Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
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Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
現在、何隻の船が海を航行しているのでしょうか。
正確に把握するのは不可能のように思えるかもしれません。地球の海の表面積はおよそ1億3900万平方マイルですが、海運業界では、船に搭載された船舶自動識別システム(AIS)を用いて、船を個別に識別することができます。AISは、その名前が示すように、船舶の自動追跡、モニタリング、データ交換を行うための装置です。多くの国や国際海事機関(IMO: International Maritime Organization)などのグローバルな組織では、海洋全体での人の活動に関する幅広い知識を取得できるAISの使用を義務付ける具体的な規則が定められています。
もし、これらの規制に準拠せず、AISを介して船舶の場所を共有しない場合はどうなるでしょうか。そうした船舶は、「ダークシップ」、「ダーク船舶」、あるいは「ダークフリート」と呼ばれ、従来の追跡手法では検出できません。
ダーク船舶は、こうした監視を逃れて、海洋環境、地域経済、世界の食料安全保障に害を及ぼす違法、無報告、および無規制(IUU: Illegal, Unreported, and Unregulated)漁業活動を行うこともあります。IUUは広く問題となっており、ある調査によると、商業漁業の72~76%が追跡できていないと報告されています。
このようなダーク船舶に対処するためには、地球観測衛星を使用するなど、別の追跡方法が必要となります。MDA Space社のジオインテリジェンス部門の責任者であるMinda Suchan博士は次のように述べています。「地球観測技術は、宇宙経済の非常に重要な側面です。地球上では見ることが出来ず、宇宙からなら見えるものもあります。」Suchan博士は、地球観測衛星によって生成されたレーダー画像でダーク船舶がどのように見え、追跡できるか、そしてこの技術が国際社会で重要となる理由について説明しています。
ダーク船舶は、地球観測が重要な機能である多くの理由の1つにすぎません。この技術は、鉱業、林業、環境など他の分野でも活用が可能です。たとえば、氷マッピングを使用して、気候変動の影響を監視する機関もあります。
MDA Space社は、50年以上にわたって世界をリードする宇宙技術の開発と、450回以上のミッションを実施してきた豊富な経験を活用し、用途に関わらず、重要なグローバル課題に対処しています。同社の広範な事業には、通信衛星、宇宙観測、宇宙探査、インフラ事業などが含まれています。長年にわたる幅広い研究を通じて、同社は「実証された技術と実現可能性のある技術間のギャップを埋めることができる」とSuchan博士は述べています。同社が開発し、実績のある製品の1つがRADARSAT-2衛星です。これは、ダーク船舶の検出やIUU漁業など、さまざまな問題を解決するために活用できます。
RADARSAT-2ミッションの一例として、自国内のダーク船舶調査を例に挙げます。このケースでは、ダーク船舶が航行していると疑われる場所の特定の時間の画像が求められています。MDA Space社はRADARSAT-2衛星に対して、非常に正確な軌道を維持しながらデータを収集し、ターゲット領域を撮影し、データを受信後、解析して、より具体的で実用的な情報を提供するように指令を出します。
RADARSAT-2は、必要なデータを生成するために衛星の底部に搭載された、極めて重要なセンサー技術である合成開口レーダー(SAR)アンテナを使用しています。
MDA Space社のRADARSAT-2ミッション責任者であり、カナダ宇宙庁(CSA)に配属されているCasey Lambert博士は、このSARアンテナはコヒーレントなレーダー信号を地上に送信し、反射して衛星に戻った信号を測定する、と説明しています。この測定値は、以下の例のように、衛星が観測している領域の画像を作成するために使用されます。
RADARSAT-2による運送船の画像。資料提供: MDA Space社。
Lambert博士は、SARは「非常に汎用性の高い衛星画像ツール」であり、光学画像では不可能なことも実現できると述べています。たとえば、SARは、雲、煙、暗闇など、視認性の低い条件でも「見る」ことができ、ダーク船舶のような物体を観測することができます。また、SARを使用して、地動を観測したり、「気候モニタリングを通じて、小さいながらも定常的な変化」を観察することもできると、Suchan博士は説明しています。
RADARSAT-2ミッションで使用されるSARのもう1つの利点は、24時間365日機能し続け、広い領域を一度に調査できることです。Lambert博士は次のように述べています。「衛星は100分で地球を1周しているため、毎日地球上の広い領域をカバーして、地上を撮影することができます。」具体的には、これらの衛星は最大500キロメートルのスワス幅で監視できるとSuchan博士は説明しています。
RADARSAT-2ミッションは現在も優れた性能を発揮していますが、MDA Space社はサービスを常に最適化し、進化させることで、さまざまな星に向かうミッションの実現を目指しています。Suchan博士は次のように述べています。「これまでもさまざまな点を改善してきました。」これらの改善点には、スワス幅の拡大、画像解像度の向上、データ送信時間の短縮などがあります。
その他の改善点として、軌道上で再プログラミングできる機能があります。MDA Space社はすでに宇宙空間にある衛星を活用して、将来のミッションニーズを満たすことができます。
Suchan博士は次のように述べています。「軌道上で再プログラミングできるため、現在宇宙空間にある衛星に対して、地球から変更を加えることも可能です。」その一環として、同社は次世代ミッションであるMDA CHORUSを開発しています。これは、実証済みのRADARSAT技術の向上と新技術を基盤としています。同社は、このマルチセンサー衛星コンステレーションを使用して、改善されたレーダー画像を提供する予定です。
MDA Space社では、継続的に改善を行い、より早いペースでイノベーションを行えるように、シミュレーションを活用しています。
Suchan博士は次のように述べています。「シミュレーションは、衛星を開発して、宇宙でどのように動作するかを理解する上で重要な役割を担います。現時点で何ができるかを理解するだけでなく、将来のビジョンや計画プロセスをサポートするためにとても重要です。」
その例として、RADARSAT-2衛星を考えてみましょう。MDA Space社のチームは、現在のルーチン運用を実行するために、衛星が非常に高い信頼性で常に動作していることを確認する必要があります。そのために、このチームでは軌道測定処理ソフトウェアであるAnsys Orbit Determination Tool Kit(ODTK)とデジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit(STK)を導入して、「毎日確実に動作し、運用を継続すること」を目指していると、Lambert博士は述べています。シミュレーションは、RADARSAT-2ミッションの全期間を通して必要とされる、絶え間ない進歩をサポートするのにも役立ちます。Lambert博士は次のように述べています。「継続的な改善という点では、宇宙でハードウェアを変更することはできませんが、地上にあるものを改善することはできます。」
同社のチームは、精度と効率を向上させるために、STKとODTKを使用しました。Lambert博士は次のように述べています。「Ansysのシミュレーションは、RADARSAT-2ミッションのために当社が開発していた軌道決定製品の改善にも役立ちました。軌道精度を向上させることで、小さな地盤移動に対する感度を向上させることができました。これは、ミッションの初期段階と比べて、大きな進歩です。」これらの改善により、製品の価値を高めることができました。たとえば、軌道精度を1桁近く向上させたことで、数センチレベルの地盤移動を検出できるようになりました。
改善や進歩はそれだけではありません。同社は、ソフトウェアアップデートを通じて、地上から軌道精度を継続的に向上させることができます。また、「STKとODTKを使用して、軌道決定プロセスを自動化することもできました」とLambert博士は説明しています。その結果、計算時間を50%短縮でき、信頼性が大幅に向上しました。
MDA Space社の次世代地球観測コンステレーションであるMDA CHORUS。資料提供: MDA Space社。
シミュレーションは、デュアルバンドSAR衛星であるMDA CHORUSコンステレーションの開発にも役立ちます。Suchan博士は次のように述べています。「コンステレーションにとりかかろうとする場合、シミュレーションがさらに重要になります。」
MDA CHORUSは2つの衛星で構成されています。1つ目の衛星は、最大700kmのスワス幅でCバンド広域画像を撮影します。この衛星は、より小さなスワス幅とより高い解像度を備えた2つ目のXバンド衛星によって追跡されます。これらの衛星を組み合わせることで、Cバンド衛星で収集した広範なデータを使用し、Xバンド衛星を使用してより詳細に調査したい内容を決定できます。
これらの衛星間の時刻を最適化し、デュアルバンド設計の独自機能を最大化する方法を見つけることが、シミュレーションの役割です。Suchan博士は次のように述べています。「シミュレーションは、異なる衛星を管理する方法だけでなく、2つの衛星間の動作を最適化する方法においても重要な役割を果たします。」
MDA Spaceの取り組み全体を通じて、「シミュレーションデータを使用すると、非常に効率的になり、慎重に計画を立てることで、画像撮影の機会を最大化できる」とSuchan博士は述べています。
MDA Space社のさらなる技術改善に影響を及ぼす業界トレンドの1つが、人工知能(AI)です。AIは、「バリューチェーン全体に影響を及ぼすような優れた機能を備えている」とSuchan博士は述べています。AIの優れた機能により、同社の設計、生産、製造、解析プロセスの効率が向上します。Suchan博士は、同社のチームはすでにAIを導入して、100万を超えるレーダー画像が含まれているアーカイブの自然言語検索を構築していると語ります。この機能により、専門知識がない場合でもデータを探し出し、画像から情報を得て、SARの価値を引き出せるようになります。
同社は、AIやソフトウェア制御される衛星などの成長著しい技術を活用することで、世界の宇宙経済をリードしていくでしょう。Suchan博士は次のように述べています。「信頼できるミッションパートナーとしての当社の役割を、今後より一層拡大する機会が多くあると感じています。」
この成長は、ますます拡大するSTEMコミュニティによっても一層促進されるでしょう。Suchan博士は次のように述べています。「人材は、宇宙産業にとって常に重要であり、当社の中核です。」MDA Space社の中核となる人材は、さまざまな発想を持つ、多岐にわたる分野のエンジニアたちで構成されています。エンジニアたちは、半世紀以上にわたって使用されている実証済みの複雑なシステムを開発してきました。宇宙経済は、これからもエンジニアの取り組みによって支えられていくでしょう。
Ansys RF Channel ModelerでRF信号解析をどのように拡張できるかをご覧ください。
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