Ansysは、シミュレーションエンジニアリングソフトウェアを学生に無償で提供することで、未来を拓く学生たちの助けとなることを目指しています。
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Ansysブログ
May 8, 2024
食品医薬品局(FDA)に登録されている医療機器は何千種類もあり、その中には整形外科用インプラント機器もあります。整形外科用インプラントの中で最も一般的なタイプとしては、人工関節、プレート固定、固定器具の多くに使用されているボーンスクリューが挙げられます。一般的なボーンスクリューには国や地域によって特定のパラメータが設定されていますが、医療機器メーカーは、患者にとってより安全で、整形外科医にとってより便利な新しい革新的なスクリューを作る方法を常に模索しています。このようなメーカーをサポートしているのがNumalogics社です。
Numalogics社は、中小企業から大企業まで、多くの医療機器メーカーで仮想モデルを使用した設計、テスト、反復作業をサポートしています。カナダに本拠地を置く同社は、人間と機器の相互作用の生体力学特性に関する知見を提供することを目標として、3人の整形外科脊椎外科医によって2010年に設立されました。Numalogics社は、米国材料試験協会(ASTM)の医療および外科用材料および機器委員会のメンバーであり、米国機械学会(ASME)のV&V40委員会にも積極的に貢献しています。また、Avicenna Allianceのメンバーでもある同社は、ASTMやISOの規格試験が組み込まれた使いやすいアプリを開発することで、インシリコ医療機器テストの普及に取り組んでいます。さらに、忠実度の高い有限要素法解析(FEA)モデルを使用して、様々なインシリコテストのライブラリも作成しており、医療機器メーカーが、モデリングされた生体系の(人体に忠実な)荷重条件下でインプラントの挙動と性能を理解できるようにしています。Numalogics社は、特にASTM F543-A3(医療用ボーンスクリューの軸方向引き抜き強度を求めるための試験方法)に対応する計算モデルの信頼性を確立するために、Ansysと骨代替材料の主要企業であるSawbones社と協力しました。
医療機器メーカーにとって、スクリューの設計、プロトタイピング、実験は日常的な課題であり、数ヵ月かかることもあります。
このため、他に費やせるはずの貴重な時間とリソースを浪費したり、FDAへの機器の提出が遅れたりし、その結果、市場参入に時間がかかるどころか、こうしたプロジェクトへの取り組み自体が妨げられかねません。Numalogics社は、整形外科用ボーンスクリューの性能試験に使用されるASTM規格を仮想モデルで再現することで、タイムラインの短縮と研究開発コストの削減を図っていますが、スクリューをモデリングする前に、もう1つの重要な要素である骨が必要でした。
献体提供者の骨を使用することが試験に適した論理的な選択肢のように思えるかもしれませんが、実際はそうではありません。骨密度は性別、年齢、食事、既往症などによって大きく異なるため、各試験間で骨の機械的特性の一貫性が保証される可能性はありません。また、献体提供者の骨を入手することも容易ではありません。そこで、Numalogics社はSawbones社に目を向けました。
Sawbones社は、実際の骨と同じような感触であり、切断したり穴を開けたりできる骨代替材料を開発しました。この材料はFDAによって認められ、ASTM F-1839-08(整形外科用器具および機器試験における標準材料としてのリジッドポリウレタンフォームに関する標準規格)に準拠しているため、Numalogics社がモデルをテストするための完璧なベースとなります。Sawbones社は、骨格系全体をカバーする様々な模型を提供しており、犬、猫、馬の獣医学模型も用意しています。世界中の企業が同社の製品を使用して整形外科用機器をテストし、向上心溢れる医療専門家に実践的な学習体験を提供しています。一貫した機械的特性を持つ硬質ポリウレタンフォームブロックにより、異なるスクリュー設計間の性能比較が可能になるため、このブロックは整形外科用スクリューの標準的な性能評価方法として活用されています。
Numalogics社の生体力学シミュレーション研究開発スペシャリストであるDavid Benoit氏は次のように述べています。「私たちはSawbones社の材料を有限要素法モデルで仮想化しました。この材料の機械的挙動特性を様々な荷重モードで広範な実験を行って評価したことで、このモデルにすべての材料特性を組み込むことができました。その後、実際の整形外科用スクリューを用いた検証調査を実施し、モデルの信頼性を評価しました。」
ボーンスクリューにとって固着性能が重要であることは明らかですが、骨に固定後の固着特性は複雑です。骨密度に関係なく、ボーンスクリューのライフサイクル全体に渡って動かないことが理想です。Numalogics社は、5社のインプラントメーカーによる17種類のボーンスクリューを使用し、そのすべてを対象にしてスクリューの引き抜き実験を行いました。次に、ボーンスクリューの引き抜き実験をシミュレーションし、実機試験の結果とモデルの予測結果を比較しました。この数値モデルは、ボーンスクリューの最大引き抜き力を非常に正確に予測していました。
ボーンスクリューの物理的な実験とFEAテスト(断面図)
この検証調査の成功を受け、Numalogics社とSawbones社は、仮想環境でのボーンスクリューのテストを容易にし、シミュレーションの活用を広く普及させるためのアプリを開発しました。2024年初頭にリリースされたEndpoint™はクラウドベースのアプリです。このアプリを利用することで、最初の物理的なプロトタイプを製作する前に、Numalogics社の最新のコンピュータモデリングおよびシミュレーション技術を用いて整形外科用スクリューの設計を簡単にテストし、すぐに結果を得ることができます。
Benoit氏は次のように語っています。「ボーンスクリューの3次元モデルだけあれば、わずか数分のシミュレーションでスクリューの固着性能を評価することができます。実験的な設計調査に適したこのモデルを使用することで、新しい設計のプロトタイピングや実験にかかる時間とリソースを大幅に低減しつつ、最適な設計に辿り着くことができます。」
今のところ、顧客の利便性と理解を助けるために、顧客がコンピュータ支援設計(CAD)ファイルとテスト要件をSawbones社に提出し、その後、Numalogics社のエンジニアがそれらのシミュレーションをアプリで実行するようになっています。このアプリは、まず3DモデリングソフトウェアであるAnsys SpaceClaimでジオメトリを自動的に作成し、構造シミュレーションソフトウェアであるAnsys Mechanicalでモデルを作成して、最後に陽解法シミュレーションソフトウェアであるAnsys LS-DYNAでシミュレーションを実行します。この自動化は専用のACTソフトウェア拡張機能で処理され、結果の可視化にはPyAnsysコードライブラリのAnsys Data Processing Framework(DPF)が使用されます。
最終的には、ユーザーが自分でCADファイルをアップロードし、Sawbones社製ブロックの密度やスクリューの挿入深さなどのいくつかの単純なパラメータを指定すると、残りの作業が自動で行われるようになる予定です。また、最終バージョンでは、テスト結果だけでなく、ボーンスクリューを最適化して理解する上で非常に重要となる骨の破壊メカニズムに関する知見が得られるよう、より充実したコントロールをユーザーに提供することを目指しています。
Numalogics社のシミュレーションオートメーション研究開発マネージャーであるLoïc Degueldre氏は次のように述べています。「実験では、破壊の原因やフォームブロック内部の破壊メカニズムを発見することは困難です。数値シミュレーションでは破壊の様子をアニメーションで見ることができるため、骨の内部で実際に何が起こっているのかを確認するとともに、異なる設計間で破壊メカニズムを比較することができます。」
Numalogics社とSawbones社のアプリ「Endpoint™」のワークフロー
このアプリは多くの医療機器メーカーが新しいスクリューを設計するのに役立ちますが、これはNumalogics社が提供できるメリットのほんの一部に過ぎません。
Benoit氏は次のように語っています。「次に目指しているのは、お客様のために承認機関による結果の評価をスムーズにすることです。私たちの目標は、シミュレーションの結果をスクリューの性能を実証する証拠として受け入れてもらい、それを使って実験を削減または代替できるようにすることです。」
Degueldre氏は次のように述べています。「私たちはこのシミュレーションツールを誰でも利用できるようにし、最終的にはWebベースのアプリとして利用できるようにすることで、メーカーが市場投入前に新しいスクリューの設計を評価するために必要となる時間とリソースを大幅に削減するお手伝いをしたいと思っています。」
シミュレーションが医療機器のイノベーションにどのように役立つかをご覧ください。