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モータドライブは、ライン周波数における交流(AC)電力を可変周波数および可変振幅のAC電力に変換することで速度を制御します。モータドライブは、自動化、プロセス効率の向上、信頼性の向上が求められている産業用途で不可欠となっています。しかし、こうした要件は、モータドライブ用のパワーエレクトロニクスコンポーネントの設計時に開発上の課題をもたらします。シミュレーションは、そうしたコンポーネント開発だけでなく、次世代の産業用モータドライブの可能性を引き出す上でも非常に有用です。
モータドライブは、モータの電圧定格に応じて中電圧(MV)または低電圧(LV)に分類されます。MVドライブは、1kVを超える用途に使用されます。どちらのタイプのドライブも、発電、鉱業、化学、および金属加工の分野で採用されており、ポンプ、コンプレッサー、ファン、コンベアを操作する産業機器に用いられています。
ドイツに本社を置き、世界各地に拠点を構えるモータおよび大型ドライブシステムの大手サプライヤーであるInnomotics社は、Ansysのマルチフィジックスシミュレーションとデジタルツインテクノロジーを導入し、人工知能(AI)機能を追加することで、MVドライブをアップグレードしています。これらのAI機能により、稼働環境の認識が高まり、ドライブの性能が向上することで、これまでの設計限界を押し広げることができると同社は述べています。
Innomotics社では、Ansysの構造、流体、エレクトロニクスシミュレーションに加えて、デジタルツインを統合し、精度を犠牲にすることなく複雑なモデルを簡素化する次数低減モデルなどのテクノロジーを通じて、デジタルエンジニアリングを活用しています。さらに、仮想テストと仮想プロトタイピングにより、従来の物理的手法にかかる時間とコストを最小限まで抑えています。その結果、Innomotics社では、設計を最適化および向上させながら、コストを削減して開発を加速させることができました。
中電圧(MV)ドライブは、発電、鉱業、化学、および金属加工の分野で採用されており、ポンプ、コンプレッサー、ファン、コンベアなどの産業機器のモータ速度制御に用いられている。
MVドライブは、可変AC電力を供給することでモータ速度を制御します。出力に基づいて、制御可能な電流出力を持つ電流形インバータ(CSI: Current Source Inverter)と、制御可能な電圧を持つ電圧源インバータ(VSI: Voltage Source Inverter)の2つのタイプに分類されます。
Innomotics社は、1.4~13.8kVの電圧範囲、150キロワット(kW)~85メガワット(MW)の電力定格を持つ両方のタイプのMVドライブを設計し、提供しています。2つのタイプのMVドライブがあることで、高効率、高可用性、そして優れたエネルギー品質が保証され、入力における電流歪みが減少すると同社は述べています。実際に、Innomotics社のVSIドライブは高調波を最小限に抑えるクリーンエネルギーコンバータと評価されています。これが、一部のモデルに付けられた「Perfect Harmony」という製品名の由来です。
この記事で紹介するMVドライブは、利用可能な固定振幅および周波数(50または60Hz)のMV電力を中間直流(DC)電圧に変換し、振幅と周波数が変化するAC電力に戻します。そのため、電動モータの速度と出力は、お客様の用途に合わせて適応できます。
Innomotics社のパワーエレクトロニクスグループのシニアプリンシパルキーエキスパートであるBogdan C. Ionescu博士は、この10年間で同社のデジタルエンジニアリングが進化する様子を見てきました。KPS Capital Partners社は、Siemens社傘下の子会社でしたが、2024年10月にKPS Capital Partners社に買収されました。
Ionescu博士は、同社の大型ドライブ事業の研究開発(R&D)部門で、開発に関する主要な問題に取り組んでいます。
Innomotics社のPerfect Harmony GH 180 MVドライブは、モジュラーマルチレベル変換器(M2C: Modular Multilevel Converter)テクノロジーによるマルチセル電圧源インバータ(VSI)である。
Ionescu博士は次のように述べています。「この12年間で、パワーエレクトロニクスグループでのデジタルテクノロジーの導入により、MV VSIドライブの主要な構成ブロックであるパワーセルや電力変圧器のデジタルモデルを作成できるようになりました。他のコンポーネントレベルや製品レベルの設計にも導入し、活用しています。」
Ionescu博士は、Ansysのシミュレーションを導入したことで、時間とコストを節約しながら設計プロセスを改善でき、結果に対する信頼性が高まったと語ります。
また、「Ansysのシミュレーションは、コストのかかる設計ミスを回避する上で非常に役立ちました。当社が実行したシミュレーションの結果はすべて、詳細なラボテストによって検証され、現在では経営陣からも高い信頼を得ています。シミュレーションテクノロジーに投資したことは、収益の観点からも正解であったことが証明されました。」と話します。
Ionescu博士のチームは、この7年間に、Hardware-in-the-Loop(HIL)システムを含め、将来の概念をテストするために同社の空冷および水冷コンポーネントの多くの次数低減モデル(ROM)を開発してきました。
Ionescu博士は、こうしたテクノロジーを高く評価し、ROMについて、そしてAI対応ドライブの開発をサポートする正確な熱解析モデルをリアルタイムで実装するROM機能を使用することで、MVドライブ設計をどのように改善できるかについての論文をIEEEで発表しました。
Innomotics社のAI対応MVドライブは開発中ですが、Ionescu博士は、同社がこの概念の特許を取得したと話します。
Ionescu博士のチームでは、シミュレーションベースのデジタルツインプラットフォームであるAnsys Twin Builderを使用して、ROMとデジタルツインを作成しています。Twin BuilderとAnsysのマルチフィジックスシミュレーションを組み合わせることで、3Dシミュレーションの挙動がROMとして提供され、より正確で効率的なシステムレベルモデルを迅速に作成できるようになります。たとえば、このプラットフォームでは、Ansysの構造、流体、電磁界解析製品で作成されたROMを使用して、機械アセンブリ、熱回路網、電磁アクチュエータおよび機械などの複雑なシステムをモデル化できます。
AIを活用したデジタルツインソフトウェアであるAnsysの最新のデジタルデジタルツインソリューションも同様に機能し、ROMを活用しながらデータと物理特性を融合して、「ハイブリッドデジタルツイン」と呼ばれるデータを作成します。さらに、Ansysのハイブリッド分析ツールを使用して、シミュレーションから得られた知見と実際の挙動から得られたデータを組み合わせることで、動作条件の変化や機器の劣化を考慮し、設計と運用の間のギャップを埋めることができます。その結果、ハイブリッドデジタルツインを使用して、変化する環境、状況、条件に自動的に適応しながら、さまざまな運用シナリオや製品バリエーションにわたるリアルタイムの監視、予知保全、性能の最適化が可能になります。このハイブリッドデジタルツインは、Twin BuilderまたはTwinAIを使用して作成できます。ROMは、Ansys Workbenchシミュレーション統合プラットフォームで作成でき、Twin BuilderまたはTwinAIに簡単にインポートできます。さらに、ROMは、サービスモデリング言語(SML)やFunctional Mock-up Unit(FMU)など、多くの一般的なフォーマットで利用可能です。
Ansysのハイブリッドデジタルツインは、データモデル、物理モデル、そして人工知能(AI)/機械学習(ML)手法を組み合わせて、アセットの最も正確な表現を提供する。
Ionescu博士のチームは、MVドライブ全体の熱コンポーネントの熱利用を最適化するためにROMを作成しています。
Innomotics社では、Ansysのシミュレーションツールを使用して、熱解析用トレーニングデータや次数低減モデル(ROM)を作成して、パワーセル内の物理現象を正確かつ迅速に表現している。
Ionescu博士は次のように述べています。「AnsysのROM手法である線形時不変(LTI)と線形パラメータ可変(LPV)を、デジタルツインを作成する目的で使用しています。このデジタルツインは、非常に高速に実行できるため、パワーセル内で使用される絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT: Insulated Gate Bipolar Transistor)の内部温度など、多くの注目すべき量が提供されます。これらの温度は、直接測定することができないため、デジタルツインを導入することで、ドライブコントローラで使用するために必要な結果がリアルタイムまたは準リアルタイムで得られるようになります。」
さらに、ROMのトレーニングデータの精度と品質を向上させるために、数値流体力学(CFD)シミュレーションにエレクトロニクス冷却シミュレーションソフトウェアのAnsys Icepakを導入しています。
Innomotics社では、Ansysのシミュレーションを使用して、空冷式(左)と水冷式(右)のPerfect Harmony GH 180 MVパワーセルをモデル化している。
Ionescu博士は次のように述べています。「AI対応ドライブの開発における次のステップは、機械学習(ML)機能です。このような取り組みでは、大量のデータをオフラインで作成できるROMを使用することで、マシンをトレーニングして、お客様のプロセスのさまざまな課題にドライブが対応する方法を変更するための有用なパターンを開発できるという利点を大いに活用できます。」
Ionescu博士のチームでは、Ansysのシミュレーションを使用しない日はありません。結果はラボテストで一貫して検証されるため、組織全体でシミュレーションに対する信頼が高まり、採用が広がっています。
Ionescu博士は次のように述べています。「当社の製品の対象となる物理現象の全範囲をカバーするために、Ansysのさまざまなツールを活用しています。具体的には、構造、電磁界、CFD、およびシステムレベルのシミュレーションにAnsysのツールを使用しています。さらに、Ansys Workbench環境で提供されるフレームワーク内でAnsysの各種モジュールを組み合わせることで、さまざまなマルチフィジックス連成シミュレーションにもAnsysのツールを活用しています。私たちはAnsysのソフトウェア開発と買収に対する理念をよく理解しており、さまざまな領域に対応できるという理由からシミュレーションシステムとしてAnsysを選択しました。そして今、それが正しい選択だったことは明らかです。」
Ionescu博士は、将来的には、熱、過負荷、気流速度管理などの課題に対応する工学的知見を組み込んだAIを活用したMVドライブを開発することを目指しています。
Ionescu博士は次のように述べています。「ドライブの運用にAIを活用する明確な利点の1つは、設計マージンによる限界を大幅に排除できるようになることです。現在の安全設計アプローチは、プロセスに未知の事柄が数多く含まれているために採用されていますが、モータドライブで、これらの未知の事柄に関する必要なデータをすべて得られるようになったことで、このアプローチがほとんど不要になる、あるいは排除できる可能性があります。」
さらに、Ansysのシミュレーション、デジタルツインテクノロジー、そして次数低減モデルなどの手法を導入したことで、Innomotics社では、精度を損なうことなく、開発をスピードアップしながら、設計を改善し、コストを最小限に抑えることができます。また、デジタルエンジニアリングにより、仮想テストと仮想プロトタイピングを導入して、時間とコストを節約できます。
Ionescu博士は次のように述べています。「Ansysのシミュレーションの導入は、当社にとって非常に価値のある決断でした。迅速かつ安全な方法で重要な答えを得られるようになり、作業の最適化にも役立ちました。また、不要なラボテストを排除し、デジタルプロトタイピングが可能になり、高度で費用対効果の高いHILおよびSoftware-in-the-Loop(SIL)システムも利用できるようになりました。」
デジタルツインやROMを使用してワークフローを改善する方法については、無料のオンデマンドウェビナー「Ansys Twin Builderを使用して、次数低減モデルによるシミュレーションを加速」および「Ansys TwinAI: 物理特性の精度とデータ駆動型の知見の組み合わせ」をご覧ください。
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