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宇宙機オペレーターがシミュレーションを使用してスペースデブリを回避する方法

4月 02, 2025

1:00 Min

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Caty Fairclough | Ansys、企業コミュニケーションマネージャー
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地殻深くにある鉱石から作られた宇宙機が、17,000mphの速度で地球から離れて低軌道(LEO)を通過します。LEOは地球を取り囲む、かつては何もない広大な空間でしたが、現在は打ち上げられた衛星やスペースデブリで混雑しています。スペースデブリは、打ち上げロケットから切り離された上段、使用されなくなった衛星、そして偶発的な衝突による残骸まで、多岐にわたります。

Space-Track.orgによると、現在、約11,000個のアクティブペイロードと17,700個の解析対象物体が軌道上を周回しています。スペースデブリに関しては、その数を特定するのは極めて困難です。たとえば、Space-Track.orgでは、軌道上に約19,000個のスペースデブリが存在していると推定していますが、NASAのOffice of Safety and Mission Assurance(OSMA)では、10cm以上の軌道上のスペースデブリが21,000個以上存在していると推定しています。LEOには、追跡するには小さすぎる大量のデブリも含まれていますが、それらが宇宙機と衝突すれば大きな損傷を引き起こすこともあります。

具体的な数に関係なく、宇宙産業にとってスペースデブリが今後も大きな問題となることは明らかです。AnsysのApplication Engineer IIであるAlex Lamは次のように述べています。「スペースデブリは、その問題の規模が非常に大きいため、解決が非常に難しい問題となっています。NASAの商用宇宙計画では、LEOは地球の表面から100~2,000kmの範囲で1兆立方キロメートル以上の体積をカバーする領域として定義されています。このような広大な領域でスペースデブリの一片を検出して追跡することは、地球と同じ大きさの干し草の中から針を見つけるようなものです。それに加えて、その針は17,000mphの速度で移動し続けています。」このように、デブリを見つけることは、LEOのデブリや衛星の数が増加するにつれて、ますます困難になるでしょう。

将来的には、このデブリの増加が壊滅的な影響を及ぼすかもしれません。1970年代に、NASAの科学者であるDonald Kessler氏が、現在は「ケスラーシンドローム」と呼ばれる理論を提唱しました。この理論では、衝突する2つの物体によってデブリが生じ、それが軌道周回している他の物体と衝突して、さらに多くのスペースデブリが生じることで、宇宙で連鎖的に衝突が起こる危険性があると予測しています。このシナリオはLEO全体に連鎖して広がり、地球の周りに、打ち上げられた衛星や宇宙機から生成された危険なデブリで構成された、ほぼ通り抜け不可能なデブリ帯が形成され、将来の宇宙ミッションを妨げる可能性があります。

ケスラーシンドロームにはまだ到達していないものの、この厳しい予測は宇宙での衝突回避の緊急性を指摘しています。しかし、これは容易な取り組みではありません。

地球の周りで軌道周回する物体は非常に高速で移動し、その移動経路も制約されていません。そのため、ペンキの粒などの小さなデブリでも、ケスラーシンドロームを引き起こし、宇宙ミッションが遂行できなくなる可能性があります。しかし、衝突のない軌道を維持するには、独自の課題が伴います。また、エンジニアは燃料節約を優先し、宇宙機と地球の通信センターとの間の通信遅延を回避しなければならず、これによって問題に迅速に対応できなくなります。こうした問題は、地球の有限軌道がますます混雑するにつれて、さらに複雑さを増します。

では、宇宙産業はこれらの課題にどのように取り組んでいるのでしょうか。

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他の衛星との衝突を回避するための宇宙でのデブリ衝突のモデリングと衝突後の破片の飛跡追跡を示すシミュレーション例

宇宙での衝突を回避および管理するために採用される技術

多くの人工衛星やスペースデブリが存在し、ますます混雑しているLEOを航行する宇宙機の例に戻りましょう。

宇宙機の経路は、既存の安全運用プロトコルや規格(「NASA Spacecraft Conjunction Assessment and Collision Avoidance Best Practices Handbook」など)を使用して計画することができますが、こうしたガイドを使用しても、宇宙機のオペレーターが聞きたいすべての質問やシナリオの答えを得ることは不可能です。また、定められたガイドは、デブリや衛星の位置についての最新情報を反映しているわけではありません。こうした知識のギャップを埋めるために、ベストプラクティスや衛星およびスペースデブリの位置に関する最新情報を入手する必要があります。最新情報に基づいて、これらの物体との衝突を回避するための最善の行動方針を決定しなければなりません。

その目標を達成するために、宇宙機のオペレーターは宇宙状況把握(SSA: Space Situational Awareness)および宇宙領域把握(SDA: Space Domain Awareness)を利用できます。宇宙機のオペレーターは次のことを行えます。

  • SSAを使用して物体とその動作環境を追跡し、事前に警告を受けて、衝突回避操縦(CAM: Collision Avoidance Maneuver)を実行する
  • SSAを踏まえてSDAを使用し、宇宙物体の意図する振る舞いを特性評価して、それらをより適切に回避する

SSAとSDAの両方が適切に機能するには、高度な追跡システム、正確なデータ、予測アルゴリズム、そしてデータ統合ツールを使用する必要があります。

近年、SSAおよびSDA技術の採用が増えてきました。米国においてSSAが請け負う責任が米国宇宙コマンドから商務省に移行している理由として、「商用宇宙の価値と、従来の防衛目的を超えてよりオープンにデータ共有を行うことの価値が認識されている」ためであると、Lamは説明しています。また、SSAの商業価値への関心が高まっており、従来の地球軌道を超えてSSAとSDAを拡張する必要性が認識されています。

SSAとSDAは宇宙の未来を支える重要な技術ですが、必要な技術はそれだけではありません。たとえば、軌道上で宇宙機に燃料を補給する必要がある場合はどうなるのでしょうか。この場合は、軌道上での操縦性とサービスを実現する能力が必要です。

地球から数百マイル離れた位置で動作する宇宙機に燃料を補給する方法の1つは、宇宙空間でのサービス、操縦性、製造(ISAM: In-space Servicing, Maneuverability, and Manufacturing)です。ISAMは、宇宙機が部品の修理、交換、アップグレード、デブリの除去、そして燃料補給を行えるようにすることで、宇宙機のミッション寿命を延ばします。ISAMの一環として、宇宙機は、再配置、ドッキング、修理、燃料補給、またはその他のミッション拡張活動をさらに可能にするために、ランデブーおよび近接操作(RPO: Rendezvous and Proximity Operation)を実行することもあります。この技術の一例として、「Astroscale社などの企業は、積極的なデブリ除去を宣伝し、ミッション延長のために現場検査でRPOを実施している」と、Lam氏は述べています。

こうした比較的新しい技術は、宇宙機オペレーターが利用できるツール群には不可欠ですが、完全であるとはいえません。一般的な課題として、以下のものがあります。

  • 運用に柔軟性をもたらしつつ、複雑な軌道領域での航法を可能にする高度なソフトウェアを見つける
  • 適切なロバスト性と高い精度を備えた低遅延の追跡システム、予測アルゴリズム、データ統合ツールを開発する
  • 異なるソースからのデータを正確に組み合わせる
  • ISAMやRPO用の自動運転技術など、革新的で信頼性の高い技術を開発する
  • 宇宙機の設計を改善し、打ち上げから寿命終了時の軌道離脱プロセスまでのデブリの生成を最小限に抑える
  • 革新的なデブリ除去技術を開発する
  • スペースデブリに関する広く採用された包括的な国際規制、ポリシー、および規格を開発する

これらの課題を解決することは、ミッション成功率の向上に大きな影響を与えます。そのため、エンジニアはこの分野の差し迫った問題を解決するために、Ansysのシミュレーションを導入しています。

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ランデブーおよび近接操作(RPO)サポートのシミュレーション解析

Ansysのシミュレーションを使用した障害物回避の強化

SSAとSDAは、宇宙ミッションの成功の基盤となります。Ansysのシミュレーションは、エンジニアがこれらの解析を効率的に実行し、衝突リスクを最小限に抑えられるように開発されました。

たとえば、Ansysのテクノロジーを使用することで、製造段階が始まる前に、SSAシステムのさまざまな設計候補を評価することができます。Lamによれば、これには「特定のシステムの能力を最大化するレンズ、ミラー、検出器を設計」するために使用するAnsys Opticalポートフォリオや、「アンテナの設計、ビームフォーミング法の開発、さまざまな形状やサイズのデブリに対する期待される性能の特性評価」のために使用するAnsys Electromagneticsポートフォリオも含まれるとのことです。また、これらのシミュレーションツールを使用して、システムを展開する前に人工知能(AI)/機械学習(ML)アルゴリズムのトレーニングデータを生成することもできます。

展開されたSSAおよびSDAシステムについては、エンジニアやオペレーターは、軌道測定処理ソフトウェアであるAnsys Orbit Determination Tool Kit(ODTK)使用して、現実的な共分散を有するエフェメリスを生成するために、協調的および非協調的物体の入力測定を処理できます。さらに、デジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit(STK)を使用することで、さまざまな宇宙物体の間の衝突確率を確認できます。この解析で得られた知見に基づいてCAMが必要であることが示された場合、エンジニアやオペレーターは、燃料効率を最大化しながら衝突リスクを最小限に抑える最適な操縦を計画できます。衝突が発生した場合は、Ansys LS-DYNAマルチフィジックスソルバーをSTKおよびODTKと組み合わせて、衝突ダイナミクスを再現したフォレンジック解析を実行することで、結果として生じるデブリ場とその影響をより深く理解できるようになります。また、シミュレーションを使用して、軌道候補を動的に解析および比較し、軌道を決定することもできます。

RPOとISAMに関しては、シミュレーションによって「飛行前に試す」機能が提供されると、Lamは述べています。「シミュレーションを導入することで、非常に高価な2つの衛星を実際に操縦して接近させる前に、リスクを軽減し、接近アプローチがどのように実行されるのかを正確に理解できるようになります。」

エンジニアは、以下を使用して、これらの解析にシミュレーションを適用できます。

宇宙における衝突回避の展望

SSAとSDAについて、Lamは次のように述べています。「これまでよりも優れた望遠鏡と強力なレーダーを開発することで、宇宙にある物体を検出して追跡する機能が向上することを目指しています。複雑さが増しているSSA/SDAシステムには、最大限の性能とアップタイムが要求されます。」RPOやISAMを伴う運用では、誤差の余地は極めて小さく、すべてのシステムが公称どおりに動作することを保証するための作業負荷が高くなります。

これらの技術が成長して行く中で、シミュレーションは、「これらの新しい技術が稼働環境に展開される前に厳しい要件を満たしていることを確認し、プログラムのリスクとコストを削減できるようにするために」引き続き必須ツールになると、Lamは述べています。さらに、シミュレーションを使用することで、衛星オペレーターが使用するAI/MLアルゴリズムのトレーニングデータも生成でき、シスルナ圏など、現在新しい研究が進められている未開拓の軌道レジームのためのソリューションを評価できるようになります。

地球を周回する軌道上の宇宙機を保護することは、接続性やリソースの監視などの既存サービスだけでなく、今後数年間で新たに登場する革新的な用途にとっても不可欠となります。この長期的な信頼性を得るためには、SSA、SDA、ISAM、RPO、およびその他の保護技術が、さまざまな惑星への旅の最前線にあることが必要です。

詳細はこちら

Ansysの宇宙に関するドキュメンタリー「Simulating Space」のプレビューをご覧ください。


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「シミュレーションを導入することで、非常に高価な2つの衛星を実際に操縦して接近させる前に、リスクを軽減し、接近アプローチがどのように実行されるのかを正確に理解できるようになります。」

— Alex Lam(Ansys、Application Engineer II)


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シニアマーケティングコミュニケーションライター

Caty Faircloughは、マーケティングおよびコミュニケーションチームのリーダーとして10年の実績があります。高度な技術を扱う組織のコンテンツチームを管理し、事業や業務を推進させる方法に関する記事も執筆してきました。現在は、Ansysのシニアマーケティングコミュニケーションライターとして、航空宇宙および防衛(A&D)業界で導入されている高度なエンジニアリングシミュレーションを紹介し、広く普及させることに尽力しています。

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