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シミュレーションで宇宙ミッション解析および設計を推進

4月 02, 2025

1:00 Min

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Caty Fairclough | Ansys、企業コミュニケーションマネージャー
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ロケットを打ち上げ、衛星を目的地である低軌道(LEO)に投入する。探査機を月に着陸させ、無人探査機を太陽系の遠方へと送り出す。こうしたミッション開始前に、プロジェクトを担うエンジニアや研究者は、宇宙ミッション解析および設計(SMAD)を行う必要があります。

SMADは、要件やミッションパラメータから、ロケットの設計、採用される技術、テストまで、宇宙ミッションのすべての要素をカバーします。SMADの根本的な目標は、コストとリスクを抑えながらミッションの目標を達成することです。この目標は極めて重要です。なぜなら、宇宙ミッションはますます複雑かつ長期になり、コストも増大しているためです。

Microcosm社の代表であり、南カリフォルニア大学の航空宇宙工学科の非常勤教授であるJim Wertz氏は次のように述べています。「小規模な宇宙ミッションでも、数億ドルの費用がかかり、完了するまでに何年もかかります。」

Wertz氏は、コスト削減におけるSMADの重要性を説明するために、故障した衛星を交換する例を紹介しています。衛星の誤動作や故障に備える方法の1つは、予備の衛星を軌道に打ち上げることです。しかし、故障した衛星が予備衛星から離れた軌道にある場合、交換のために予備衛星の軌道を変更しなければなりません。

ここでの問題は、衛星がすでに軌道上にある場合、軌道変更のために必要なデルタV(燃料消費量に直接関連する速度の変化)が非常に大きくなることです。Wertz氏は次のように述べています。「たとえば、赤道軌道から極軌道に移るには、そもそも軌道に到達するのに要したデルタVよりも多くのデルタVが必要です。」その結果、予備の衛星を移動することは非常に困難、またはほぼ不可能になります。Wertz氏は次のように述べています。「このような理由から、予備衛星は打ち上げず、迅速で応答性の高い打ち上げ機能を備える方が理にかないます。」

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センサー視野を解析したシミュレーション結果

SMADは、このような状況を解析して、何百万ドルものコストがかかる選択を行う前に、最も効率的な対処法を導き出すための手法です。

エンジニアたちは、宇宙開発の限界に挑み続けていますが、ミッションを成功に導くためには、SMADのあらゆる分野で課題を解決しなければなりません。以下に、解析および設計プロセス全体における重要な課題の例を示します。

  1. 軌道への打ち上げ: ミッションを達成するための最適な軌道の決定、衛星コンステレーションの複雑な設計、打ち上げタイミングの最適化
  2. ロケットの設計: 宇宙の過酷な放射線環境および熱環境に耐えられるロケットのハードウェアおよびソフトウェアの設計
  3. 宇宙運用: 衝突を回避するための運用環境に関するリアルタイムデータの動的な収集
  4. システムズエンジニアリングおよび設計リファレンスミッション(DRM): 地形や天候などの要因、そしてこれらの要因の相互作用も踏まえ、システム全体および運用シナリオをシステムオブシステムズの観点から考慮
  5. 通信システム: ますます複雑化する宇宙ミッションの通信システムの信頼性の確保と、軌道上の衛星間や衛星と地球基地間のほぼリアルタイムの通信の実現
  6. ペイロード: さまざまなミッションや衛星の姿勢に対応可能なペイロードの設計
  7. システムテスト: 地球上では困難または不可能で、かつコストが非常に高い実機試験の必要性を最小限に抑制

Wertz氏はSMADの複雑さをさらに増している要因のひとつとして、次のように述べています。「政府が独自のミッション解析および設計を行う傾向があり、民間企業が介入して提案を行う余地はそれほどありません。」そのため、より広いコミュニティで情報を共有して、共にイノベーションを進めることが制限されています。

SMADにおけるシミュレーションソフトウェアの役割とは

宇宙産業のエンジニアは、解析および設計プロセスのすべての分野において、多数の解決すべき課題を抱えています。宇宙空間での故障は許されません。宇宙ミッションの実現には膨大な時間とコストがかかるため、初回から正確なミッション設計が求められます。宇宙産業の企業は、すべての設計要素を徹底的に解析して最適化するために多額の投資を行う必要があります。

こうした状況でシミュレーションは重要な役割を果たします。Wertz氏は次のように述べています。「これまで以上にシミュレーションとミッションモデリングに頼る必要があります。」シミュレーションを導入することで、必要な解析を迅速に実行でき、宇宙での実機試験に投入される非常に多くリソースと比較して、リスクを軽減できます。Wertz氏は次のように述べています。「シミュレーションは、数か月という比較的短い期間に完了できるため、コストを大幅に削減することができます。シミュレーションとそれに伴う解析の両方が非常に大きな助けになります。」

AnsysフェローであるJim Woodburnは、一例として、地上局との通信を可能にするために、衛星上のアンテナ配置をどのように決定するかという問題を挙げています。この問題は、側面が常に地球に面しているLEOまたは静止地球軌道上の衛星を扱う場合はシンプルですが、条件によっては非常に複雑になることもあります。

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Woodburnは次のように述べています。「衛星が月に向かう途中で、重要な機器が太陽を向かないように、あるいは熱を分散するために、その方向を変える必要がある、より複雑な例を考えてみてください。Ansysのシミュレーションを使用することで、これらの条件や考えられるアンテナ配置をすべてモデル化して、考えられる構成ごとに地上局との通信が確保されるかを確認できるようになります。」シミュレーションで調査できることは、それだけではありません。

Woodburnは次のように述べています。「さらに、衛星のコンポーネント全体で予測される温度プロファイル、発電に影響を及ぼし、ソーラーパネルに到達する太陽光の量、高周波干渉の可能性も調査できます。」

大規模な衛星コンステレーションの開発を考えてみましょう。連携する多数の衛星で構成された大規模なコンステレーションを設計するには、以下を決定する必要があります。

  • ミッション要件と、コンステレーションの各部分によって付加される価値
  • 目標を達成する方法と採用するテクノロジー
  • 目標を達成するために必要なカバレッジやタイミング
  • コンステレーションを展開する位置(機能と放射レベルに影響を及ぼす)
  • 予算とそれに基づく衛星の数
  • 衛星を展開するための打ち上げ回数と、それらの計画された周回軌道
  • 衝突の回避方法
  • 衛星のライフサイクル終了後の計画
  • 個々の衛星の故障に備えた冗長性の開発

エンジニアは、Ansysのシミュレーションを導入することで、高い精度で、こうした問題を効率的に解決するための計算を実行できます。たとえば、シミュレーションを使用することで、ミッション目標を達成するために展開できる最小衛星数を決定することが可能となり、コストと時間を節約できます。さらに、選択した高度(たとえば、高い高度ではカバレッジは向上するが、遅延が大きくなる)、輻射(高度やヴァンアレン帯との相対位置によって異なる)などによる結果を考慮しながら、最適な高度を特定することもできます。

エンジニアは、実証済みのAnsysのモデルに、候補となるミッションプロファイルや衛星のコンポーネントを記述したデータを入力し、Ansysのシミュレーションツールを使用して、指定された一連の条件下でのシステム性能を示す出力を生成できます。

これらの出力を、ミッション要件に照らして精査し、反復的なトレードオフスタディの一環として評価を行うことで、最適化された構成を効率的に見つけることができます。

もちろん、これはWertz氏が「より正確なシミュレーションと、より複雑で緻密な衛星のモデリングを行うことで解決を目指す複雑な問題」と表現するもののごく一部にすぎません。

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宇宙での衛星の熱に関する考慮事項の調査

さまざまな星に向けた計画: SMADに関する展望

宇宙産業のさまざまな技術が商業化されており、これらは他の業界トレンドの推進力となって、今後もSMADに影響を与え続けることでしょう。

たとえば、月ミッションとシスルナミッションを考えてみましょう。NASAのアルテミス計画のような政府ミッションに加えて、多くの商用月探査ミッションが計画されています。Woodburnは次のように述べています。「アルテミス計画によって、月やシスルナミッションへの関心が大幅に高まっています。」これらのミッションは商業的な関心を集めており、Wertz氏は、短期的に利益と実際の収入を生み出すことができると指摘しています。

ここでのSMADの役割について、Woodburnは次のように述べています。「これらのミッションに採用される軌道は、地球近傍ミッションで採用される軌道とは大きく異なる傾向があります。多数の重力体が関与するケースに利用できる低コストの軌道接続を活用するためには、より高度な解析ツールが必要です。」

商業化は、小型かつ低コストで軽量な衛星への需要が高まることを含め、最新の衛星設計の推進要因でもあります。また、将来的にSMADにとって、自動運転技術がますます重要になる可能性があります。

Woodburnは次のように述べています。「自律型衛星の時代が間もなく到来すると考えています。搭載された計算能力の向上、航法のためのin situ測定の活用、AI/MLベースのミッション計画と異常事態解決方法の急速な発展はどれも、将来の衛星がミッションを実行する上で地上局への依存が大幅に減少することを示しています。」Woodburnはまた、打ち上げコストを削減し、打ち上げ機会を増やすために、将来的にさらに普及するであろう1つの概念としてライドシェアを挙げています。

こうした技術が特定のミッションで実現可能かどうかを決定するために、エンジニアはSMADやAnsysのシミュレーションを導入して、次世代の宇宙ミッションを実現するための包括的な解析を実行できます。

Wertz氏は、この分野に参入したり、成長したいと考えている企業に向けて、宇宙産業界で起きている大きなムーブメントや、さまざまなトレンドを考慮することを推奨しています。

詳細はこちら

宇宙の未来に関するWertz氏の見解をご覧ください

Ansysの宇宙に関するドキュメンタリー「Simulating Space」のプレビューをご覧ください。


お客様におすすめのリソースをご用意しています。

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「これまで以上にシミュレーションとミッションモデリングに頼る必要があります。シミュレーションとそれに伴う解析の両方が非常に大きな助けになります。」

— Jim Wertz氏(Microcosm社、代表)


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シニアマーケティングコミュニケーションライター

Caty Faircloughは、マーケティングおよびコミュニケーションチームのリーダーとして10年の実績があります。高度な技術を扱う組織のコンテンツチームを管理し、事業や業務を推進させる方法に関する記事も執筆してきました。現在は、Ansysのシニアマーケティングコミュニケーションライターとして、航空宇宙および防衛(A&D)業界で導入されている高度なエンジニアリングシミュレーションを紹介し、広く普及させることに尽力しています。

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