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Ansysブログ

February 27, 2024

軌道決定における妥当性の評価

本ブログは、軌道決定(OD: Orbit Determination)、ODの品質評価の課題、そしてOD品質解析を自動化するための新しいアプローチの3部から構成されるシリーズの第1部です。このブログでは、軌道決定とは何か、なぜODを実行するのか、そして結果が有効かどうかを判断する際の課題について説明します。

衛星を追跡するには、望遠鏡、レーダー、レーザーなど、さまざまな方法があります。これらの方法を使用すると、衛星の位置に関する情報を得ることができますが、いずれも軌道や衛星の任意時における位置を予測する方法ではありません。たとえば、望遠鏡で衛星を追跡した場合、望遠鏡から衛星への方向は分かりますが、軌道要素、伝搬エフェメリス、あるいは衛星に影響を与える環境に関する情報は、軌道決定ツールで結果を処理することによってのみ得ることができます。

軌道決定(OD)とは

軌道決定とは、適用可能な測定値が与えられた場合に、主天体に対する衛星、天然衛星、または連星の軌道を推定することです。

 

OD validity

軌道決定を実行する理由

衛星オペレーターは、衛星の現在位置と移動先を把握する必要があります。たとえば、データを収集する衛星では、データが収集された正確な位置を知ることが不可欠です。また、次のことを行うために、軌道を正確に予測することも必要です。

  • データのアップリンクとダウンリンクをスケジューリングする。
  • 他の衛星との接近を予測し、必要であれば衝突を回避するための操縦を行う。
  • 以降の軌道決定を継続するために、追跡パスをスケジューリングする。
  • 必要な軌道維持操縦を正確に計画する。
  • データを収集する。衛星の位置が明確に把握できない場合、ターゲットにセンサーを正確に向けることは不可能となる。

正確なOD実行とそれが有効であるという確信がなければ、それ以降の衛星の運用が不正確になります。また、衛星は、予想される時間にアップリンク/ダウンリンク局上に到達できず、アンテナが誤った方向を向きます。さらに、他の衛星との接近は変化し、考慮されていなかった他の衛星との接近が発生する可能性があります。最適ではない方法で操縦を計画すれば、貴重な燃料を浪費する結果を生むのです。

軌道決定(OD)解析の課題

大きな誤差が生じない限り、軌道決定により、結果を得られます。これらの結果をさらに調査することで、実行が実際に適切であったかどうかを判断できるようになります。たとえば、衛星の初期状態が適切でない場合や、追跡データの品質を過信している場合、測定値のほとんど(またはすべて)が不合格として判定されます。その場合、新しい測定値を用いて経路全体の軌道を修正できず、単に初期状態を伝搬することになります。これは、ODを実行している軌道解析者が検出する必要がありますが、経験の浅い解析者は見逃す可能性がある、不確かでごく小さな問題が生じていることもあります。

結果が正しいことを確認する方法

OD実行が有効かどうかを判断できる単一のテストはありません。そのため、実行が有効であることを証明するよりも、問題が生じていることを示すインスタンスを見つける方がはるかに簡単です。精度を証明するには、主にOD結果のグラフを解析し、不規則性を示すような振る舞いがないことを確認します。

以下の残存率グラフを出発点として使用する簡単な例を示します。このグラフでは、OD実行によって処理された追跡測定値と不合格として判定された追跡測定値が示されています。残存率は、正規化された指標であり、実際の測定値と予測される測定値の差を示します。不適切な測定値を無視するために、残存率が–3~3シグマの範囲外にあるすべての測定値が不合格と判定されます(測定誤差が予想より大きいため)。

Residual plots rejected

不合格判定となった多数の測定値を含む残存率プロット

Residual plots accepted

合格と判定された測定値を含む残存率プロット

上の例では、測定値がガウス分布(ホワイトノイズ)で–3~3シグマの範囲に分布されており、不合格と判定された測定値はわずかであるため、適切であるといえます。単に測定値が合格と判定されたかどうかを見るだけでは、全体像を捉えることができません。下のグラフでは、ほとんどの測定値が合格と判定されていますが、期待されるホワイトノイズ挙動は示されていません。これは、力モデルの問題などを示唆しています。

Residual plots force model

力モデルの潜在的な問題を伴う残存率プロット

残存率の他にも、以下に示す位置の一貫性のプロットやヒストグラムのグラフに表示されるものなど、軌道解析者が検証すべきチェック項目があります。たとえば、フィルタ実行で推定された位置がより滑らかな実行で推定された位置と一致しているか、抗力と太陽輻射圧の推定値が一致しているか、追跡基地が正しくキャリブレーションされているか、推定された操縦が衛星で期待された性能に近いものであったか、などです。最終的に、OD実行が適切であるかどうかは、軌道解析者の直感と経験レベルにかかっています。

Consistency plot

位置の一貫性プロット

Histogram

ヒストグラムプロット

これからの展望

OD実行では、明らかな問題を把握するのは比較的容易ですが、経験豊富な軌道解析者を必要とする、不確かで小さな問題を検出しなければならないこともあります。では、十分な経験がない場合は、どうすればよいのでしょう。このシリーズの第2部では、Ansys Orbit Determination Too Kit(ODTK)でAIを活用し、OD品質解析を自動化することで、この問題にどのように対処しているかを説明します。