Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
初期のロケット打ち上げ時代では、軌道投入能力の開発に何年もの歳月と莫大な費用がかかりましたが、ロケット(とその上段)は完全に使い捨て型でした。1段目である推進ブースターは、大気圏で燃え尽きるか、あるいは海に落下するよう設計されていました。一方、ペイロードを搭載した2段目は、スペースデブリとして軌道上に放出されるか、再突入時に燃え尽きることが一般的でした。月面着陸や他の惑星の探査を目的とした初期の宇宙ミッションの多くは、使い捨て型として設計されていました。エンジン、構造物、そしてアビオニクスは、大気圏再突入の極端な温度に耐えることができず、修理や再利用も不可能でした。
しかし、宇宙経済は進化を続けており、2035年には宇宙経済が1.8兆ドルに達すると予想されています。新しいロケットを繰り返し製造することは、経済的にも環境的にも実現可能な選択肢ではありません。また、従来のロケット製造方式では、迅速かつ確実な宇宙へのアクセスに対して高まる需要に対応できず、商業・軍事の両分野における打ち上げの高頻度化といった要請にも対応しきれません。その結果、現在私たちは新しいかたちの宇宙競争を目の当たりにしています。企業は、完全に再利用可能なロケット技術と軌道上での動的な宇宙運用における次のブレークスルーを目指し、市場の主導権を握るためにしのぎを削っています。
その挑戦者の1つがStoke Space社です。ワシントン州ケントに拠点を置くこのスタートアップ企業は、打ち上げロケットの1段目と2段目の両方を含む、完全かつ迅速に再利用可能な打ち上げシステムに取り組んでいる数少ない企業の1つとして、さらに高い目標を掲げています。同社が開発した100%再利用可能な中型ロケットは、現在の部分的な使い捨ての時代から、軌道までのアクセスコストを数桁削減することを目標として、地球と宇宙の間そして宇宙間でのアクセスを提供します。
Stoke Space社は、民間企業および政府機関とパートナーシップを結んでいます。同社は、ベンチャー基金として5億ドル近くの資金を調達し、完全に再利用可能なNovaロケットで複数回の商用打ち上げを販売してきました。
また、国防イノベーションユニット(DIU: Defense Innovation Unit)からは、「新しい再突入ロケットおよび手法を用いて軌道までのポイントツーポイントの正確な発射と応答性を可能にする商用ソリューション」を推進するための賞金として450万ドルの資金を受け取っています。DIUは、商用および軍民両用技術の採用を加速させ、運用上の課題を迅速かつ大規模に解決することに焦点を当てた、アメリカ国防総省(DoD: Department of Defense)の組織です。Stoke Space社は、DIUからの賞金に加えて、戦術的応答性の高いアメリカ宇宙軍の作業指令をサポートするOSP-4 IDIQ契約も締結し、エネルギー省(DOE: Department of Energy)との研究作業も進めています。
Stoke Space社のテストタンク。資料提供:Stoke Space社。
Stoke Space社のNovaロケットは、飛行の全段階で動的な操縦性を実現するように設計された再利用可能な上段を備えています。この新しい上段技術は、衛星やその他の宇宙アセットを再配置するための宇宙内モビリティソリューション、月面基地や火星ミッションなどのさまざまな目的地にペイロードを届けるソリューション、そして微小重力環境で製造された材料、機器、コンポーネントを地球に持ち帰る「ダウンマス」と呼ばれる機能を実現するために採用されています。これらの活動が完了すると、上段は再突入時の激しい熱環境を安全に通過して、推進力を用いて地球に垂直に着陸します。そしてその後短期間で改造され、再び打ち上げられます。
Novaロケットの2段目は、ミッションごとにカスタマイズした直接的かつオンデマンドの軌道アクセスを実現します。一般的に、2段目は1段目よりも複雑で高価であるため、再利用が可能になれば、全体的な打ち上げコストを大幅に削減できます。また、再利用可能な2段目は、ミッションの頻度と種類を増やすことにもつながります。深宇宙探査のような意欲的なミッションでさえ、重いペイロードをより手頃な価格で打ち上げられるようになります。
最終的には、長期間にわたるダウンタイムなしにロケットを再利用できることで、実施可能なミッションの数も増加します。固定費をより多くの打ち上げ回数に分散することで、コストが削減され、ペイロードを扱う企業は独自技術とコアミッションにコストをかけることが可能になります。
民間航空機のような高い頻度で運用できる再利用可能なロケットを開発することは容易ではありません。この課題は、今日の航空宇宙における最大の課題のひとつです。こうした打ち上げロケットは、極端な熱環境、極めて高い内圧、高周波振動、突然の衝撃に耐える必要があります。また、宇宙に到達できる性能、燃料を節約できる効率性、限られた改修で複数回使用できる十分な信頼性も不可欠です。
こうした性能は運用現場でテストして検証する必要がありますが、Stoke Space社のCOOであるKelly Hennig氏は、開発初期にシミュレーションを導入することで基本的な故障モードを排除でき、エンジニアはより早い段階からテストにとりかかり、実際のデータに基づいて開発を進められるようになると説明しています。
Hennig氏は、この段階では「コンピュータ支援設計(CAD)と解析のシームレスな統合、高速なメッシュ生成、高速な解析が不可欠となりますが、Ansysはこれらの領域において非常に優れています。」と述べています。
こうした理由から、Stoke Space社のチームは、打ち上げシステム全体に対して構造有限要素法解析ソフトウェアのAnsys Mechanicalを使用し、ペイロード環境の解析には熱を重視したモデリングソフトウェアであるAnsys Thermal Desktopを使用するなど、Ansysのシミュレーションを広く活用しています。リードエンジニアであるJohn Ziadat氏は、ハードウェアの信頼性を高めることの重要性に関して、次のように述べています。
「飛行中に熱、圧力、慣性などのさまざまな荷重がハードウェアに与える影響を把握するために、開発のあらゆる段階でAnsysのシミュレーションを使用してきました。」
政府業務部門の責任者であるScott Zweibel氏は、シミュレーションを導入することで、同社がミッションの各段階で要件を満たすことを保証できると付け加えています。これには、ロケットに組み込まれたエンジンと熱シールド(推進力と保護をもたらす独自システム)を再突入時に安全に保つことも含まれます。
2024年12月に実施されたStoke Space社のNovaロケットの第1段エンジンの垂直試験。資料提供:Stoke Space社。
宇宙船にとって、地球の大気圏を安全に再突入することは最も要求の厳しいフェーズの1つです。この重要な段階では、ロケットの構造やシステムに悪影響を及ぼすような極端な熱と圧力を管理しなければなりません。Stoke Space社は、Ansys Mechanicalを使用して、安全な再突入を保証するために徹底的な熱応力解析を実行しました。これにより、「世界で最もロバストであり、唯一の能動的に冷却できる再突入熱シールド」を開発できました。
高温に耐え、熱を吸収できる性質を持つ材料に依存する、探査機や宇宙カプセル用の従来型の再突入熱シールドとは異なり、同社の熱シールドは能動的に自己冷却するように設計されています。具体的には、回生冷却システムにより、推進剤がシールド内の冷却流路を通過し、燃焼室とノズルから熱を吸収してタービンを駆動し、燃料と酸化剤のポンプに動力を供給します。熱シールドの周囲に組み込まれたスラスタは、再突入時の上段の操縦性と制御をもたらします。
高温耐性に優れているが壊れやすいセラミックタイルによる多くの宇宙船シールドとは異なり、同社が開発したシールドは金属製です。これにより、延性とロバスト性が向上し、ミッション間の改修が少なくてすみます。
Novaロケットの熱シールドは、Novaロケットを差別化する要因の1つにすぎません。その第1段エンジンは、全流量型段階燃焼(FFSC: Full-Flow Staged Combustion)サイクルを採用しています。これは、相互接続された多数のコンポーネントで構成される複雑なアーキテクチャを備えた高性能で高効率な設計です。
Stoke Space社のチーム。資料提供:Stoke Space社。
予想と現実のギャップを埋める
2024年12月、Stoke Space社は、所有するワシントン州モーゼスレイクの試験施設にある新しい垂直試験台で、Novaロケットの第1段エンジンのホットファイアを実行しました。ホットファイアとは、運用環境に極めて近い飛行条件下で推力、燃料消費量、全体的な機能性を含むエンジンの性能を検証するために、試験台に設置したテストロケットを点火する試験です。
これはZenith FFSCエンジンとしては初の垂直ホットファイアでしたが、
実際の運用環境を再現し、予測されたハードウェア性能と実際のハードウェア性能の差を最小限に抑えることを目的とした一連の試験の最後に実施されました。
Hennig氏は、このギャップを埋める上でAnsysのソフトウェアが重要な役割を担ってきたと述べています。
「開発が進むにつれて、構造力学、熱、流体、音響など、非線形の問題や分野を扱うことができるようになるAnsysのソフトウェアの優れた機能は重要性を増します。Ansysの統合された包括的なシミュレーションを使用することで、実機試験が予想どおりの結果をもたらし、開発から実際の適応への移行をよりスムーズかつ信頼性高く行えるようになります。」
また、エンジニアは、Ansysのシミュレーションを使用することで、ハードウェアが機能するかどうかだけでなく、その理由も理解して、変化するパラメータやミッション要件に適応できるようになります。
Ansysのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)はAmazon Web Services(AWS)と統合できるため、Stoke Space社は費用対効果の高い方法で大規模なコンピューティングリソースを利用できるようになり、設計プロセスをスピードアップできます。Ziadat氏は、ローカルマシンで数日以上かかっていた解析が数時間で完了すると語ります。
Hennig氏は次のように述べています。「スピードをもって開発することは必須ですが、それを実現する唯一の方法がデジタルシミュレーションです。Ansysのソフトウェアを導入したことで、複数の設計反復が可能になり、テスト後にモデルを更新して、仮定内容を理解し、それらが正しいかどうかを確認できます。そして、それを素早く繰り返すことができます。」
新しいロケットを開発する競争において、このスピードは間違いなく大きな利点です。
Ansys Advantageブログでは、専門家が投稿した記事を公開しています。Ansysのシミュレーションが未来のテクノロジーにつながるイノベーションをどのように推進しているかについて最新の情報をご覧ください。