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AnsysとPorsche Motorsport社: シミュレーションで勝利のレガシーを未来へつなげる

3月 18, 2025

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Laura Carter | Ansys、コーポレートコミュニケーションマネージャー
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「エンジニアへの質問」シリーズの今回のエピソードでは、Porsche Motorsport社のエンジニアに、最新の完全電動レーシングカーであるPorsche 99X Electric GEN3 Evoのパワートレイン効率について伺いました。

モータースポーツ界で最も注目を集めるレースの1つであるABB FIAフォーミュラE世界選手権では、新型のPorscheが登場し、大きな話題となっています。フォーミュラEの現チャンピオンドライバーであるPascal Wehrlein選手と2020年のチャンピオンであるAntónio Félix Da Costa選手を擁するTAG Heuer Porsche Formula E Teamは、最新の完全電動レーシングカーであるPorsche 99X Electric GEN3 Evoで再びレースに挑む準備を整えています。

99X GEN3 Evoは、最高レベルの加速性能を誇るFIAシングルシーターとしてサンパウロE-Prixで初めて登場しました。このレーシングカーは、0~60mphをわずか1.82秒で走行します。ポールポジションからスタートしたWehrlein選手は1分9.851秒のポールラップタイムを記録しました。これは昨年よりも3秒速いタイムです。このWehrlein選手のパフォーマンスと、すでに上位入賞を数回果たしているDa Costa選手の活躍で、チームは今シーズンに大きな期待を寄せています。

これまでのエネルギー制限事項を含め、駆動方式に関する基本的なルールは同じです。ただし、今シーズンでは、デュエル予選、レーススタート時、そしてアタックモード中に前輪も駆動することができます。この新しいルールにより、Porsche 99X Electric GEN3 Evoは、前輪駆動と後輪駆動を同時に使用する一時的な全輪駆動化により、グリップを強化していします。

Porsche Motorsport社の高電圧パワーユニットの開発エンジニアであるLeonard Mengoni氏にとって、こうしたルール変更は特に驚くことではありませんでした。私たちは、具体的な作業やAnsysとのパートナーシップがどのようにパワートレイン効率の向上に貢献しているのかについて、Mengoni氏に話を伺いました。

Porsche 99X Electric GEN3 Evoは、効率性の観点から、これまでと何が違うのでしょうか。

Mengoni氏: この新型車両では、最大350kWのピーク出力を実現しています。レースの2つの状況(レーススタートとアタックモード)で、以前とは異なる方法で最大出力を分散できるようになりました。今シーズンから全輪駆動とトラクションコントロールが初めて採用され、パワートレインを制御して、タイヤの回転を防ぎ、加速時のトラクションを高めることができます。

具体的には、全輪駆動が採用されたことで、車の挙動がこれまでとは少し異なります。加速時に後方から押し出す力が加わるため、回転が異なります。全輪駆動を有効にすると、カーブでの立ち上がりがスムーズで安定し、4つのホイールすべてが電動パワートレインによって駆動されるため、縦加速度が向上します。また、これまでよりも最大グリップが高い、新しいタイヤも採用しています。

後輪駆動と全輪駆動ではフロントとリアのパワートレインで動作ポイントが異なり、さらにトラクションコントロールが向上するため、動作ポイントの分布も少し広くなります。

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新しいパワートレインパッケージの効率を最大化するために、どのようにAnsysのツールを活用していますか。

Mengoni氏: 電動モータには、Ansys Maxwellの2Dおよび3D電磁界シミュレーションを使用しています。私は視覚型タイプのため、物事を実際に見て確認するのが好きです。Ansys Maxwellは、特定の境界や制限がどこにあるかを可視化して理解するのに役立ちます。アイデアをチームに提示する必要がある場合は、フルカラーのシミュレーション動画が効果的です。

私たちは、モータの出力トルク(電動モータの回転を実現する反起電力)を調べ、特定の入力電流に対してどの程度のトルクが得られるかを理解するために、Maxwellを使用しています。

また、損失を調べるためにも使用できます。Porsche 99X Electric GEN3 Evoに関しては、初期段階から損失モデルを使用しました。Maxwellでは強力な基盤が提供され、ポストプロセスや解析計算を追加することで、機能性を向上させることができます。

また、Ansys Mechanicalは構造的な観点から電動モータのロータを最適化するのにも役立ちます。一般的に、モータースポーツでは、コース上での走行速度が高くなるため、ロードカーよりも回転速度が少し高くなります。ロータは、このような速い速度で走行するために必要なトルクを発生させる電磁システムの唯一の可動部分であるため、重要です。設計プロセスの早い段階で電磁界特性と構造特性を考慮することは、非常に有効な手段です。

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サンパウロE-Prixでカーブを曲がる完全電動レーシングカーであるPorsche 99X Electric GEN3 Evo

電動モータ以外に、パワートレインの最適化で検討するものはありますか。

Mengoni氏: 常に、他のコンポーネントとの関連性を考えながら作業を進めています。たとえば、バッテリから電動モータに電力を伝達するインバータがあります。このインバータのスイッチングセルをシミュレーションするために、Ansys Q3D Extractorを使用しています。シミュレーションを導入することで、特定の設計のスイッチング損失を低減する方法や、インバータ損失を低減するための新しい設計を考慮できるようになります。さらに、スイッチング中にも振動が発生しますが、インバータとモータの安全な動作を確保するためには、この振動についても検討する必要があります。

45分間のレース中に発生するあらゆるスイッチング動作をシミュレーションすることは、時間に大きな差があるため、実用的ではありません。しかし、非常に詳細なシミュレーションに基づいて、より一般的で計算しやすいモデルを導出し、それらを使用してインバータと電動モータに基づいてパワートレイン効率を計算できます。これにより、今後何を目指すべきかが明確になります。

後輪駆動からアクティブな全輪駆動に車両を適応させることは、別の課題が生じるだけで、必ずしも課題を難しくするものではないのでしょうか。

Mengoni氏: これには、いくつかの違いがあります。私たちにとっては、シナリオが増えるため、処理する入力データが増えますが、採用するアプローチは似ています。一方で、コース上でコントロールやパワートレインを担当するエンジニアにとっては、大きな違いがあります。彼らは車両の挙動やテストベンチとの違いも考慮しなければなりません。

たとえば、コース上での制限事項を考慮したり、後輪駆動と全輪駆動での運転のしやすさを検討したりする必要があります。当チームのレースエンジニアや、コース上そしてドイツのヴァイザッハ開発センターにいるエンジニアたちは、ドライバーからフィードバックを受け取り、彼らが必要としている機能を実装するという非常に高度な仕事をしています。

エンジニアが効率を0.1%向上させても、そのわずかな変化をドライバーが実際に感じることはありません。しかし、ドライバーとチームに、より効率的なパワートレインを提供することで、レース中に利用できる選択肢が増えます。より多くのエネルギーを節約できれば、別の(より良い)戦略をとることができます。

レース当日に、数コンマ秒タイムを縮められる可能性もでてきます。シミュレーションから得られるこの0.1%の効率向上を、ドライバーは実感することはないでしょう。しかし、そのわずかに余ったエネルギーが、ここぞという時に競り勝つために必要なものかもしれません。

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グリッド上でレーススタートの合図を待つPascal Wehrlein選手(左)。サンパウロE-Prixで2位に入賞して表彰台に立つAntónio Félix Da Costa選手(右)。

Porsche社でのロードカーの開発において、モータースポーツが果たす役割について教えてください。

Mengoni氏: 当社では、第一にモータースポーツに対する大きな情熱があります。これはブランドのアイデンティティにもなっています。フォーミュラE以外のプロジェクトについては、ロードカーのエンジニアと定期的に意見を交換しています。当然ながら、彼らが対応している要件は、私たちとは若干異なります。Porscheを運転しているからといって、誰もがフォーミュラEカーと同じスピードで走行するべきではありませんが、電動パワートレインを搭載したロードカーも開発しているため、意見交換は大切です。

ロードカーのエンジニアとレーシングカーのエンジニアは、非常に似た分野と全く異なる分野で優れた技術経験を有します。たとえば、加速度と効率は共通のトピックですが、法的規制による制限事項とレースシリーズのレギュレーションによる制限事項では、内容は大きく異なります。

もう1つの違いは、その開発スピードです。フォーミュラEのレーシングカーでは、2年ごとに新しいパワートレインを開発しています。これは、チームの規模が小さく、規制やプロセスの数が少ないため、ロードカーの開発サイクルよりもはるかに短くなります。シミュレーションを使用することで、新しい機能と、それがどう機能するかを確認できます。シミュレーションで得たデータは、ロードカーの開発者にとっても有用な情報にもなります。一方で、ロードカー開発の一般的なプロジェクトでの経験から、私たちも恩恵を受けています。このように、双方がメリットを享受しています。

Porsche 99X Electric GEN3 Evoに関する興味深いインタビューを楽しんでいただけたでしょうか。このインタビューを受けてくださったMengoni氏に感謝を申し上げます。Porsche Motorsport社がAnsys のシミュレーションを導入してパワートレインの開発を推進している様子については、こちらのストーリーをご覧ください。


お客様におすすめのリソースをご用意しています。

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「私は視覚型タイプのため、物事を実際に見て確認するのが好きです。Ansys Maxwellは、特定の境界や制限がどこにあるかを可視化して理解するのに役立ちます。アイデアをチームに提示する必要がある場合は、フルカラーのシミュレーション動画が効果的です。」

— Leonard Mengoni氏(Porsche Motorsport社、高電圧パワーユニット、開発エンジニア)


Laura Carter
コーポレートコミュニケーションマネージャー

Lauraは、ライター兼クリエイティブスペシャリストとして、Ansysの製品に高い関心を持つお客様に向けて多様な情報コンテンツを提供しています。OEMメーカーやTierサプライヤーのアカウントの管理やライターとしての豊富な経験を活かして、自動車業界に関する独自の視点と専門知識でコンテンツを作成しています。

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