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デジタルエンジニアリングを活用して宇宙のイノベーションの波を捉える

4月 02, 2025

1:00 Min

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Caty Fairclough | Ansys、企業コミュニケーションマネージャー
MaiaSpace

持続可能性と聞くと、ごみのリサイクルや削減、または公共交通機関やグリーン燃料を思い浮かべるかもしれません。

多くの人にとって、持続可能性は地球上の活動に関連するテーマですが、実際には、その目標は地球外にも広がっています。宇宙産業で働く人々にとって、環境を保護するための取り組みは、宇宙空間にも及んでいます。

たとえば、世界経済フォーラム(WEF)では、スペースデブリが世界規模で重要な課題になるであろうと予測しています。宇宙産業は大きな成長と技術革新の渦中にありますが、この進歩に伴い、デブリ(「宇宙のごみ」とも呼ばれる)が増加し、衝突リスクが生じています。もちろん、これは解決できない問題ではありません。WEFのSpace Sustainability Rating(SSR)などの取り組みは、標準化されたスコアを通じて透明性を高めることで、この課題を解決することを目指しています。

しかし、これは宇宙関連の持続可能性に関する課題の1つにすぎません。スペースデブリだけでなく、光害、排出量、燃料の非効率性も環境問題につながります。これらのハードルを克服することは、宇宙産業に関わるすべての人にとっての課題であり、多くの企業がこれを重要視しています。

こうした企業の1つがMaiaSpace社です。同社は、宇宙への打ち上げとモビリティを実現する、競争力のある持続可能なソリューションを設計、製造、運用、商業化しています。同社のチームは、この取り組みを通じて、2026年までに再利用可能な1段目を備えた費用対効果の高い小型打ち上げロケットを開発する予定ですが、これはかなりタイトなスケジュールです。

それにもかかわらず、MaiaSpace社のチームは、小さな組織ならではの適応性の高さとリスクを恐れない文化、そして宇宙に関する新しいノウハウとレガシーのノウハウを組み合わせて目標を達成することに意欲的です。MaiaSpace社のCPOであるJerome Vila氏は、アジャイルな方法論、テストと学習による反復アプローチ、共通のロードマップを活用して、前進し続けることができると述べています。

従来の宇宙事業と新しい事業分野の両方から集まった専門家で構成されるチームは、この柔軟性を活かし、再利用可能な設計を迅速に完成させ、コンプライアンス、安全性、費用対効果、効率性を保証しようとしています。

持続可能な小型打ち上げロケットを開発

MaiaSpace社では、持続可能性は副次的な目標ではありません。持続可能性に対しては「エンドツーエンドのアプローチ」を採用していると、

MaiaSpace社のCTOであるIsabella Quinquis氏は説明しています。つまり、同社では、設計および開発プロセス全体で持続可能性を考慮しています。Vila氏は、環境影響評価を行うことで、エンジニアリングに関するあらゆる意思決定についてトレードオフを検討していると話しています。

一例として、Maia打ち上げ機を考えてみましょう。この打ち上げ機は、再利用可能な1段目に加えて、効率的な燃料であるメタンと酸素による推進を採用しています。さらに、エタノール推進に新技術を採用したキックステージを追加することで、効率性の高い燃料の使用を増やすことを目指しています。Quinquis氏は、軌道上サービスの道を開くことに加えて、「この新しい推進システムの目的は、環境への影響を抑えることにある」と述べています。

また、低軌道に打ち上げられる小型衛星という特定の市場セグメントに対応するのに適切なサイズのロケットを開発することも、その持続可能な設計における重要な考慮事項でした。多くの企業がより大規模な開発を進めている中で、同社は高度にモジュール化されたソリューションを通じて、打ち上げロケットの充填比を最適化することに注力しています。

MaiaSpace社では、宇宙旅行や火星への移住を目指しているわけではありません。Vila氏は、地球に意味のある影響を与える、地球に近い場所を対象としたミッションに焦点を当てていると説明しています。こうした用途には、科学、地球観測、通信、測位のほか、農業や漁業などの産業も含まれます。同社の目標は、その技術が何に使用されているかを明確に定めることです。どのミッションを立ち上げるかを慎重に選択しているとVila氏は指摘します。

同社は、宇宙産業の持続可能性を向上させたいと考えている多くの企業のひとつとして、取り組みを進めています。Vila氏は次のように述べています。「イノベーションの波が起こっており、私たちはこれを捉えて、自らを変革し、宇宙産業の仕組みを改革しなければなりません。」 

ただし、急速に変化する宇宙産業では、このイノベーションの波に乗るのは容易なことではありません。そのため、業界固有の課題に対処するためにシミュレーションソフトウェアを導入し、目標に向かって進んでいます。

MaiaSpace prototype

フランス、ノルマンディー地域のヴェルノンにあるMaiaSpace社の工場に置かれているプロトタイプ

シミュレーションを活用して宇宙の持続可能性を推進

宇宙用途向けに設計する場合、打ち上げは必ず成功することが要求されます。MaiaSpace社は、テストと学習による反復アプローチを採用して、ヨーロッパのそれまでのロケット開発方法を大きく変革していますが、Vila氏は「自動車や航空機のプロトタイプをテストする場合と違い、ロケットをテストできる機会はそれほどない」と述べています。早期にロケットのプロトタイプを製作し、実機試験を行うことで、より迅速にデータを得て、作業を進めることができます。MaiaSpace社のような企業は、さらに高速化しつつコスト効率も高めるために、シミュレーションを活用しています。

MaiaSpace社の熱解析エンジニアであるRomain Palka氏は次のように述べています。「非常に効果的なシミュレーションツールを得られたことで、結果の精度が向上し、時間とコストを大幅に節約できるようになりました。」

シミュレーションの導入によってアプローチがどのように効率化されるかを示す例として、初期開発段階を例としてみましょう。この段階では、エンジニアはシミュレーションを使用し、材料やタンクの厚さなど、さまざまな設計オプションを比較しました。このシミュレーション支援による設計および最適化プロセスは、開発期間全体にわたって継続されました。Vila氏は、実機試験の前後で試験をサポートするためにシミュレーションを活用したと語っています。シミュレーション結果を実機試験に使用し、さらに試験結果をシミュレーションに入力することで、すべてのプロセスで効率が向上しました。

シミュレーションは、リソースを節約するだけでなく、新しいアイデアを試したり、宇宙でどのように機能するかの詳細な解析など、物理的に実行が難しいテストや、コストが高すぎるテストの実行が可能になります。

MaiaSpace launch pad

MaiaSpace社の発射台

宇宙の過酷な環境を調査しながらエラーを回避

Quinquis氏は、宇宙産業では誤差の余地は非常に小さいと語っています。宇宙でのミスは生死に関わり、小数点以下の小さな誤差でも致命的な故障を引き起こします。そのため、最大限の精度が必要ですが、その精度を達成するのは容易ではありません。非常に高度な理論に基づく科学であるだけでなく、宇宙空間の環境を地球上で完全に再現して正確な実機試験を行うことは不可能です。

そのため、エンジニアや研究者は、理解しやすく実用的な結果をもたらす実証済みのツールを導入しています。MaiaSpace社のチームは、Ansysのシミュレーションを使用して、複雑なミッションに使用する打ち上げ機の性能と設計を微小重力下で調査することができました。Quinquis氏は次のように述べています。「デジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit(STK)を使用して、軌道上の上段の運動を可視化できます。」

複数の物理特性を同時にシミュレーションできるAnsysの機能により、その精度をさらに向上させることができます。Vila氏は次のように述べています。「Ansysのツールを採用したことで、1つのツールだけでなく、連携可能なツールセットを持つことが非常に重要であることを学びました。」そのツールの1つは、宇宙産業で不可欠となる熱解析です。

熱解析を効率的に実行

打ち上げ機を設計する際、エンジニアが実行する最も重要な調査は熱解析です。打ち上げ機の機能設計は、打ち上げ前と打ち上げ中の熱交換に耐えるだけでなく、大気圏を通過して軌道に乗り、太陽からの放射線にも耐える必要があります。このような極端な温度変動に耐えられるようにするために、Palka氏は熱を重視したモデリングソフトウェアであるAnsys Thermal Desktopでシミュレーションモデルを作成しています。

Thermal Desktopを使用することで、異なるパラメータでシミュレーションを実行し、重要な熱計算を実行して、最終的には、最適化された設計を選択できます。Palka氏は次のように述べています。「Ansysのソフトウェアは変更も容易になるため、時間を無駄にすることがありません。」設計段階では変更が頻繁に発生するため、迅速に対応して反復的な変更にモデルを適応させるためのソリューションが不可欠となります。Ansysのソフトウェアは、こうした柔軟性を必要とするPalka氏のような熱設計エンジニアにとって理想的なツールです。構造変更や推進力の変更などの設計変更によって熱解析結果が大幅に変化する可能性があるためです。

MaiaSpace

性能を向上させるために追加の小型キックステージを搭載できるMaiaSpace社の2段式ロケット

MaiaSpace Colibri

テストゾーンに配置されたMaiaSpace社のキックステージColibriのプロトタイプ

より持続可能な明日へ向けて 

宇宙産業で開発された多数の技術は、GPS、通信、気象データ、地震活動の検出など、現在の私たちの生活に大きな影響を与えています。宇宙技術から収集されたデータは、気候研究にも大きな影響を与えています。Vila氏は次のように述べています。「探査機や衛星がなければ、気候変動について、これほど認識は進んでいなかったでしょう。」現在、科学者が気候変動を監視するために使用するパラメータの半分以上が宇宙から得られたものです。

MaiaSpace社のチームは、人類全体に良い影響をもたらす宇宙の大きな進歩は、今後も続くと予測しています。この進歩のために不可欠な要素は、宇宙産業に参入し、新しい革新的なアイデアを生み出す人材の成長基盤です。Quinquis氏は、さらに多くの女性が宇宙産業に参入することを望んでおり、次のように述べています。「ご自身の夢を信じてください。消極的になったり、恐れることはありません。決して難しいことではありません。」

Palka氏は次のように述べています。「まだ発見すべきことがたくさんあります。」さらなる発見を行い、業界を前進させるために、シミュレーションは宇宙の開拓者たちにとって引き続き重要なソリューションとなるでしょう。

「衛星の熱評価」のウェビナーをご覧ください。


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「Ansysのツールを採用したことで、1つのツールだけでなく、連携可能なツールセットを持つことが非常に重要であることを学びました。」

— Jerome Vila氏(MaiaSpace社、CPO)


caty-fairclough
シニアマーケティングコミュニケーションライター

Caty Faircloughは、マーケティングおよびコミュニケーションチームのリーダーとして10年の実績があります。高度な技術を扱う組織のコンテンツチームを管理し、事業や業務を推進させる方法に関する記事も執筆してきました。現在は、Ansysのシニアマーケティングコミュニケーションライターとして、航空宇宙および防衛(A&D)業界で導入されている高度なエンジニアリングシミュレーションを紹介し、広く普及させることに尽力しています。

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