Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
温室効果ガス(GHG)排出量削減に向けた持続可能性への取り組みが世界的に増加する中、再生可能エネルギー資源への関心は高まり続けています。しかし、再生可能エネルギーはコストが高く、地域での制限や、信頼性が低い場合もあります。そうした背景から、バッテリエネルギー貯蔵システム(BESS)は、再生可能エネルギーの普及に大きく影響します。
バッテリ貯蔵は、太陽光や風力などの再生可能エネルギー源から生じた余剰電力を回収して保存することで、再生可能エネルギーを補助します。この貯蔵により、発電量が十分でない場合でも、再生可能エネルギーを利用できるようになります。McKinsey & Company社は、こうした利点を受けて、世界のBESS市場は2030年までに1200億ドルを超えると予想しています。世界的に電気自動車(EV)への移行が進んでいるため、予想通りの急増が見込まれています。
2019年に設立されたElement Energy社は、年々高まるバッテリシステムのニーズを把握していました。カリフォルニアを拠点とするスタートアップ企業である同社は、設立以来、大型バッテリシステムの安全性、インテリジェンス、経済性の向上と、バッテリの循環経済をサポートすることに焦点を当ててきました。主な焦点の1つは、再利用バッテリ(SLB)の活用、つまり、使用済みバッテリを取り出して再展開し、エネルギー貯蔵を拡張することです。
Ansysの優れたチャネルパートナーであるKETIV Technologies社の助言とAnsysスタートアッププログラムを通したAnsysのシミュレーションツールの活用により、Element Energy社は高度なシミュレーション技術の採用を加速し、仮想的に設計変更を繰り返すことができました。シミュレーションの活用により、コストと時間がかかる物理的なプロトタイプやテストの必要性を最小限に抑えることが可能になりました。Ansysの構造、流体、エレクトロニクスのシミュレーションを統合することで、このエコフレンドリーなスタートアップ企業は、設計を最適化し、開発時間を半分に短縮し、コストを削減しながら、持続可能なバッテリソリューションを推進するというミッションを継続しています。
Element Energy社と、他のバッテリ管理システム(BMS)企業との違いはどこでしょうか。Element Energy社によると、同社のバッテリ貯蔵技術はより安全性が高く、耐久性に優れ、より高い出力を生成します。同社は、こうした利点はAnsysのシミュレーションを使用して設計された技術によるものであると考えています。
「当社では、Ansysのツールを積極的に使用して、システムのさまざまなレベルにおける設計に関する意思決定を行っています」と、Element Energy社の技術部門の責任者であるCorrado Cammi氏は述べています。
エンジニアチームは、Ansysのマルチフィジックスシミュレーションを2021年から使用しており、現在ではAnsysの7つのソリューションをワークフローに組み込んでいます。
従来のバッテリ管理システム(BMS)のアーキテクチャは、静的で、集中管理されたシステムで制御されるのに対して、Element Energy社のBMSアーキテクチャは、分散型で、各モジュール専用の電力変換により、アダプティブなものとなっている。
従来のBMSアーキテクチャは、静的で、集中管理されたシステムで制御されるのに対して、Element Energy社のBMSアーキテクチャは、分散型かつ適応型であり、モジュールごとに電力変換が行われます。言い換えれば、従来のバッテリパックでは、セルは電気的に直列接続され、集中管理されたBMSを通じて監視されます。そのため、充電中や放電中は、各セルの実際の状態にかかわらず、各セルにかかる荷重は同じとなります。たとえば、健全性、劣化、安全性の状態が異なるセルであっても、充電や放電の速度は同じです。
一方で、Element Energy社のアーキテクチャでは、BMS機能と電力制御を組み合わせ、分散型のアプローチを採用しています。このタイプのシステムでは、限られた数の直列セルで構成される各セルモジュールは、電力変換段階を組み込んだBMS基板によって制御されます。これにより、各セルを個別に監視しながら、モジュールの電力負荷を電力変換段階で制御することができます。Element Energy社のBMSでは、バッテリパックは直列の複数のモジュールで構成され、電力負荷またはプロファイルを個別に制御できます。
Element Energy社は、大型バッテリシステムの安全性、インテリジェンス、経済性の向上と、バッテリの循環経済に焦点を当てている。
また、Element Energy社のBMSは、クラウドベースのモニタリングを可能にします。個々の制御ユニットがクラウドに直接接続されているわけではありませんが、データはマスターコントローラによって集約され、マスターコントローラがクラウドと通信します。また、前述のアーキテクチャにより、Element Energy社のシステムは、システム全体が商用用途ベースで動作し続けるため、一度に1つ以上のモジュールで診断測定を継続的かつシームレスに実行できます。つまり、クラウドで実行されるアルゴリズムによって、各セルの健全性、劣化、または安全性を正確に判断できます。この解析結果は、クラウドからローカルコントローラに送信され、バッテリパックのスループット、寿命、安全性を管理します。
Cammi氏は次のように述べています。「持続可能なバッテリソリューションを開発することは、当社の一番の目標であり、理念です。当社の主な焦点の1つは、当社の技術をSLB用途で使用することです。たとえば、廃棄されたEVから使用済みバッテリを取り出し、ハードウェア/ソフトウェアソリューションを適用して、エネルギー貯蔵用として少なくともあと10年間再利用できます。当社のアーキテクチャには、スループットの管理、寿命の延長、安全性の向上といった利点があり、そうした循環を効果的に行うことができます。」
Element Energy社のBMSは、寿命が近付いているEVバッテリや、OEMメーカーが廃棄したEVバッテリに、新しい寿命を与えることができる。バッテリが修復、再製造されると、電力は送電網を通して民間のエネルギープロバイダーに送電されます。同社によれば、SLB貯蔵に対するこの循環型経済のアプローチにより、バッテリの総保有コストに対する有用性は最大で40%向上します。
Element Energy社のBMSは、寿命が近付いている電気自動車(EV)バッテリや、OEMメーカーが廃棄したEVバッテリに、新しい寿命を与えることができます。
Element Energy社の再利用バッテリ(SLB)貯蔵に対する循環型経済のアプローチにより、バッテリの総保有コストに対する有用性は最大で40%向上する。
Element Energy社は、2ギガワット時(GWh)を超えるSLB貯蔵を保有している。
これまでに、Element Energy社は、2ギガワット時(GWh)を超えるSLB貯蔵を保有しており、最近になって53メガワット時(MWh)のSLBプラントをテキサス州に設置しました。同社によると、これはこの種の最大のグリッドです。この量の電力を総体的に把握するために、キロワット時で考えてみます。53MWhのプラントの容量は53,000kWhであり、Element Energy社のプラントでは、廃棄されたEVバッテリパックを約900個使用しています。ここで、2GWhが200万kWhだと考えると、廃棄されたバッテリパックは約34,000個です。
53メガワット時(MWh)のSLB貯蔵を備えた、テキサス州にあるElement Energy社のプラント
Ansysのマルチフィジックスシミュレーションは、Element Energy社のBMS設計プロセスの大部分をカバーします。同社は、構造有限要素法解析ソフトウェアであるAnsys Mechanical使用して、バッテリパックやBESSコンテナなどのバッテリコンポーネントの構造解析を実行しています。一般的なシミュレーションには、静的および動的な荷重、振動、およびモーダルの解析、プリント回路基板(PCB)の熱解析が含まれ、電子機器の信頼性予測ソフトウェアであるAnsys Sherlockで実施される調査をサポートします。
電子機器の信頼性予測ソフトウェアAnsys Sherlockで実行される熱-構造解析
Sherlockは、すべてのPCBで、信頼性予測用に使用されます。このツールを使用して、対応する加速係数に基づいて、熱と構造の応力サイクルの適格性の条件を特定し、BMS寿命を推定します。
「個々のコンポーネントの信頼性を予測する機能により、弱いパーツを特定し、それに応じて設計を調整することもできました」と、Cammi氏は述べています。
エレクトロニクスシミュレーションは、今や設計プロセスに欠かせないものとして組み込まれています。Ansys Sherlockに加えて、寄生成分抽出電磁界シミュレーションソフトウェアであるAnsys Q3D Extractor、高度な電磁界ソルバーであるAnsys Maxwell、PCBおよびパッケージの電磁界シミュレーションソフトウェアであるAnsys SIwaveを使用し、電力変換段階での損失と磁気コンポーネントの設計の最適化を特に重視して、PCBの電気設計をサポートしています。さらに、電子機器の冷却シミュレーションソフトウェアであるAnsys Icepakを、PCB上の電熱解析と電子機器冷却のシミュレーションに使用しています。
Element Energy社は、流体シミュレーションソフトウェアであるAnsys Fluentを使用して、バッテリの液冷(上図)とバッテリパックの冷却(下図)のシミュレーションを実行している。
また、同社は構造およびエレクトロニクス以外にも、流体シミュレーションソフトウェアであるAnsys Fluentを使用して、数値流体力学(CFD)を評価しています。Fluentの主な用途には、PCBおよびバッテリモジュールの熱シミュレーション、空冷および液冷のコンテナレベルの最適化、リチウムイオンバッテリモジュールを使用した電気化学シミュレーションなどがあります。
Cammi氏は次のように述べています。「シミュレーションの精度が高いため、最終製品にごく近い状態でプロトタイピングに進むことができます。個人的には、プロトタイピングから最終製品への移行を迅速化することで、製品開発時間が50%短縮できていると感じています。」
同社のコンプライアンス評価でも、さらにメリットがあります。
「信頼性や適格性評価の工程でも、同様のメリットが得られています。Sherlockのシミュレーションにより、適格性確認テストを開始する前に、潜在的な問題を特定できました」と、同氏は付け加えています。「適格性確認テストは費用が非常に高額になり、最大で3か月ほどの長い時間がかかる場合があります。適格性確認段階を早期に実施して問題を検出し、対処できることは、私たちにとって非常に大きなメリットでした。」
Element Energy社は、持続可能性向上に向けてバッテリソリューションの循環型経済の構築に取り組んでおり、シミュレーションはこうした目標を達成する上での鍵であると考えています。
Cammi氏は次のように述べています。「二酸化炭素(CO2)排出量と廃棄物の削減という観点で、バッテリの再利用が環境に与える影響は甚大であり、電動化が一層進むにつれて、その影響はさらに大きくなるでしょう。前述したように、Ansysのソフトウェアは当社の設計プロセスの大部分をカバーしており、当社のミッションの達成に大きく貢献しています。」
AnsysのシミュレーションソフトウェアとAnsysスタートアッププログラムと同様に、Cammi氏はKETIV社の貢献についても高く評価しています。
持続可能なバッテリソリューションを開発することにより、Element Energy社は、循環型経済をサポートしている。
同氏は次のように述べています。「KETIV社は、この4年間、大きな支えとなってくれました。KETIV社のエンジニアの皆さんには、技術的な問題の解決だけでなく、分散コンピューティングリソースの設定など、ワークフローやシミュレーションインフラストラクチャの最適化についてもサポートしていただき、とても感謝しています。」
バッテリ管理に関するAnsysのソリューションについては、Ansysのバッテリモデリングおよびシミュレーションソフトウェアに関するページを参照してください。
Ansysが起業初期から中期段階のスタートアップ企業をサポートしているプログラムの詳細については、Ansysスタートアッププログラムをご覧ください。
Ansys Advantageブログでは、専門家が投稿した記事を公開しています。Ansysのシミュレーションが未来のテクノロジーにつながるイノベーションをどのように推進しているかについて最新の情報をご覧ください。