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エコデザインとは

エコデザインとは、製品の持続可能性と環境への配慮を製品のライフサイクル全体(設計および製造プロセス段階から、リサイクルされるまで)で考慮し、これらを設計に直接組み込む手法です。エコデザインでは、新製品の寿命と、それが将来のライフサイクルに及ぼす影響を考慮します。また、トレードオフを調整して、性能および技術的機能と持続可能性の理想的なバランスをとるための設計要件も考慮しなければなりません。

より持続可能で環境に優しい製品を設計する場合には、以下のようなさまざまな要素を考慮する必要があります。

  • 製品の寿命はどのくらいか。製品が寿命を迎えたらどうなるのか。分解して摩耗した部品を交換できるように設計できるか(寿命延長など)。また、寿命を迎えた製品を回収するシステムが確立されているか。
  • 製品の製造段階で使用されるさまざまな材料やプロセス(エネルギー消費、CO2排出量、水使用など)が環境に与える影響には、どのようなものがあるか。会社が推奨する材料およびサプライヤー以外に、新しい材料やプロセスを使用することは可能か。
  • メーカーは再生可能エネルギーを利用してエネルギー効率の向上を図っているか、それとも化石燃料を使用して製品を製造しているか。
  • 製品のCO2排出量はどのくらいか。
  • CO2排出における主な要因(部品、輸送、製品使用など)は何か。また、どれを変更すれば、最大限削減が可能か。
  • 所定の原材料は持続可能か。より環境に優しい選択肢はあるか(リサイクル含有量の増加、グリーンエネルギーの使用、新たなグリーンプロセスの導入など)。

こうした疑問を設計および製品開発段階で持つことで、製品が持続可能な原則に基づいて設計されているかどうかを確認することができます。これらの疑問は常に、設計サイクルの早い段階で検討するのが最善です。多くの場合、変更は必要に迫られるまで考慮されないため、持続可能な製品を設計するには、予防的なアプローチをとるのが最も効果的です。

新しい規制の施行を受け、バリューチェーンでは、サプライチェーンに影響を与えるだけでなく、製品の持続可能性指標を開示し、改善するように各階層に促す新たな指標の採用が進んでいます。これはすでに、REACH規制(Registration, Evaluation, Authorization, and Restriction of Chemicals:化学物質の登録、評価、認可、および制限)により行われていますが、今後さらに重要性が高まると考えられるため、早期に対処する必要があります。

ESPR:エコデザインのための規制フレームワーク

正式にはEUエコデザイン指令として知られる「持続可能な製品のためのエコデザイン規則」(ESPR:Ecodesign for Sustainable Products Regulation)」は、欧州連合(EU)内で製品の持続可能性を促進するために、CSRD(企業持続可能性報告指令)の報告要件とともに使用されている新しい規制です。

ESPRは、以下を含むエコデザインのさまざまな側面を網羅しています。

  • 製品の耐久性、リユース性、アップグレード性、修理性を向上させ、製品の寿命を延ばす
  • エネルギー消費量を削減し、製品のエネルギー効率とリソース効率を向上させる
  • 循環性を阻害する物質を含む材料の使用を避ける
  • 将来の製品に材料をリユースし、循環型経済を促進するとともに、天然資源の使用を削減する
  • 製品に使用する材料のリサイクル含有率を増加させる
  • 製品の再製造とリサイクルを容易にする
  • 製品の環境負荷およびカーボンフットプリントを削減する
  • 製品の持続可能性に関する情報の可用性を向上させ、サプライチェーンの透明性を促進する

2024年7月に施行されたESPRは、新しいフレームワークであり、今後も変更や、さらに整備される可能性があります。フレームワークであることから、具体的な目標を設定していますが、企業が製品の寿命を延ばしつつ、製品ライフサイクル全体にわたって環境への影響を改善する方法を調査する指針も提供しています。将来的には、製品ごと、または同様の特性を持つ製品グループごとに、具体的なルールが適用される予定です。

エコデザインの基本原則

エコデザインの主な原則は、製品開発における環境面の要素を考慮し、技術的機能を維持しながら、製品の環境への影響を低減することです。エコデザインを左右する指標は多く存在します。

  • 材料およびプロセスのCO2排出量
  • 水の使用量
  • エネルギー効率
  • 製造時の廃棄物量
  • リユースまたはリサイクル性
  • 使用される資源の量
  • 規制準拠
  • 環境への影響

これらはすべて、CO2換算量(CO2-eq)と内包エネルギーの少ない製品の開発に寄与し、環境への影響を低減します。

エコデザインにおける性能、コスト、持続可能性のバランス

エコデザインの主な課題の1つは、製品の性能、コスト、持続可能性におけるトレードオフです。製品の最終性能と特性に影響を与える要因には、以下のものがあります。

  • 材料の選択
  • 材料の形状
  • 異なる製造プロセス

これらの要因を変更すると、製品の持続可能性を高める過程で、性能に変化が生じる可能性があります。また、製品の材料を変更すると、サプライチェーンにも影響が及び、結果として全体のコストに影響を与えることになります。

このトレードオフは、製品の性能が所定の要件を満たすことと、一定の持続可能性を達成することの間でバランスをとっています。ライフサイクルは製品ごとに異なるため、エコデザインフレームワークを設定するプロセスは、各製品に固有のものとなります。

多くの場合、企業は既存のプロセスや製造設備に制約されており、これが製品の持続可能性を決定する要因の1つとなっています。さらに、製造設備のタイプによって製品の製造に使用できる材料が限られ、製造できる材料の形状にも制約が生じることがあります。

材料主導型のエコデザインのトレードオフ

材料主導型のエコデザインは、設計プロセスの重要な側面です。適切な材料を選択することで、性能や持続可能性を容易に向上させることができます。環境に配慮したさまざまな材料だけではなく、高性能な材料もあり、性能と持続可能性の両方の特性を備えつつトレードオフが実現できる材料もあります。

たとえば、フレキシブルエレクトロニクスやウェアラブル機器などの電子機器の設計に際して、セルロース、リグニン、キチンなどの天然ポリマーを利用すれば、合成ポリマーを使用する場合よりも環境に優しいものになります。しかし、多くの製品においては、合成材料はより優れた機械的・熱的性能を発揮します。そこで解決策となるのが、天然-合成ハイブリッド材料です。天然成分と合成成分を組み合わせた複合構造は、性能のバランスをとり、合成材料のみを使用する場合に比べて持続可能性を向上させます。

エコデザインにおいては、用途に応じて持続可能な材料の性能を向上させることができる材料の形状も非常に重要な要素です。製造前にシミュレーションとモデリングを活用して材料の形状を最適化することで、材料の最大荷重応力を特定することができます。特定した後は、その形状をさらに最適化することで、材料性能を向上させ、製品のライフサイクルを延ばすことができます。

エコデザインの利点と検討事項

エコデザインアプローチを採用する場合には、設計に関するさまざまな検討事項を考慮しなければなりません。設計および最適化段階では、多くのトレードオフを考慮する必要がありますが、ほとんどの企業は持続可能な製造に対応しておらず、プロセスの後半になるまで持続可能性を見過ごしていることがよくあります。

エコデザインの主な利点は以下のとおりです。

  • 環境へのプラスの影響
  • 気候変動の影響低減に貢献
  • 廃棄物の削減
  • より持続可能な製品を提供することによる、競争優位性の確立

エコデザインにおける最大の障壁:データとツールの不足

多くの企業は、持続可能なプロセスを設計に組み込む必要性は理解しているものの、さまざまな材料やプロセスが環境に及ぼす影響を評価するために必要なデータ、専門知識、ツールが不足していることがよくあります。多くのサプライヤーが環境に関連するデータを提供していないため、企業は具体的な持続可能性目標を欠いていたり、経営陣の反対に直面したりし、エコデザインへの取り組みが途中で挫折してしまう可能性があります。

多くの企業は、環境・社会・ガバナンス(ESG)規定、CSRD(企業持続可能性報告指令)要件、またはプロセスの早い段階での情報不足が原因で、製造プロセスの終盤になって初めて変更の必要性を認識することがよくあります。多くの場合、この時点で特定の材料を別の材料に変更すると、同じ技術仕様を確実に満たすために、製品を再設計して、再度最適化する必要が生じ、コストが大幅に増加することになります。

多くの企業にとってエコデザインの実現は優先事項となっており、シミュレーションは、設計を環境に配慮したものに最適化するのに役立ちます。また、施設やサプライヤーから一次データを入手できない場合でも、参照データベースを活用することで、エコ分析を容易に行うことができます。

その一例が、4,000を超える汎用グレードのエンジニアリング材料の性能・コスト・環境データを含む、Ansys Materials Universeデータセットです。このデータセットを使用すれば、設計段階で性能、コスト、環境への影響を評価し、どの材料を使用するかを決定することができます。

製品のデジタルパスポートは情報不足の解消にどのように役立つか

近い将来、企業がサプライチェーンにおける環境保全性に関する情報をより迅速かつ簡単に入手するのに役立つと考えられるのが、製品のデジタルパスポートです。デジタルパスポートとは、製品に使用される材料のデジタル記録であり、材料の原産地、特性、EOL(End Of Life)オプション、および環境への影響に関する情報を含みます。

デジタルパスポートは、バッテリから導入が開始される見込みです。バッテリには、適切に廃棄しなければ環境に大きな影響を与える可能性のあるレアアース金属が含まれるためです。循環型経済の追跡をサポートするデジタルパスポートを導入することで、製品に使用される原材料の環境フットプリントに関する透明性を確保することができます。現在、デジタルパスポートは必須ではありませんが、サプライチェーンに関わるすべての企業はデジタルパスポートの導入に備える必要があるでしょう。

循環型経済を支えるエコデザイン

エコデザインでは、廃棄以外のEOLオプションがない、使い捨て製品の製造を意図的に避けることで、循環型経済を補完します。製品の価値は、直線型経済では製品のライフサイクル終了時に失われますが、循環型経済ではリサイクルやリユースを優先することで、価値が維持されます。経営戦略およびファイナンスのコンサルティング会社であるMcKinsey社のレポートによると、成長戦略においてESGの優先順位を上げることを選択した企業の多くは、競合他社と比較して優れた業績を上げる傾向があることが示されています。

製品の環境フットプリントは主に設計段階で決まります。設計は一度確定すると、容易に変更することができませんが、初期段階では、材料・設計・製造プロセスを循環型経済の原則に合わせて調整することができます。また、リサイクル可能な材料を選択し、分解しやすい設計を行うことで、製品が環境に優しくリユース可能であるかどうかを決定づける下流の工程が決まります。メーカーにとっては、不要なコストや遅延を避けるために、製品の設計を最初から正しく行うことが重要となります。

エコデザインにおけるシミュレーションの役割

製品設計の80%は設計の初期段階で決まるため、持続可能性を向上させるためにどのようなトレードオフを行うべきかを検討することが重要です。

ここで重要な役割を果たすのがシミュレーションです。試行錯誤で物理的なプロトタイプに変更を加えるよりも、製品のモデルを仮想環境で調べ、材料の種類と形状を変更する方が、はるかに簡単です。シミュレーションを活用すれば、さまざまな材料または形状構成の利点や、製品のリサイクル含有率を確認することができます。また、製造公差と制約を理解することも可能になります。最終的には、必要な機械的・熱的・電子的性能と持続可能性の要素に基づいて最適化された製品が生み出されます。

シミュレーションを利用することで、開発プロセスにかかる時間とコストを節約しつつ、物理的なプロトタイプを作製する前に設計変更が必要かどうかを検討することができます。Ansysでは、Ansys DiscoveryAnsys MechanicalAnsys LS-DYNAなどの複雑な製品の設計とシミュレーションを支援する、さまざまなシミュレーションツールを提供しています。これらのツールは、材料データ管理ツールであるAnsys Granta製品群や、シミュレーションプロセスおよびデータ管理(SPDM: Simulation Processes and Data Management)ソフトウェアであるAnsys Minervaによって支えられています。

Ansysでは、エコデザインの技術的性能、持続可能性、コストの間のトレードオフを把握するのに役立つAnsys optiSLangなどの最適化ツールも提供しています。シミュレーションで得たデータを製品開発プロセスおよびライフサイクル全体で使用することで、設計と持続可能性の両方の要件を満たすことができます。シミュレーションによって、製造プロセスのモデリングと最適化、Ansys Twin Builderを使用した個々のメンテナンススケジュールの追跡、さらには製造プロセスにおけるエネルギー消費量の算出も可能になります。

物理的なプロトタイピングを削減し、環境に優しい製品を開発する上で、Ansysのソリューションがどのように役立つかについて、詳細をご覧ください。今すぐ当社の技術チームにご連絡ください。

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