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Orbit Fab社:宇宙ガソリンスタンドで衛星に燃料補給

4月 02, 2025

1:00 Min

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Aliyah Mallak | Ansys、企業コミュニケーションマネージャー
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私たちは、ガソリンがなくなったらガソリンスタンドで給油し、バッテリーが切れたら充電器につないで充電します。使い捨ての車両は、非効率的でコストが高く、持続可能性に欠けます。もしすべての自家用車や商用車が、タンク1個分のガソリンを使い切った後に廃棄されていたら、人類はおそらく現在のような発展を遂げることができなかったでしょう。

一方で、衛星システムは平均1億~3億ドルの費用がかかり、開発には数年を要するにもかかわらず、すべて使い捨てです。衛星の寿命は、衛星自体がまだ稼働できる状態にあっても、打ち上げ時に搭載された燃料の量に左右されます。燃料が尽きると、衛星は地球の大気圏で燃え尽きるか、位置によっては、他の衛星の運用軌道の外側にある墓場軌道に移されます。2023年には約2,600個の衛星が軌道上に打ち上げられ、その数は毎年徐々に増加しており、多くの衛星が軌道上のスペースを巡って競い合っています。

Orbit Fab社は、航空宇宙業界で運用されている衛星の運用効率と持続可能性の向上を支援するために、世界初の商業衛星燃料補給サービスを開発しています。その目的は、宇宙船の使い捨てを終わらせることで、衛星の寿命を延ばすとともに、無制限の操縦柔軟性を確保し、次世代のミッションを実現することにあります。2018年に設立され、民間企業として初めて国際宇宙ステーション(ISS)に水を補給したOrbit Fab社は、初の推進剤デポを打ち上げて試験を行った後、他の政府機関や民間企業とパートナーシップを締結し、今後数年間にわたってそれぞれの衛星に燃料を補給する計画を進めています。

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宇宙船を満タンに

Orbit Fab社は、このビジョンを効率的かつ費用対効果の高い方法で実現するために、宇宙ガソリンスタンド「Gas Station in Space™」を開発しました。同社の燃料補給サービスでは、再利用可能な燃料シャトルを使用して、貯蔵デポから宇宙船へ直接燃料を輸送します。顧客の宇宙船には、既存の推進システムに接続可能なRapidly Attachable Fluid Transfer Interface(RAFTI™)が搭載されます。

貯蔵デポの推進システムとアビオニクスシステムはシンプルな構成で、主にステーションキーピングおよび燃料温度調整用に設計されています。燃料シャトルは、以下の完全な機能を備えた宇宙船です。

  • アクティブな燃料補給コンポーネントであるGRIP™(Grappling and Resupply Interface for Products)
  • RAFTI(軌道上および地上での燃料供給を可能にするドッキングおよび燃料補給インターフェースであり、多くの貯蔵可能な推進剤に対応)
  • 6自由度での動作を実現する姿勢決定および制御システム(ADCS)と推進システム
  • ランデブー、近接操作、ドッキング(RPOD)システム

シャトルとデポは、それぞれの軌道を活用することで、目的の宇宙船に到達するために消費されるデルタVを低減し、燃料供給コストを削減できるように戦略的に配置されます。

Orbit Fab社では、ユニバーサルミッション計画ソフトウェア(UMPIRE)を使用し、個々の顧客のミッションに基づいて燃料補給サービスを最適化することができます。同社は、このソフトウェアを利用することで、いつ、どこで、どの程度の燃料を補給する必要があるかを判断することもできます。シャトルは、デポで燃料を補給してから、目的の宇宙船へ移動し、GRIPとRAFTIを用いて宇宙船とドッキングし、燃料を供給した後に、デポに戻ります。

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迅速に着脱可能な燃料移送インターフェース(RAFTI™、左)とGRIP™捕獲機構(右)

宇宙空間で熱および構造健全性を確保

宇宙やさまざまなシステムには多くの変数があるため、Orbit Fab社では、シミュレーションを利用してインターフェースをテストしています。Orbit Fab社のチーフエンジニアであるKevin Smith氏は、次のように述べています。「Ansysのソフトウェアは、そのような解析を事前に行い、当社のメカニズムが機能するかどうかを理解するのに役立ちます。」

Orbit Fab社のチームは、熱解析に特化したモデリングソフトウェアであるAnsys Thermal Desktop構造工学向け有限要素法解析(FEA)ソフトウェアであるAnsys Mechanicalを用いて、インターフェースの熱・構造解析を行っています。

Orbit Fab社のサーマルエンジニアであるDiarmuid Gregory氏は次のように語っています。「当社の製品設計は、Thermal Desktopなしでは成り立ちません。Thermal Desktopを活用することで、宇宙船がドッキングしたときに悪影響が生じるかどうかを判断できました。」

宇宙には大気がないため、熱が対流によって効果的に放散することはありません。そのため、宇宙船には、飛行中に発生した熱を放射熱伝達によって放散できるようにする放射線シールドが備えられています。GRIPに内蔵されている複数のモータから発生した熱が過熱し、GRIPまたはそれが取り付けられている顧客のRAFTIに問題を引き起こす可能性があります。Orbit Fab社のチームは、この問題をテストし、研究するために、GRIP の初期モデルを作成し、熱真空チャンバーでテストしました。その後、このデータをThermal Desktopに取り込んで、モデルをより正確に調整しました。Gregory氏は次のように述べています。「パラメータ化機能は、トレードオフスタディやさまざまな設計オプションを試すのに非常に有効でした。私たちはThermal Desktopを使用して、シミュレーションを迅速に繰り返し、解析結果が軌道上での実際の現象を正しく反映しているかを確認しています。」

熱設計および解析は、複雑なパズルの一部にすぎません。物体を宇宙に送ると、多くの振動が発生するため、適切に接続されていない場合、揺れて分解してしまう可能性があります。Orbit Fab社は、燃料シャトルの上部にボルトで固定されているGRIP捕獲機構を考慮し、Ansys Mechanicalを用いて最適なボルトパターンをシミュレーションし、共振周波数をテストしています。

Smith氏は次のように述べています。「私たちは、Ansys Mechanicalを使用し、ボルトが外れないか、材料は適切か、ボルトパターンを調整する必要があるかなどを評価しています。また、GRIP内部の振動解析も行っています。GRIPのこの部分が特定の周波数で振動すると、他の部分の振動を誘発し、非常に破壊的な力が発生する可能性があります。」

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熱解析に特化したモデリングソフトウェアであるAnsys Thermal Desktopを用いてRAFTI™をシミュレーションした結果(左)とRAFTI(右)

デルタVをより有効に活用

軌道を頻繁に変更する必要があるミッションでは、ミッション計画を迅速に実行できる解析モデルを用いることで、多くのマヌーバを伴う計画のシミュレーションを迅速に繰り返すことができます。Orbit Fab社は、このニーズに対応するため、自社のミッションアーキテクチャ解析および計画プラットフォームであるUMPIREを開発しました。デジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit (STK)を統合したこのプラットフォームでは、コストと影響を最小限に抑えつつ、目的の宇宙船に最適な燃料補給ロジスティクスを決定することができます。

Orbit Fab社のミッション解析エンジニアであるNate Wilson氏は次のように語っています。「衛星に行わせたいことをすべて入力できるというアイデアです。ある軌道からスタートして、別の軌道に移行し、ステーションキーピングを行いながら、一定期間この軌道に留まった後、UMPIREを用いて、燃料をどのように、いつ、どこで補給するかを決定します。」

設計段階で燃料補給を計画すれば、燃料消費と貯蔵に重点を置くのではなく、他の目的に合わせて宇宙船の設計を最適化できるようになります。燃料補給によって、燃料タンクの小型化だけでなく、宇宙船の軽量化も実現できます。その結果、空いたスペースをさまざまなペイロードに使用したり、機体全体のサイズを縮小したりすることができます。

Wilson氏は次のように述べています。「STKを用いることで、正確な燃料計算を行い、各ポイントでの燃料使用量と各マヌーバにおけるデルタVの消費量を正確に把握することができます。軌道解析の観点から見ると、STKのAstrogator機能は、マヌーバ計算を行いながら燃料消費量を正確に見積もる上で非常に有効です。」

Orbit Fab社のチームはSTKを使用することで、燃料消費量を把握できるだけでなく、燃料シャトルと顧客衛星の意図しない衝突を防ぐこともできます。Orbit Fab社は、ニューメキシコ州のカートランド空軍基地にあるロボティクス運用制御(ROC)ラボを使用して、RPODプラットフォームをテストしました。3自由度のシステムを用いることで、燃料シャトルと顧客の宇宙船との間で制御されたドッキングをシミュレーションすることができました。このドッキングの衝撃は、ボールペンのノックすら押せないほどの微細なものでした。

Smith氏は次のように語っています。「人工衛星を運用する上で重要なのは、人工衛星が互いに衝突しないようにすることです。私たちが直面している最大の課題の1つは、制御された衝突をどのように実現するかということです。宇宙船同士が衝突しないことを人々に納得してもらうにはどうしたらよいのでしょうか?このような場面で、威力を発揮するのがシミュレーションなのです。」

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燃料シャトルが顧客の宇宙船に接近する際の軌道マヌーバのシミュレーション


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「私たちは、Ansys Mechanicalを使用し、ボルトが外れないか、材料は適切か、またはボルトパターンを調整する必要があるかなどを評価しています。」

—Kevin Smith氏(Orbit Fab社、チーフエンジニア)


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コーポレートコミュニケーションマネージャー

Aliyahは、ヘルスケア分野の技術ライターです。普段は何かを学ぶことや乗馬、旅行に情熱を傾けています。テンプル大学で広告学の学士号、製薬マーケティングおよび規制文書の修士号を取得しています。現在は、Ansysのコーポレートコミュニケーションマネージャーとして、お客様の成功事例や技術的なソートリーダーシップに関するホワイトペーパーを中心に、社内外のマーケティング資料を作成して、ヘルスケア業界を担当するチームを支えています。

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