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ナノサテライトとシミュレーション、作物残渣の活用による農業支援

6月 06, 2025

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Susan Coleman | Ansys、Senior Director、Academic and Startup Programs
Caty Fairclough | Ansys、Corporate Communications Manager
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広大な農地を想像してください。少し前までは、見渡す限り作物でいっぱいでしたが、今は収穫を終え、黄金色の残骸だけが残っている農地です。収穫後も、多くの仕事が残っています。

次の仕事は、次の収穫に向けて計画を立て、次のシーズンに多くの収穫を得られるように土壌の健康状態を見極めることです。このプロセスの一環として、作物残渣を分析し、慎重に土壌のバランスを保つ必要があります。作物残渣が多すぎると害虫が繁殖し、少なすぎると土壌侵食を招くことになります。

作物残渣を測定することにより、作物全体の健康状態、適切な耕うん強度、炭素貯留の可能性、さらには農地利用および気候科学に関する取り組みに役立つ潜在的な情報などの重要な情報も明らかになります。

こうした作物残渣の評価は、自ら歩き回って土壌を調査することで行うこともできますが、非常に時間がかかります。別の方法として、ドローンや飛行機を使用して調査することも可能ですが、費用が非常に高額になる場合があります。

しかし、現在では別の選択肢があります。Ansys Student Team PartnerであるUTAT Space Systems(トロント大学航空宇宙チームの宇宙システム学生グループ)は、約10年にわたり、地球観測と持続可能性を目的とした、コスト効率の高い小型のCubeSat(小型標準衛星)の設計と開発、そして打ち上げに取り組んできました。この学生グループが手掛ける最新のプロジェクトである、FINCH(作物残渣のハイパースペクトルマッピングのためのフィールドイメージングナノサテライト)では、今後数年以内に打ち上げを予定しています。

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衛星を開発しているUTATチーム

Space Systemsの光学担当リーダーであるIliya Shofman氏は次のように述べています。「地球低軌道から作物残渣をマッピングできるFINCHは、特にその他の手法のコストを考慮すると最良の解決策です。」

現在はSpace Systemsのディレクターで、以前は光学機械設計担当リーダーを務めていたKsenya Narkevich氏は、FINCHにより農業業界の専門家が重要な土壌情報を遠隔で取得できようになると語ります。また、UTAT Space Systemsは、このプロジェクトでカナダ農務・農産食品省(AAFC)と積極的に連携し、その研究の有用性を拡大しています。

これはSpace Systemsの学生チームが取り組んでいる素晴らしい研究のひとつの側面に過ぎません。

UTAT Space Systemsが開拓する新境地

革新的なアイデアは、革新的なチームから生まれます。この分野で成功を収めているSpace Systemsは、障壁のないチームです。あらゆるエンジニアリング分野の学生に加え、経済学、政治学、地球物理学、ビジネスを専攻する学生で構成されています。このチームはこうした幅広いスキルセットを成功の基盤としており、各メンバーがチーム全体の成功に大きく貢献しています。

また、Space Systemsはより広いコミュニティが自分たちの研究内容を活用できるようにすることを重視し、守秘義務契約が必要な研究を除いて、すべての研究をオープンソースで公開しています。

こうした理念に基づく取り組みは、数々の成功をもたらしました。たとえば、「HERON(ナノスケールにおける超高周波教育用無線通信)」プロジェクトは、学生自らが資金を調達し、製造したカナダ初のCubeSatでした

チームが現在取り組んでいる衛星「FINCH」は、短波長赤外線(SWIR)帯域を使用し、前述の作物残渣データなどの重要な情報を取得します。学際的な研究開発によって開発された革新的な「FINCH EYE」ハイパースペクトルカメラペイロードは、類似技術に比べて低コストでありながら、科学的に価値のあるイメージング機能を実現する点で際立っています。

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FINCH EYEが生成したデータが、作物残渣の測定にどのように利用されるかを示す画像。地上の対象地点(左)をFINCH EYEで撮影し、ハイパースペクトルデータキューブ(中央)を生成した後、混合スペクトル解析(SMA)を実施して作物残渣の割合を推定した(右)。

FINCHは、地表サンプルに含まれる各物質の割合を特定できるスペクトルアンミキシングと呼ばれるプロセスを活用しています。この技術は、FINCHが緑色植生(GV)、作物残渣、非光合成植生(NPV)、および混合組成を持つ土壌の割合を求めるために用いられます。

UTAT Space Systemsのチームは、ミッションアーキテクチャや、機械学習(ML)を用いた革新的なハイパースペクトル画像の高解像度化技術などのトピックを扱ったFINCH関連の学会論文を複数発表しています。

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機械学習技術をFINCHに適用することで、ランダム性とノイズを含む画像を再構築(左)し、より解釈しやすいクリーンな最終画像(右)に変換している。

FINCHの多目的な分光計設計により、農業を超えた幅広い分野への応用が可能になります。Shofman氏は、UTAT Space Systemsは現在、森林破壊および植生追跡、洪水マッピング、油流出検知、沿岸水質評価など、ペイロードの目標仕様で実現可能な他の重要な科学的応用も研究していると述べています。

Space Systemsがこれらの応用技術を実現するには、いくつかの重要な課題を克服する必要があります。

FINCHの設計、開発、打ち上げにおける課題

FINCHはパン一斤ほどの大きさですが、その小さなサイズの中に驚くべき複雑さが隠されています。

Shofman氏は次のように語っています。「大量の電子機器、多数の熱機械構造、さらに私たちの特殊なケースでは光学設計も組み込まれています。衛星と、衛星と通信する地上局の両方を制御するソフトウェアを書くためのファームウェアも必要です。」

技術的課題に加え、財政的制約も存在します。Shofman氏は、航空宇宙産業、特に宇宙産業では多大なコストがかかるため、開発では、技術的目標を犠牲にせずに、より少ない資金でより多くの成果を上げる必要があり、これがUTAT Space Systemsの使命の核心にあると語ります。

現代の衛星開発者は、これらのコストを削減するために、大型衛星と一緒に打ち上げて、宇宙での「相乗り」を実現できる標準化された小型衛星を設計することができます。この相乗りにより打ち上げコストが削減されたことで、UTAT Space Systemsを含む、より多くの組織が宇宙にアクセスできるようになりました。

課題はまだあります。Space Systemsが展開するような小型設計では、その縮小されたサイズで何が実現可能かを判断するために、より多くの時間を費やす必要があります。

Space Systemsのチームがこれらの課題を克服するために注目したのが、シミュレーションソフトウェアです。

シミュレーションソフトウェアによるコスト削減と農業科学の進歩

UTAT Space Systemsのチームにとって、シミュレーションは1つの工程で使うだけのツールではありません。開発プロセス全体でこのソリューションを活用しています。Shofman氏は、衛星の設計には広範なシミュレーション作業が必要だと考えています。この考えは、UTATの設計に取り組む多くの部門でも同様です。

チームが使用しているソフトウェアは以下のとおりです。

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衛星データを送受信するための2~2.2GHz帯円偏波パッチアンテナの設計には、Ansys HFSSソフトウェアが使用された。図内上:パッチアンテナのレイアウトエディタビュー。図内左下:Sパラメータプロット。図内右下:疑似色による3D利得プロット。資料提供:Swarnava Ghosh氏、RF担当リーダー

シミュレーションソフトウェアの利点を具体的に示す例として、FINCHの光学機械設計の一環として最適化されたブラケットの開発プロセスを挙げます。Narkevich氏は、チームはここで質量と強度のトレードオフを分析する必要があったと語ります。ここではMechanicalを用いたことで、ブラケット設計において故障の原因となっていた高応力集中箇所を特定し、修正することができました。

Narkevich氏は次のように述べています。「当初、CADを実施していたときには考えもしなかった1つの設計要素を微調整しただけで、打ち上げ条件における設計全体の妥当性を検証することができました。」

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FINCHの構造の解析、検証、最適化を行うために、Ansys Mechanicalで準静的解析を実施し、応力を求めた結果。アウトラインツリー(左)は、初期応力を考慮した静的構造解析の結果を使用したランダム振動シミュレーションを示している。色分けされた結果(右)はモデル上に重ねて表示されている。資料提供:Mario Ghio Neto氏、光学機械担当リーダー

また、チームがカスタム光学システムの実験用プロトタイプを製作した際には、収差によって像がぼやけていることが分かりました。チームは、この課題に対処するため、OpticStudioを使用しました。Shofman氏は次のように語っています。「この設計を紙とペンを用いて手動で行うのは事実上不可能です。レンズ系設計において、手動の代替手段はありません。率直に言って、OpticStudioに匹敵するほど優れた他のソフトウェアは存在しないのです。」

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FINCH EYE(光学ペイロード)のレイトレーシング図(上)、および最適化後(左下)と公差解析後(右下)のスポットサイズ図(下)。資料提供:Iliya Shofman氏、光学担当リーダー

Shofman氏は次のように述べています。「シミュレーションは、過酷な宇宙環境で確実に機能する設計を開発する上で重要な役割を果たしています。Ansysのシミュレーションソフトウェアによって迅速な評価が可能になったことで、各部門は設計の反復と改良を迅速に行うことができます。実際に製造する前に、設計が適切に動作するかシミュレーションで確認できるため、時間とコストを大幅に節約することができます。」

さらに、Shofman氏は、「UTAT Space Systemsは、Ansysのソフトウェアを利用することで大きな恩恵を受けています。Ansysのソフトウェアがなければ、ほとんどの設計作業は進めることができなかったでしょう」と語っています。

FINCHとともに未来へ飛翔、そしてその先へ

Space Systemsは、作物残渣マッピングデータを通じて、気候変動科学と環境モニタリングにおける重要な「センシングギャップ」を埋めるものとして、FINCHに大きな期待を寄せています。

Narkevich氏は、今後活動の幅を広げ、持続可能性に関連する他の目標も追求したいと語ります。こうした前進は、UTAT Space Systemsが掲げる「学部課程の期間内に衛星を継続的に製作し、打ち上げる」という野心的な目標によってさらに後押しされるでしょう。

活動全体の中でも、教育目標は常に最優先事項です。UTAT Space Systemsでは、学部生や高校生を対象としたアウトリーチイベントや、メンバー自身のスキルアップを通じて、知識と学習機会を提供し続けることを目指しています。

卒業生は、Space Systemsで培ったスキルを活かして輝かしいキャリアを手にしています。世界中の航空宇宙業界に貢献するスタートアップを設立した卒業生や、政府機関やMDA Space社、Intel社、General Motors社、Rocket Labs社といった大手民間企業でキャリアを積んでいる卒業生も多くいます。

Shofman氏とNarkevich氏は、UTAT Space Systemsでの経験とAnsysのシミュレーションが将来のキャリアに役立つと感じています。Narkevich氏は次のように述べています。「面接では、UTAT Space Systemsでの経験をいつも話し、『これらのシミュレーションを行った経験があります』と言えることが常に有利に働きます。」

Shofman氏は次のように語っています。「学習の一環としてシミュレーションソフトウェアを使用することで、キャリア選択への道筋が明確になり、将来像に対する理解が深まります。」

Shofman氏とNarkevich氏は、UTAT Space Systemsや、将来のキャリアにおけるシミュレーションの利点に関心を持つ他の学生に向けて、次のようなアドバイスをしています。

  • Narkevich氏:「自分のバックグラウンドを気にする必要はありません。知識、経歴、経験の有無に関係なく、どんな状況でもプロジェクトに貢献することができます。」
  • Shofman氏:「優れたソフトウェアは習得するのが難しいことが多く、すべてのボタンや構成の背後にあるロジックを理解するのに時間がかかります。しかし、一度習得すれば、そのソフトウェアをより柔軟に活用できるようになります。」

Ansysは、この学生チームとの協力およびパートナーシップを通じて、UTAT Space Systemsの目標達成をサポートできることを誇りに思っています。Shofman氏は次のように述べています。「無料の学生向けソフトウェアと、厳選されたチュートリアルライブラリを利用すれば、基礎を学び、すぐにインテリジェントな設計を始めることができます。私たちは、Ansysのソフトウェアによって得られる自信に支えられ、学術文献に貢献できることを非常に誇りに感じています。」

Ansys Student Team Partnershipの利点についての詳細をご覧ください。


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「この設計を紙とペンを用いて手動で行うのは事実上不可能です。レンズ系設計において、手動の代替手段はありません。率直に言って、OpticStudioに匹敵するほど優れた他のソフトウェアは存在しないのです。」

— Iliya Shofman氏(Space Systems、光学担当リーダー)


アカデミックおよびスタートアッププログラム担当シニアディレクター

Susan Coleman

Ansysのアカデミックプログラムとスタートアッププログラムでは、Ansysのシミュレーションの力を活用して次世代のお客様を支援することを目指しています。Susanは、シミュレーションを導入する際の障壁を取り除くことを目標に、Ansysの各事業部門やお客様と協力して、これらのプログラムの向上に努めています。各地のAnsys営業チームを通じてお客様のニーズを把握し、Ansysのビジネスユニットと協力しながらお客様に最適な製品を提供できるように尽力しています。また、Susanのチームはマーケティング部門とも密に連携して、シミュレーションがアカデミックエコシステムやスタートアップエコシステムに与える影響についても紹介しています。

caty-fairclough
コーポレートコミュニケーションマネージャー

Caty Faircloughは、マーケティングおよびコミュニケーションチームのリーダーとして10年の実績があります。高度な技術を扱う組織のコンテンツチームを管理し、事業や業務を推進させる方法に関する記事も執筆してきました。現在は、Ansysのコーポレートコミュニケーションマネージャーとして、航空宇宙・防衛(A&D)業界で行われている高度なエンジニアリングシミュレーションを紹介し、広く普及させることに尽力しています。

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