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医薬品の研究開発(R&D)と製造では、より効果的な医薬品をより短期間で患者に届けるために、常にイノベーションに取り組んでいます。米国食品医薬品局(FDA)が毎年承認している新薬の数は、過去数十年にわたり徐々に増加しており、2008年の24件から2023年には55件に達しました。医薬品の承認を得るプロセスには、時間と費用がかかります。初期の創薬から完全な市場承認までには12年を要し、費用は10億ドルを超える場合もあります。世界の製薬業界の収益の21%がR&Dに費やされていることから、企業が投資収益率(ROI)を最大限に高め、新たな創薬に資金を投じるためには、先行して市場に参入することが極めて重要です。
Pfizer社は、医薬品イノベーションの最前線に立っています。同社のグローバルなポートフォリオには、医薬品やワクチンのほか、世界的に有名なさまざまな消費者向けヘルスケア製品が含まれます。Pfizer社は、新興国から先進国まで世界中で活動し、人々を脅かす重大な病気に挑むために、ウェルネス、予防、治療、そして治癒の取り組みを推進しています。2025年2月4日現在、Pfizer社は115種類の治療薬を開発中です。
Pfizer社のMSAT CFDグループリーダーであるMorgan Harris博士は次のように述べています。「私たちは、シミュレーションというレンズを通して、医療の未来を垣間見ることができます。その未来では、仮想空間がイノベーションの「るつぼ」となり、プロセス開発の障壁を解き明かし、患者の生活を変えるブレイクスルーを作り出すことができるのです。」
Pfizer社は、自社の容器とインペラのライブラリを検証するために、撹拌槽のシミュレーション結果と実際のタンクの性能を比較した。
幸いにも新型コロナウイルスは世界的に制御下にありますが、パンデミック初期には、多くの製薬会社において、安全性を維持しながら前例のない速さで治療薬を開発することが非常に重要とされていました。Pfizer社の定量システム薬理学チームは、時間を節約するために、従来の第2相試験の代わりに臨床試験の結果をシミュレーションしました。同チームが用いたウイルス動態モデルは、ウイルスの複製をシミュレーションし、医薬品がその過程をどのように阻害するかを示すものです。このモデルデータは、その後の試験でチームがフォーカスする投与量を決定するのに役立ちました。
しかし、別の疑問が生じました。それは、患者が5日で反応するか、それとも薬が効くまでにもっと時間が必要か、ということです。10日間の治療計画は、より多くの患者を対象とし、試験期間も長くなることを意味します。一方、5日間の治療計画であれば、その半分で済みます。ここでは、チームはwhat-ifシナリオをシミュレーションし、わずか5日間の治療で効果があると判断しました。FDAは、初期の創薬からわずか12ヵ月後に、Pfizer社の新型コロナウイルス経口治療薬を緊急使用として承認しました。承認プロセスを迅速化するために多くの専門家が働いていましたが、臨床試験の結果をシミュレーションしたことで、患者に必要な治療薬を迅速に届けることができました。
また、同チームは臨床試験のシミュレーション結果を用いて、再発性・難治性多発性骨髄腫(形質細胞の癌)の治療法の開発にも取り組んでいます。チームのモデルでは、既存の臨床観察よりも長い治療期間をシミュレーションすることができます。これにより、専門家は確信を持って予測を行い、投与量と投薬計画のシナリオを検証することができます。
出典:Clémence Réda、Emilie Kaufmann、Andrée Delahaye-Duriez、『Machine learning applications in drug development』, Computational and Structural Biotechnology Journal、Volume 18、2020、pages 241-252、https://doi.org/10.1016/j.csbj.2019.12.006
医薬品開発に関して言えば、R&Dは全体の一部に過ぎません。小規模な臨床試験から本格的な製造に至るまで、医薬品はさまざまな規模で製造されます。医薬品製造のスケールアップは、細心の注意を要するプロセスであり、誤れば、リソースの浪費や市場投入の遅延につながる可能性があります。Pfizer社では、このスケールアップの多くの側面を効率化するためにシミュレーションを活用しています。
撹拌
撹拌は、ほとんどの製造プロセスで非常に一般的な工程です。撹拌槽の設計が適切に行われていないと、培養液の不均一などの問題が生じ、バッチの品質と有効性が損なわれる可能性があります。ブレードや撹拌槽の設計と混合プロセスを手動で繰り返す場合、時間がかかり、コストも早期に増大します。Pfizer社は、自社の容器とインペラのライブラリを検証するために、撹拌槽のシミュレーション結果と実際のタンクの性能を比較しました。混合時間のシミュレーション結果は、実験室で得られた混合時間と正確に一致しました。Pfizer社は、実験室での実験とは異なり、pHプローブによって測定したいくつかの離散点だけでなく、容器内の全域における混合時間を把握できたのです。
ろ過
中空糸タンジェンシャルフローろ過(HF-TFF)カセットはその名の通りバイオ医薬品のろ過に用いられる手法です。Pfizer社はこの手法を用いてmRNA封入脂質ナノ粒子(mRNA-LNP)をろ過しています。Pfizer社は、LNP用HF-TFFカセットを最適化するため、シミュレーションを活用して、このカセットのライフサイクルを延ばすとともに、生存可能なmRNA-LNPの収率を向上させ、次世代のTFFカセットを開発しました。
3Dプリント
Pfizer社では、パイロットおよび製造用容器の性能に匹敵する、最適化された3Dプリント製のリテンテート(限外ろ過)容器を開発したいと考えていました。同社は、シミュレーションを用いることで、3Dプリント製リテンテート容器の特性を微調整し、混合時間、メソ混合時間、マイクロ混合時間を一致させました。シミュレーションの活用により、限外ろ過/透析ろ過(UF/DF)の小規模モデル(SSM)の開発が効率化され、UF/DF工程全体の収率が向上しました。
バッチバイオリアクター設計の例。出典:Singh、Jagriti & Kaushik、Nirmala & Biswas、Soumitra(2014).『Bioreactors – Technology & Design Analysis』
Pfizer社は、革新的な技術を使用することで、医薬品を人々により迅速に届けています。シミュレーションを活用することで、臨床試験期間、製造プロセス、市場投入までの時間を短縮することができます。これらの技術は、私たちにも大きく影響する、次世代の医薬品を生み出しているのです。
Harris博士は次のように語っています。「Pfizer社では、シミュレーションが道しるべとなり、画期的な治療法への道を照らし、創薬を加速させ、さらに可能性を現実へと変える正確なデータ主導の知見によって患者ケアに革命をもたらす未来を思い描いています。」
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