星を決定しています。Miller氏は次のように述べています。「STKは、このプロセスの基盤となります。」
次のステップは、シミュレーションを使用して撮像望遠鏡の設計を最適化することです。宇宙で何か問題が発生しても簡単に修正することはできないため、これもまた、プロセスの不可欠な部分となります。Lissinna氏は次のように述べています。「この機能が宇宙環境で確実に実行されることを検証して、その妥当性を確認するために必要なのはシミュレーションです。」シミュレーションを導入したことで、開発プロセスの早い段階で、設計が要件を満たしていることを確認できます。これは、特に宇宙ミッションの設計から展開までは長い道のりであり、後期の段階でエラーが発見されると、プロジェクトに大きな後れを生じさせることから、極めて重要になります。
Wyvern社のチームは設計を最適化するためにAnsysの複数の製品を採用しました。たとえば、熱を重視したモデリングソフトウェアであるAnsys Thermal Desktopを使用して、望遠鏡の熱解析を実行しました。Lissinna氏とMiler氏は、どちらも宇宙の過酷な熱環境について強調していますが、実際にこの熱環境によって多くの課題が生じています。たとえば、軌道の半分は直射日光にさらされるため、熱に耐える必要があり、残りの半分は地球の影になるため、極端な低温に耐える必要があります。
Miller氏は、過酷な環境に耐える必要がある高感度な機器であるハイパースペクトル望遠鏡の熱解析を実行することの重要性を強調して、次のように述べています。「熱に関連する問題を解決するには、強力なシミュレーションツールが必要です。その点で、Ansys Thermal Desktopは大きな役割を担っています。さまざまな条件下で望遠鏡がどのように機能するかを理解するために、さまざまなケースを調査する必要があるため、シミュレーションを常に実行しています。」
Ansys Mechanicalで実行したミラーのシミュレーション(資料提供: Wyvern社)
構造有限要素法解析ソフトウェアであるAnsys Mechanicalを使用することで、望遠鏡の構造擾乱をシミュレーションできます。Mechanicalでは、わずか数ナノメートルの変形が設計にどのように影響するかを調査できます。さらに、複雑な材料選定プロセスには、材料選定ソフトウェアであるAnsys Granta Selectorを使用しています。Grantaを使用することで、膨大な数の材料から、設計上の制約に最適な材料を見つけることができます。設計プロセスの早い段階でGranta Selectorを使用し、利用できる多数の材料を調査して、優れた候補となる材料を選択しています。 Miller氏は次のように述べています。「Grantaのカスタム材料特性のインデックスとフィルタは、材料候補を絞り込むのに役立ちます。」設計プロセスの後半では、伝熱および構造シミュレーションでGrantaの広範な材料データを使用します。
最後に、同社の光学システムの設計では、光学系の設計および解析ソフトウェアであるAnsys Zemax OpticStudioを使用しています。光学部品を正確に調整するための制御システムを開発し、すべての解析を組み合わせて、望遠鏡の光学性能にどのような影響を及ぼすかを確認します。
これらの異なるシミュレーションの結果を組み合わせることは、プロセスにおけるもう1つの重要なステップです。Miller氏は次のように述べています。「設計を進める上で、すべてのツールが連携して機能することが重要です。」こうした優れた統合ツールを使用することで、同社のような小規模なチームは特に、作業に大きな自信を持って取り組むことができます。
Wyvern社は、設計および開発プロセス全体を通じて、シミュレーションを活用して効率を高め、自動化されたワークフローを確立して、コストを節約しました。Lissinna氏は次のように述べています。「スタートアップ企業として、常に資本効率を高める必要があります。シミュレーションは、重要な機能をより手頃な価格で検証できる方法です。」また、Ansysスタートアッププログラムに参加して、製品を迅速かつ効率的に開発するために必要となるツールにアクセスすることができました。
これまで説明してきたシミュレーション解析は、Wyvern社が物理的なプロトタイプを製作してテストを開始する前に実行されますが、シミュレーションはそれで終了するわけではありません。Miller氏は次のように述べています。「テストを進めて、実際に飛行するまで、これらのシミュレーションツールを使用してテストの妥当性も確認しています。飛行中は、STKを引き続き使用してリソースなどを計画し、運用を最適化します。」同社は、できる限り多くの画像を収集し、お客様にプラスの影響となるようにするという目標を達成するためにSTKを使用し、限られたリソースの中でどのように必要な画像を戦略的に収集・優先するかを考慮しています。これは非常に重要です。なぜなら、性能を確保するためには衛星の軌道を常に監視して性能を保証する必要があり、適切な場所とタイミングで画像を撮影できることは同社のお客様にとって有益となるからです。
シミュレーションは、現在のワークフローだけでなく、今後の運用においても同社のプロセスにとって不可欠な要素となっています。Lissinna氏は、「シミュレーションツールは、エンジニアリングパズルのさまざまなピースをつなぎ合わせる」と語るように、シミュレーションは、システム性能を最適化するのに有用です。
シミュレーションソフトウェアを使用しているWyvern社のチーム(資料提供: Wyvern社)
ここで説明したことは、Wyvern社が提供しているサービスのごく一部にすぎません。同社はすでに次のフェーズに向けて準備を進めています。
その1つは、より広いスペクトル範囲と高い解像度でより適切なデータを提供する次世代衛星の開発と打ち上げです。この次世代衛星では、より広い範囲の材料や化学的特徴を検出できるようになります。これらの衛星が既存のコンステレーションに加われば、より高い周波数でさらに多くの画像を撮影できるようになり、新製品も提供できるようになります。
Miller氏は、将来的には、ハイパースペクトルデータを使用して月や太陽系の他の惑星を調査する可能性もあると述べています。Lissinna氏は次のように述べています。「長期的には、人類が太陽系に進出するの支援するために、他の惑星を周回する衛星を軌道上に展開したいと考えています。」Wyvern社は、今後もシミュレーションを活用して、同社が目指すビジョンを実現することを目指しています。
シミュレーションがどのように固有の目標を達成するのに役立つかについて、詳細をご覧ください。
Ansys Advantageブログでは、専門家が投稿した記事を公開しています。Ansysのシミュレーションが未来のテクノロジーにつながるイノベーションをどのように推進しているかについて最新の情報をご覧ください。