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メタサーフェスとは

メタサーフェスは、非常に薄く平面的で、光の波長よりも小さいナノスケールのメタマテリアルです。メタサーフェスはナノ構造とサブ波長の特徴を持ち、入射光波の位相、偏光、振幅を変えることができます。特に可視光領域の用途が注目を集めていますが、航空宇宙や防衛分野における中長波の赤外線波長操作に使用することも可能です。

メタマテリアルの概念

メタマテリアルは、メタ原子と呼ばれるナノスケールの構成要素からなる合成材料であり、それらを柱や円筒状に配置したものです。天然素材にはない独自の特性を持っています。メタマテリアルを使用して、光学、音響、その他の電磁波を操作できます。メタマテリアルは、近年急速に成長している先端材料とナノフォトニクスの分野に含まれます。

メタレンズ(メタオプティクスとも呼ばれる)は、光を制御し操作するためにさまざまな光学部品で使用される特殊なメタマテリアルです。従来の光学系は、より小さな光学メタサーフェスに置き換えられつつあります。メタレンズはフラットオプティクスであり、レンズや使用されるその他の光学部品には曲率がありません。

メタマテリアルやメタサーフェスの表面にある円筒や柱により、さまざまな波の挙動を操作および制御できます。柱は周期的なパターンに配置され、設計に応じてさまざまな方法でメタサーフェスが相互作用することを可能にします。

多様な種類のメタサーフェス

さまざまな形状やサイズのメタサーフェスがあり、すべて異なるユニットセルの構成要素から成り立っています。用途や目的の光学特性に応じて、異なる材料でメタサーフェスを作製することができます。

メタマテリアルは、その形状や材料の構成に応じて異なる機能を持ちます。例えば、単に光の位相を調整するものや、光の伝播を補助するものがあります。

メタサーフェスには主に誘電体とプラズモニックの2種類があります。すべてのメタサーフェスは異なるナノ構造を含み、トポロジー特性や光学特性をさらにカスタマイズできるため、エンジニアが多機能特性を持つ光学デバイスを作製することが可能です。

誘電体メタサーフェス

誘電体メタサーフェスは、高い屈折率コントラストを有する誘電体または半導体ピラー(断面形状は正方形または円柱状)で構成されています。誘電体メタサーフェスは、プラズモニックメタサーフェスよりも吸収損失が低い傾向があります。これは、目的の波長では透明な材料を使用するためです(可視波長から赤外波長の範囲)。

誘電体メタサーフェスの製造に使用される材料の一部を以下に示します。

  • シリコン(Si)
  • 窒化ケイ素(Si3N4
  • ゲルマニウム(GE)
  • グループIII-V半導体(GaAs、GAPなど)
  • ニオブ酸リチウム(LiNbO3
  • 二酸化チタン(TiO2
  • チタン酸バリウム(BaTiO3
  • 2次元材料半導体(WS2、GaSeなど)

プラズモニックメタサーフェス

プラズモニックメタサーフェスは、表面にプラズモニックナノ粒子またはプラズモニックナノ構造(アンテナなど)を含む金属誘電体のメタサーフェスです。これらは自由空間波長、すなわち真空中の電磁波の波長よりも小さい間隔で配置されています。プラズモニックメタサーフェスは表面プラズモンを利用します。これは金属と誘電体(すなわち絶縁材料)の境界における電子の集合運動です。表面プラズモンは非常に小さいため、センサーやイメージングなどの用途で極小スケールで光を制御および利用するために役立ちます。光学的特性が表面プラズモンの挙動をサポートするため、銀と金の2つは最も一般的に使用される金属です。

プラズモニックメタサーフェスはフォトニック結晶に似ており、メタマテリアルの繰り返しパターンが電磁波の挙動を制御します。メタマテリアル表面のプラズモンは、金属中の自由電子が光に反応して集団で移動するときに形成されます。光が金属に当たると、エネルギーの一部が吸収され、電子が振動します。この共振挙動により電子が光波に結合し、その波が金属誘電体界面に沿って自己持続的に伝播することを可能にします。

メタサーフェスにおけるナノ構造

メタ原子のユニットセルを定義する基本的な繰り返しパターンに加えて、メタマテリアルはさまざまな特別に設計されたナノ構造を含むことができます。ナノ構造は、メタマテリアルの特性を最適化するために役立ちます。以下に実例を示します。

  • メタマテリアルの表面にあるナノメートルアンテナ。このような小さなアンテナは屈曲または直線状で、同質の光学特性を持つか非線形の光学特性を持つかは形状により決定されます。
  • 小さな溝や開口部(ナノパターンやナノスリットと呼ばれる)をグラフェンや金属膜に作ることで、光学場を変化させることができます。このような特徴により、光を閉じ込めたり強度を上げたりして、光の挙動を変えることができます。
  • 場合によっては、ナノ構造のメタマテリアルの層をいくつか積み重ねて、反射を減らし、光が材料内をよりスムーズに流れるようにすることができます。このプロセスはインピーダンス整合と呼ばれます。

メタサーフェスの用途

3種類のメタ原子(三角形、円形、正方形の柱)を持つメタサーフェスの形状

メタレンズは幅広い用途や産業分野で注目されている。

センサー

センサーはメタレンズの最大かつ最も広範に適応される分野です。コンパクトなサイズとメタマテリアル光学系の多機能性により、さまざまな用途に適しています。 

エンジニアは、メタレンズの光の波長や偏光を選択することができます。メタマテリアルを利用することで、カメラやスマートフォンに超薄型センサーを組み込んで、単一の光子を捕捉して画質を向上させ、デバイスに多様な機能性を搭載することができます。さらに、防衛分野の高度なメタサーフェスベースのセンサーは、偏光を利用して反射をフィルタリングすることで赤外線と可視光の両方を検出できます。また、コンパクトなメタレンズは、内視鏡など小型センサーが不可欠な医療用イメージング用途にも適しています。

自動車

メタサーフェスの応用は自動車産業でも進んでいます。センサー分野と直接関連するユースケースの1つに、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転車で広く使用されている高度なLiDARセンサーの製作があります。もう1つの主な用途は、車からより効率的に光を投影することが可能な、超小型でフラットなヘッドランプです。

自動車産業は規制が厳格な技術領域であり、すべてのデバイスに一貫した品質が求められるため、メタサーフェスはまだ広く採用されていません。さらに、超小型のメタサーフェスを作製するという製造上の課題もあります。専門家は、自動車業界は近い将来急成長する分野になると予測しています。

イメージング

他の形態の回折光学と同様に、光の波長が異なれば、メタレンズとの相互作用も異なるものになります。このような異なる相互作用は色収差効果として知られています。この特徴は、イメージング用途で特定の色を除外する必要がある場合に有用です。一方、強い色収差は広帯域イメージング用途(広い波長範囲で動作するもの)には望ましくない場合もありますが、広帯域イメージング機能を備えたメタレンズの研究開発は活発に行われています。

医療分野におけるメタサーフェスの活用事例の1つとして、内視鏡で撮影した画像の解像度と鮮明度の向上があります。メタサーフェスにより入射光の位相シフトを引き起こすことで、歪み(単色収差と呼ばれる)を低減し、内視鏡の焦点深度を拡張します。従来のカメラシステムの場合、メタサーフェスを活用することで、カメラ内部の異なる偏光測定値を単一の光学素子に組み合わせることが可能となり、かさばる部品を減らすことができます。カメラへのメタサーフェス導入により、マシンビジョンやリモートセンシング用途の可能性がより広がります。

AR/VR

メタサーフェスは他の先進的な光学部品と同様に、薄く軽く平坦であるため、ヘッドセットでの画像投影に理想的であり、AR/VRヘッドセットの改善につながります。投影では、ライトガイドとしても知られる大面積の導波路を使用して、画像を目の方向に向けます。ライトガイドは広帯域通信で使われる小型の光導波路よりもはるかに大きな部品です。

かさばる光学部品はヘッドセットの重量のかなりの部分を占めます。重量が増えるほど首にかかる負担も増すため、AR/VRヘッドセットの設計では、快適な装着のために可能な限りかさばる部品を減らす必要があります。メタサーフェスは、こうした部品を削減し、ヘッドセットの重量を低減できる可能性があります。

分光分析

そのコンパクトなサイズだけではなく、メタレンズの強い色収差は分光法への応用にも適しています。メタサーフェスは、食品・飲料業界および医療分野における特性評価および診断用途に用いられる光学分光機器にも活用できます。

分光器を設計するエンジニアは、しばしば分解能と機器サイズのトレードオフに直面します。これは、分光器の集束素子が光学的収差をもたらす可能性があるためです。薄く平坦なメタサーフェスは、分光器を小型化しながら、広い帯域幅にわたって高解像度を維持するレンズを製作するために役立つでしょう。

メタサーフェスの設計と生産

メタサーフェスは、リソグラフィー、エッチング、ボトムアップ蒸着など、従来の半導体製造と同じ技術を使用して設計されます。そのため、半導体ファウンドリで使用される既存の製造技術と高い互換性があります。しかし、サイズが小さいため、すべてのバッチのメタサーフェスが均一で高性能であるためには、非常に正確なテンプレートが必要です。

メタマテリアルのプロトタイプ作製は、非常に高度で費用と時間がかかる作業です。メタマテリアルの各プロトタイプの作製は小規模であるため、コスト面で割に合わない場合があります。また、メタサーフェスの種類と、それが機能する電磁波についても大きな違いがあります。例えば、紫外線(UV)波長と相互作用するメタマテリアルに関心が集まっていますが、光学的損失が比較的大きくなり、物質を通過したり相互作用したりする際に光強度の損失が発生します。さらに、このようなメタマテリアルは、可視光や赤外波長用に設計されたものよりも製造が難しくなります。

メタサーフェス設計におけるシミュレーションの活用

効率的なメタサーフェス設計方法の1つに、複数回プロトタイプを作製する反復サイクルではなく、シミュレーションを導入する方法があります。シミュレーションの活用により、プロトタイプの数を削減できます。

メタサーフェスは薄い形状ながら、ナノスケールレベルの多くの繊細な特徴が含まれる大きな表面積を持っています。そのため、ソルバーアルゴリズムのメモリ要求を処理するために、ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)またはグラフィックスプロセッシングユニット(GPU)アクセラレータを必要とする高い計算コストが発生します。

こうしたハードウェアを独立してセットアップすると非常に高価ですが、専門のソフトウェアプロバイダーと提携することで、より安価で実用的なプロセスにすることができます。すでにハードウェアリソースがある場合は、メタ原子ライブラリを利用することができます。これは製造可能な柱形の設計データを提供するライブラリで、エンジニアは製造前によりロバストな設計を容易に開発できます。

メタサーフェス設計にAnsysのソリューションを活用

 メタサーフェス設計上の主な課題は、さまざまなサイズスケールで設計することです(つまり、ナノメートルスケールのユニットセルをセンチメートルスケールの光学系に配置する必要があります)。このため、スケールごとに異なるシミュレーション手法が必要になります。

もう1つの課題は、多くの場合、メタレンズは強い色収差を受けることです。つまり、メタサーフェスは意図した波長でのみ動作する傾向があり、それ以外の波長では性能が低下します。しかし、これは効率的な光学フィルタの製作など、一部のメタレンズ設計では利点となる場合があります。

より弱い、または無彩色的な収差を持つメタレンズを製作して、異なる波長を同じ焦点に集めることもできます。また、メタサーフェスによりサブ回折の集束を容易にすることができます。現在、液晶を用いて調整可能なメタレンズの開発が進んでいます。このように、メタレンズはさまざまな設計パターンがあり、多岐にわたる設計上の考慮事項があります。

Ansys, part of Synopsysは、高度な電磁波シミュレーション(Ansys Lumericalプラットフォーム)とレイトレーシングソフトウェア(Ansys Zemax OpticStudio)を提供しており、最終設計の決定前にメタサーフェスの波長依存効果をすべてシミュレーションすることができます。この2つのツールは相互互換性があるため、LumericalプラットフォームからOpticStudioにデータをインポートして、あらゆるサイズスケールの情報を提供できます。このように、両方のシミュレーションで同じメタサーフェスデータを使用して、プロトタイプ段階前に、設計が最大限にロバストであることを確認できます。

機械学習でメタサーフェス設計を改善

メタサーフェスのシミュレーションは計算コストが高くなります。機械学習アルゴリズムは、そうした高い計算負荷を軽減するために役立ちます。個々のユニットセルを個別に計算するのではなく、トレーニングされたメタモデルがシミュレーションの代役として機能し、計算要件を低減します。

機械学習は逆設計にも用いられています。これは、最初に望ましい特性を特定し、その特性を実現する材料構造を後から特定していく手法です。材料から始めて、次にその特性を特定する従来の設計方法とは対照的な手法です。機械学習を用いた逆設計では、必要な特性を持つ特定の材料構造とジオメトリを特定して、シミュレーションのコストを低減します。

機械学習はメタサーフェス用途の改善にも役立ちます。イメージングでは、捕捉後の画像の再構成に使用でき、従来の回折光学と比較して、はるかに高い効率と柔軟性を実現します。

メタサーフェスを備えたより高度な光学部品の設計と製造をシミュレーションで実現する方法の詳細については、今すぐ当社の技術チームにお問い合わせください

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