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SEE社、シミュレーションを使用して宇宙経済を発展させる

4月 02, 2025

1:00 Min

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Caty Fairclough | Ansys、企業コミュニケーションマネージャー
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1800年代初頭のエンジニアと、現代のロケット科学者の共通点は何でしょうか。彼らを結びつけるものの1つは、衛星の追跡に用いられる数式など、私たちの周りの世界を理解するために使用する数学です。

また、業界が大きな変化を迎えていることに対する、明確な期待感も似ています。1800年代のエンジニアたちは、さまざまな公共交通システム(運河、馬のための道路、国や大陸にまたがる鉄道システム)が次々と出現する様子を喜んでいたことでしょう。現代では、輸送の次のステージとして、宇宙に対する期待が高まっています。ただし、最先端領域におけるイノベーションは決して容易ではありません。Space Exploration Engineering(SEE)社のオーナー兼CTOであり、宇宙船の操縦士でテクニカルアドバイザーでもあるJohn Carrico氏は、この天体探査に成功するには、存続可能な宇宙経済をどのように作り出すかを見極める必要があると述べています。

発展させるには、低推力エンジンから効率性の高い推進剤まで、宇宙産業を大きく変革させる大きなイノベーションが必要です。こうしたイノベーションが求められている分野に、SEE社を始めとした多くの企業が参入し始めています。SEE社のプリンシパル航空宇宙エンジニアであり、フライトダイナミクスおよびミッションオペレーションスペシャリストであるCraig Nickel氏は、同社が60を超える宇宙ミッションに参加した経験から得た航空宇宙に関する専門知識を活用して、航空宇宙企業が「以前のミッションよりも迅速に成功」できるように支援するアドバイザーやメンターとしての役割を果たしていると説明しています。

業界をリードするさまざまな企業と提携することで、SEE社は宇宙の未来を最前線で見ています。同社は、商業および政府、大手企業およびスタートアップ、低軌道(LEO)および深宇宙など、あらゆるタイプの企業がミッションの設計、計画、解析、運用における高度な課題を解決し、成功を収め、宇宙経済を発展させることができるように支援しています。

宇宙産業で増大する課題に対応

宇宙産業は歴史が比較的浅く、NASAでさえも1958年に設立されてから70年も経っていません。その短い歴史の中で、さまざまな変化がありました。

宇宙そのものと同様に、宇宙産業が拡大し続けています。特に近年、各種プロバイダー、宇宙機の開発企業や運用事業者が増加していることからもその拡大がわかります。業界への期待の高まりは、一方で業界が直面している複数の重要な課題を生み出している原因ともなっています。

Nickel氏は次のように述べています。「宇宙は混雑し始め、乱雑にもなってきました。宇宙産業や衛星オペレーターが直面している最大の課題は、衝突の回避と、衝突リスクの軽減です。誰もが宇宙で安全に運用を継続できるようにすることが最大の目的となっています。」

この目標を達成するための要件の1つは、運用安全性を向上させるために、オペレーター間で情報を共有することです。成長を続ける業界でのコミュニケーションと連携の向上も解決しなければならない課題の1つです。Carrico氏は、企業や国の方針により、重要な情報がサイロ化され、国によって遵守すべき基準が異なることで、混乱を招く可能性があると指摘しています。また、古い法律や規制、各種の異なる規格、宇宙産業に対する政府の優先順位やインセンティブの変化などによって、1つの国の内部で調整を行う場合でも問題が生じることがあります。

すでに課題が多い状況で、商用宇宙のスタートアップ企業は収益性に関連してさらに多くのハードルに直面しています。Carrico氏は次のように述べています。「商用宇宙の注目すべき点のひとつは、投資家が、一般的に宇宙ミッションで必要とされるよりも短い期間で投資利益率をあげたいと考えていることです。」つまり、商用宇宙企業が、政府機関とは異なる目標に向けて最適化を進めていることを意味します。

企業固有の目標を達成するには、独自の目標や目的を満たすためのオプションを特定するためのカスタム解析が必要になります。たとえば、民間企業であれば、より多くの打ち上げ機会を求めるため、最終的な軌道の精度を若干犠牲にすることがあるとNickel氏は述べています。

こうした意欲的な目標を達成するために、民間企業は可能性の限界を押し広げるために絶えずイノベーションを続けています。また、このイノベーションの急速なペースにより、信頼できるルールや標準的なプラクティスの数はそれほど増えていません。そのため、エンジニアはカスタム解析だけでなく、遅れをとらずに対応できる迅速かつ柔軟な解析を必要としています。この役割を果たすのがシミュレーションです。

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Space Exploration Engineering(SEE)社がデジタルエンジニアリングソフトウェアのAnsys Systems Tool Kit(STK)を使用して設計した、地球から月のNRHO軌道までの最適化された低推力軌道

宇宙時代におけるシミュレーションの役割

宇宙産業で使用される基本的な数学は、何世代ものエンジニアたちによって利用されてきましたが、この数学を適用する技術は近年飛躍的に高度になりました。Carrico氏は次のように述べています。「アルゴリズム自体が向上したわけではなく、それをより速く、より頻繁に実行できるようになったのです。」同じ10分間で、1800年代のエンジニアは手作業で数回の計算を完了しましたが、シミュレーションやクラウドコンピューティングなどのツールにアクセスできる現代のエンジニアは、数千もの出力を生成できるようになりました。

こうした大量の結果から、リスクをより適切に評価するための統計的に有意なサンプルが得られたと、Nickel氏は述べています。このように、シミュレーションソフトウェアなどのツールを使用することで、現代のエンジニアは確信を得て余分な箇所をそぎ落とし、厳しい許容値を要件として受け入れることができます。その結果、ミッション目標を達成するために必要となる最小限の推進剤を正確に決定するなど、効率を向上させながら、コストを削減できます。エンジニアは、これらの結果を使用して、不確かさを管理し、成功の機会を増やすことができます。

このプロセスにおけるSEE社の役割については、同社が大手企業の宇宙ミッションやスタートアップ企業の中心にいることで恩恵を受けています。具体的には、大規模な政府ミッションに適用され、現在も開発し続けている厳格な手法やプラクティスを活用してきた経験を活かして、中小企業がリスクを特定して管理するのを支援しています。同社は、Ansysの機能を活用して、コスト削減とミッション成功確率の向上の間のトレードオフを行い、その情報を伝えることができます。これは特に、投資利益率を最大限に高めながら支出を最小限に抑えることを目指す民間企業にとって重要です。

一例として、月面ミッションの宇宙機に採用する2つのエンジンを比較検討している企業を考えてみましょう。一方のエンジンは、性能は高いものの、価格が高くなります。SEE社は、Ansysのシミュレーションを使用して、エンジンの違いが設計やミッション全体の実行可能性にどの程度の影響を与えるかを調べることで、そのエンジンがコストに見合った価値があるかどうかを提案できるようになります。

同社は、さまざまなパートナーシップを通じて、ミッション全体でパートナー企業がイノベーションを起こし、リスクを管理して、効率を高め、コストを最小限に抑えるのを支援するために、シミュレーションを活用してきました。Carrico氏は次のように述べています。「設計プロセス全体だけでなく、ミッション終了までの運用全般を支援します。」

宇宙産業におけるシミュレーションの幅広いメリットの例として、SEE社のこれまでの取り組みの一部を見てみましょう。

シミュレーションを使用したミッションおよび軌道計画

地球周囲の宇宙に出ると、LEO、シスルナ圏、さらには月面まで、あらゆる場所にスペースデブリが存在します。こうしたデブリに加えて、CubeSatやメガコンステレーションなど、打ち上げられた衛星の数も増えています。Carrico氏は、このように混雑した環境では、軌道を計画して衛星を軌道上の適切な位置に乗せることは針に糸を通すようなものだと述べています。

この課題を解決するために、同社では、デジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit(STK)軌道測定処理ソフトウェアであるAnsys Orbit Determination Tool Kit(ODTK)を導入して、ミッションを成功させるために必要な最適な軌道と確率を計算しています。

さらに取り組みをサポートするために、サードパーティの商用プロバイダーとのコラボレーションを通じて、衝突を回避できる軌道を決定するプロセスを効率化しています。

通信を強化する上でのシミュレーションの必要性

将来の宇宙経済を確立する上で、既存の通信能力を向上させることは不可欠なステップとなります。たとえば、深宇宙の横断を目指す民間企業が増えるにつれて、宇宙機との通信はさらに困難になると、Nickel氏は述べています。NASAのディープスペースネットワーク(DSN: Deep Space Network)などのソリューションは存在していますが、すでに過大な負荷がかかっており、将来のすべての深宇宙ミッションをサポートすることはできないでしょう。その結果、将来の宇宙経済には、さらに多くの地上ネットワークプロバイダーが必要になります。

急速に変化する宇宙産業は、この課題を軽減するためにすでに懸命に取り組んでいます。Carrico氏は次のように述べています。「これに対応するために、商用プロバイダーは、より大型で高性能なパラボラアンテナを開発しています。」また、NASAは通信、追跡、位置、時刻のための中継衛星をサポートできる企業に賞金を出すなど、民間企業によるサービスの提供を奨励しています。

SEE社は、この通信における課題には、リンクバジェット解析の実行や、軌道、カバレッジ、ネットワークのモデリングなど、さまざまな方法でAnsysのシミュレーションを導入しています。これにより、ミッション目標を達成する、衛星やアンテナなどの最適な配置を決定できるようになります。

Carrico氏は次のように述べています。「Ansysのソフトウェアを使用することで、軌道の詳細だけでなく、ハードウェアの制約や、山によって通信が遮断されるかどうかなどの地形による制約もモデル化できます。」そして得た知識を活用することで、通信障害を回避するための最良の方法を決定できます。

この取り組みの例として、韓国のKPLO/Danuriミッションがあります。このミッションの一環として、新しい地上アンテナをオンライン化し、STKとODTKを使用して地上システムを設計しました。SEE社は、シミュレーションを使用して運用、システム精度解析、および妥当性確認のサポートを提供することで、ミッションが確実に成功するように支援しました。

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シミュレーションを活用し、緊急事態に迅速に対応

宇宙機で突然予期せぬ問題が発生した理由を突き止めようと、多数のエンジニアたちが管制室に集まり、さまざまな指示が飛び交っています。コンソールの前には担当者が座り、たくさんの書類がやり取りされ、チームメンバーがデータを確認して、いたるところで切迫感のある会話が交わされています。こうした状況下で、SEE社はAnsysのシミュレーションを使用して、何が起こったのか、そして次にとるべき修正措置を決定しようとしています。

Nickel氏が「目的を持った混乱」と表現するこの様子は、決して空想上のものではありません。Astrobotic Technology社のPeregrineミッションの打ち上げ後、同社は推進力の異常に気づき、軌道に影響を与える酸化剤の漏れが継続的に発生していることを突き止めました。SEE社とAstrobotic Technology社の飛行力学エンジニアたちは、STKを使用してミッション中の漏れをモデル化しました。このモデルと他の観測結果を使用して、実際に何が起こっているのか、そして軌道にどのような影響を及ぼすかを特定しました。

Carrico氏は次のように述べています。「想定される有効加速度や、ボディフレーム内で漏れが発生していると考えられる箇所を解析した後、管制センターの他の部門に行き、誘導、航法、および制御(GNC)の担当者と話をして、『この箇所で漏れが生じている可能性がある』と伝え、結果を比較することができました。」

このプロセスを通じて、SEE社とAstrobotic Technology社は漏れの発生源とその大きさを特定することができました。次に、宇宙機の現在の経路を予測し、推進力の補正の計算や地球の大気圏に安全に再突入するための計画など、いくつかの重要な計算を実行することができました。これらの補正はアダプションモデルを介して行われ、リアルタイムで使用されました。そのため、「ミッションの残りの期間、宇宙機を生かし続けることができたのです」とNickel氏は述べています。

宇宙機は月には着陸できなかったものの、Astrobotic Technology社は、さまざまなペイロードに関するデータや、さまざまな要素が宇宙でどのように機能するかに関する情報など、多くの新しい知識を得ました。これは「将来のミッションとお客様のリスク軽減につながる」とCarrico氏は指摘しています。

コラボレーションが宇宙の未来を創出する

商用宇宙事業のスタートアップ企業が台頭するに伴い、業界はこれまで以上に急速に進歩していますが、それは必ずしも競争文化を示唆するわけではありません。

Carrico氏は次のように述べています。「真の宇宙経済を確立するためには、宇宙に関するさまざまな事業に携わる多くの人々が交流する必要があります。」業界全体で、この急成長する新しい宇宙産業と将来のシスルナ経済の形について、期待が高まっています。

Nickel氏は次のように述べています。「最終的に成功するためには、コラボレーションを実行できる環境も必要です。」特に、情報共有を通じて、今日実施されているすべてのミッションから学んだ教訓を、より広いコミュニティで活用できることが重要です。

こうしたグローバルなコラボレーションは、相補的技術に焦点を当てたさまざまなスタートアップ企業間、クラウドコンピューティングを介して時間の節約につながるサービスを提供するサードパーティプロバイダー間、あるいは政府機関と民間企業の間など、さまざまな方法で行われます。シミュレーションとデジタルエンジニアリングは、これらのパートナーシップを通じて、新しい宇宙経済の確立に役立つ新しい革新的なテクノロジーの形成と知識の共有を可能にする重要な役割を担っていきます。

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「Ansysのソフトウェアを使用することで、軌道の詳細だけでなく、ハードウェアの制約や、山によって通信が遮断されるかどうかなどの地形による制約もモデル化できます。」

— John Carrico氏(Space Exploration Engineering(SEE)社、オーナー兼CTO、宇宙船の操縦士、およびテクニカルアドバイザー)


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シニアマーケティングコミュニケーションライター

Caty Faircloughは、マーケティングおよびコミュニケーションチームのリーダーとして10年の実績があります。高度な技術を扱う組織のコンテンツチームを管理し、事業や業務を推進させる方法に関する記事も執筆してきました。現在は、Ansysのシニアマーケティングコミュニケーションライターとして、航空宇宙および防衛(A&D)業界で導入されている高度なエンジニアリングシミュレーションを紹介し、広く普及させることに尽力しています。

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