Ansysは次世代の技術者を支援します
学生は、世界クラスのシミュレーションソフトウェアに無料でアクセスできます。
未来をデザインする
Ansysに接続して、シミュレーションが次のブレークスルーにどのように貢献できるかを確認してください。
大都市で渋滞に巻き込まれた際に、人や車の多いエリア内をより効率的に移動できる別の方法はないものかと考えたことはありませんか。地上での移動に縛られず、空を含めた3次元で最短距離を移動できるとしたらどうでしょう。
これは一見SF映画のように聞こえますが、空想上の概念ではありません。実際に、電動垂直離着陸(eVTOL)車両の開発が進められています。eVTOLは、滑走路を必要とせずに離陸と着陸の両方が可能であり、狭く混雑した都市周辺部や中心部での運用に適した小型航空機です。
また、eVTOLは、効率的かつ持続可能な新しい方法で人や貨物を輸送する有人および無人操縦による航空機を通じて航空業界の発展を目指す高度なエアモビリティ(AAM: Advanced Air Mobility)においても、重要な役割を果たすことでしょう。AAMは、緊急サービスから公共交通機関まで、さまざまな業界を支えることが期待されています。
ここでは、AAMをさらに発展させるためにeVTOLをどのように活用できるのか、そしてこの分野のイノベーターが得ることができる好機や直面する課題について説明します。
厳密な時期には諸説ありますが、米国航空宇宙工学協会(AIAA: American Institute of Aeronautics and Astronautics)で航空部門シニアディレクターを務めるJim Sherman氏によれば、AAMが初めて登場したのは初期段階のeVTOLであったNASAのPuffin計画が開始した2009年頃とされています。そして翌年の2010年には、Joby Aviation社が商用eVTOLの概念化に着手しました。その後、急速な成長を見せていた電動航空機および垂直離陸機の市場は、Archer社、Vertical Aerospace社、Lilium社、Volocopter社などの企業の活動や取り組みによってさらなる発展を遂げました。
AAMの基礎となるテクノロジーはその数年前から開発が始まっていましたが、NASAが研究をより効果的に進めるために「高度なエアモビリティ」という用語を考案したのは2020年頃であったとSherman氏は述べています。それ以来、AAMの概念は発展し続け、現在では小型および中型ドローンを用いて郊外までを結ぶ長距離航空輸送を中心とした地域型エアモビリティ(RAM: Regional Air Mobility)や、都市部向けに低高度で航空輸送を行う都市エアモビリティ(UAM: Urban Air Mobility)など、いくつかの異なるサブセットも含みます。
AAMおよびeVTOLという新しい市場が発生した当初と比べ、新規参入を目指す企業は徐々に減ってきましたが、Archer社、Joby Aviation社、Vertical Aerospace社など、複数の企業が確実に実績を上げています。そうした企業のうち、Joby Aviation社とArcher社は、今後数年で自社の航空機の認証を取得することを目指しています。また、OneSky社は、同じ空間内で無人機管制システム(UTM: Uncrewed Traffic Management)とAAMの運用を可能にする低高度交通管理システムを開発しています。
eVTOLそのものについては、より広範なAAMの中の1つの分野と捉えられ、さまざまなユースケースに適応できます。たとえば、貨物輸送の分野では非常に価値の高いビジネスケースを提示できるとSherman氏は述べています。短時間での配送から病院への臓器の輸送に至るまで、eVTOLが役立つ用途は数多くあります。
一方で、「一般乗客向けのエアタクシーモデルの開発にはさらに時間がかかるだろう」とSherman氏は述べています。多くの課題はあるものの、eVTOLエアタクシーが実現すれば、高密度エリアを避けながら最短距離で迅速に移動できるようになります。そしてテクノロジーがさらに進化すれば、eVTOLの航続距離が伸び、RAMを実現できるようになるかもしれません。こうしたタクシーは、空港シャトルとしての活用や、独自の観光ツアー提供などに活用できるようになります。
eVTOLは、今日の自動車業界ですでに採用されている、既存の電気駆動テクノロジーが自然に発展したものであると言えます。Sherman氏は次のように述べています。「プリウスが生まれた時代のテクノロジーから最新のテクノロジーまで、停滞することなく、自然な流れで発展してきました。」eVTOLは、将来AAMにおいて重要な役割を担うことが予想されていますが、そのためには開発者がいくつかの重要な課題を解決しなければなりません。
eVTOLは、AAMを実現するための重要なピースではあるものの、まだ広く普及されるまでには至っていません。Sherman氏、そしてAnsys, part of SynopsysのDistinguished EngineerであるPrem Andradeは、eVTOLの設計と開発に携わるエンジニアは次のような課題に対処する必要があると述べています。
これらの課題は時間とともに変化するため、eVTOLの開発者はそうした課題に適応できる設計と計画を準備しておく必要があります。Sherman氏は、EASAはeVTOLに民間航空機と同程度の安全性を要求していると語ります。こうした時代の変化に対応するためには、それに必要な冗長性と信頼性を達成するための追加のコストとテストが発生する可能性があります。
別の例として、安全規格であるFederal Aviation Regulations(FAR)Part 23があります。この規格は、規範的な要件よりも妥当性確認に重点を置いた要件を定めるなど、この10年間でさまざまな変更を経ています。この新しいプロセスを完了した企業はまだありませんが、Joby Aviation社やArcher社のようなeVTOL開発企業は、認証を得るためにこうした課題に対処することが要求されるでしょう。
将来的にAAMの一環としてeVTOLの展開を成功させるには、エンジニアは設計の最適化に関連する技術的な課題のバランスを取り、地方自治体と協力しながらインフラを構築して、開発サイクル中に変更される可能性のある規制に柔軟に適応しなければなりません。
テクノロジーを発展させる上でこれらの課題に取り組むことは不可欠ですが、簡単なことではありません。こうした状況で、世界中のイノベーターが設計を最適化し、安全性の妥当性確認を行い、AAMシステム全体の信頼性を確保するために、Ansysのシミュレーションソフトウェアに注目しています。
Ansysのマルチフィジックスシミュレーションツールを使用することで、エンジニアはeVTOLの設計を正確かつ包括的に解析し、市場投入までの時間を短縮して、AAMの実現に向けた取り組みを加速させることができます。
例として、eVTOL設計から生じる騒音公害を最小限に抑えることを目指すエンジニアを考えてみましょう。こうしたエンジニアは、流体シミュレーションソフトウェアであるAnsys Fluentを導入することで、圧力波と音響をモデル化し、設計反復ごとに放出される音を決定できるようになります。
もちろん、シミュレーションソフトウェアでは、音響モデリングの他にも設計最適化を支援するさまざまな方法が提供されます。他のユースケースでは、電磁界、光学、熱、構造、および空力シミュレーションを組み合わせて、設計最適化、構造解析、バッテリの熱マネジメント、推進システムの最適化、光学赤外線(EOIR)センサーの解析など、さまざまな評価を行うことができます。
eVTOLの設計者やメーカーは、シミュレーションを活用して、コンプライアンスと認証をより迅速かつ効率的に達成することができます。次のような活用方法があります。
Sherman氏は次のように述べています。「今ある最先端テクノロジーは、複数のテストケースとシミュレーションを迅速に実行できるようになったおかげで実現しました。」シミュレーションツールは、セーフティクリティカルなコンポーネントが安全で信頼でき、規制基準に準拠しており、AAMの実装と受け入れに不可欠な信頼性を達成していることを保証するのに役立ちます。
Ansysのシミュレーションツールやデジタルエンジニアリングツールを使用することで、エンジニアはeVTOLのローターの動作状況やミッション環境などを調査して、運用状況全体を把握できるようになります。
たとえば、デジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit(STK)では、高解像度の地形、画像、高周波(RF)環境を含む時間動的でリアルな3Dシミュレーション内で、eVTOLを構成する複雑なシステムをモデル化できます。
このような包括的な解析は、設計プロセスの早期段階で問題を検出する上で不可欠であり、開発や展開などの後期段階で深刻な問題が発生するのを回避できます。
さらに、Ansysのツールを活用することで、航空機の定期便と需要に応じた運航ルートを両立させる必要がある、混雑した空域での運用における課題の一部を解決するのにも役立ちます。Ansysのシミュレーションを導入すると、エンジニアやオペレーターはeVTOLの存在が航空交通にどのような影響を及ぼすかをモデル化することができます。
Ansysは、ミッション要件や概念から設計、妥当性確認、安全性、運用に至るまで、必要となるすべての領域に対応するソリューションを提供しているとAndradeは述べています。このエンドツーエンドのシームレスなデジタルエンジニアリングワークフローにより、エンジニアはすべての解析を1か所で実行できるため、時間とコストを節約され、効率が向上します。
AAMとeVTOLは、これまでの輸送方法を大きく変える可能性を秘めています。このテクノロジーは、都市部や郊外への人の移動、貨物の輸送、緊急医療への支援などの未来を大きく変革するでしょう。実際に、「eVTOL航空機のグローバル市場は2030年までに234億に達することが予想されています」とAndradeは述べています。
eVTOLとAAMの継続的な発展を推進している主なテクノロジーとして、次のものがあります。
Sherman氏は、将来的にも発展し続ける効率的で有用なeVTOLに誰もが乗れる未来を見据え、「AAMとeVTOLが広く普及し、定着したテクノロジーとして確立されることを願っています」と述べています。
詳細については、ウェビナー「デジタルエンジニアリングを活用したeVTOLの設計および運用」をご覧ください。また、e-book「未来に向かって: 自信を持って自律システムを開発」をダウンロードしていただけます。
Ansys Advantageブログでは、専門家が投稿した記事を公開しています。Ansysのシミュレーションが未来のテクノロジーにつながるイノベーションをどのように推進しているかについて最新の情報をご覧ください。