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Ansysブログ
February 16, 2022
ナショナルフットボールリーグ(NFL)の選手の間で脳しんとうが増加し、頭部外傷の予防への関心が高まる中、NFLはさまざまな角度からの衝撃によく耐えられるヘルメットの開発を目的とした「NFLヘルメットチャレンジ」を開始しました。この挑戦を受けて立つべく、カナダに本拠地を置く革新的な企業グループが、業界をリードするAnsysのシミュレーションソリューションを活用し、中でもAnsys LS-DYNAを最大限に活用して、この課題に真正面から取り組むKOLLIDEを設立しました。
信頼性の高い陽解法ソルバーは、期待を裏切りませんでした。KOLLIDEは、95個のパッドと、3Dプリントされたマトリックス構造(基本的な支持構造)を採用した革新的な保護システムが評価され、NFLのトップ3受賞者のうちの1人に選ばれました。これにより、プロトタイプ作成を進めるために必要な助成金55万ドルを獲得したKOLLIDEは、ヘルメットのさらなる改良と製造プロセスの拡張を計画し、延長戦に突入しています。
図1: KOLLIDEのフットボール用ヘルメットは、95個のパッドを使用して衝撃吸収性を高め、衝撃によく耐える革新的なシステムを採用している。
先進的なメーカーであるKupol社は、この課題に着目し、モントリオールで数十年の歴史を持つケベック州立高等工学技術学院(ÉTS:École de technologie supérieure)と協力して解決策に取り組むために、地元のスタートアップ企業やニッチ企業のイノベーターを集めました。
KOLLIDEのラインナップには、同社のほか、工業デザイン会社のTactix社、シミュレーション会社のNumalogics社、ソフトウェア会社のShapeshift 3D社が加わっています。
KOLLIDE は2020年11月に、1年間の期限を付けて、この課題に挑戦しました。しかし、パンデミックの影響で12名が10ヵ月の間、直接会うことができず、それ自体が別の課題を生み出すことになりました。
対面での打ち合わせが十分に行えず、またプロトタイプ作成に予算的な制約があることから、このチームはデジタル化に取り組んで、仮想設計および試験を行うことにしました。シミュレーションをコラボレーションツールとして導入することは、各地に分散しているメンバーをまとめるだけでなく、開発にかかる期間とコストを節約する上でも重要でした。
また、NFLからは、ヘルメットのオープンソース有限要素法(FE)モデル4つと、関連する衝撃試験手法および装置が提供されました。
Numalogics社でKOLLIDEのリサーチコーディネーターを務めるFranck Le Naveaux氏は次のように述べています。「ヘルメットのテストに使用するベンチテスト装置は高価です。Ansys LS-DYNAによる仮想テストは、スピードアップとプロトタイプ作成にかかるコストの削減に役立ちます。」
Numalogics社は、Ansysのほか、AnsysエリートチャネルパートナーであるSimuTech Group社と10年近く協力してきました。これまでNumalogics社のエキスパートは主に陰的モデリングを利用して、医療機器とその人体との相互作用をシミュレーションしていましたが、ヘルメットの衝撃をシミュレーションするには、陽的モデリングが必要でした。NFLのヘルメットテストプロトコルで最高の衝撃速度である秒速9メートルは、LS-DYNAによる一般的なシミュレーションよりも遅いかもしれませんが、外科医が手で行うよりもはるかに高速です。このチャレンジの前に、Ansys Workbenchを用いた静的または構造シミュレーションを最も多く経験してきたのはNumalogics社のエキスパートでしたが、
衝撃速度とプロトタイプ自体の構成から、この作業には陽解ソルバーを使うしかないと判断しました。
Numalogics社の生体力学シミュレーション研究開発スペシャリストであるDavid Benoit氏は次のように語っています。「ヘルメットに使用される材料はかなり複雑です。非線形性、粘弾性、ひずみ速度依存性が大きい材料をシミュレーションすることは困難でしたが、Ansys LS-DYNAはすでにこれらのプロファイルをすべて備えていました。」
モデルの精度と解析時間の最適なトレードオフを見つけて、シミュレーションを迅速に繰り返すには、これまでと異なるモデリング手法をとる必要がありました。このチームは、格子構造の各壁をどのようにモデリングすれば、この構造を最もよく再現できるかを検討しました。パッドの格子微細構造を忠実に再現したシミュレーションによって予測した結果に問題はありませんでしたが、ヘルメット全体をシミュレーションするのにあまりにも多くの計算リソースが必要になりました。このため、より少ない計算リソースでシミュレーションできるように、格子モデルを均質化しましたが、最初に40万個もの要素を解析しなければならなかったKOLLIDEのシミュレーションの道のりは、決して楽ではありませんでした。最終的に、1種類の衝撃のシミュレーションが16コアで3時間程度で終わりました。また、シミュレーションは、さまざまな衝撃を実証するために、3種類の速度で行われました。
図2: KOLLIDEのヘルメットは95個の衝撃吸収パッドで構成されている。
KOLLIDEはヘルメットをライナーとシェルの2つのパーツで構成されるシステムとして捉えてアプローチし、フェイスマスクを後回しにしました。また、このシステムの各パーツにシミュレーションを適用したことで、開発後期に設計の不具合が発生するリスクを軽減しながら、複数の種類のライナーとシェルの機能をテストすることができました。
Benoit氏は次のように述べています。「ヘルメットはシステムですから、ヘルメット全体の挙動に影響を与えることなく、1つの部品を最適化することなどできません。シミュレーションなしに、この課題に合わせてヘルメットを完全に最適化できるとは思えません。」
KOLLIDEのヘルメットの最も基本的な特徴の1つは、3Dプリントされた格子充填構造のネットワークで構成される独自のライナーです。大量のエネルギーを吸収するこのネットワークによって、パッド同士が柔軟に動けるため、衝撃の方向に応じて衝撃吸収性を高めることができます。さらに、このグループは、格子構造がさまざまな温度でどのように作用し、各種の衝撃に耐えるかを考慮するために、さまざまなプリンティング技術および材料を試してみました。
図3. Ansys LS-DYNAと3Dプリントにより、物理的なプロトタイプの作成コストを削減しつつ、製品開発を加速させることができた。
最終的なパッドは、熱溶解積層法(FDM:Fused Deposition Modeling)を用いてプリントされました。KOLLIDEは、シェルに関してさまざまな化合物をテストし、衝撃に耐える最適な材料を特定した上で、内側のパッドに衝撃を効果的に分散させるソフトシェルを選択しました。また、LS-DYNAに組み込まれ、完全に自動化された最適化ワークフローを実現する設計最適化ツール「Ansys LS-OPT」を用いて、パッドとシェルの剛性を調整しました。完成したパッドは、脳に損傷を与える可能性が最も高いとされている回転加速度をカットして緩和することも可能です。
最後に、このチームはフェイスマスクを製作しましたが、これは再設計というよりも、新しいライナーとシェルへのフィット感を調整したものです。
KOLLIDEの最終製品は、見た目は普通のヘルメットですが、カスタマイズ可能なフィット感など、格子構造を活かした高度な機能を搭載しています。シェルで吊り下げられたスリングには95個の衝撃吸収パッドが取り付けられていますが、この部分のエネルギー分布の改善には、シミュレーションが大きく貢献しました。
Franck Le Naveaux氏は次のように語っています。「期間が短いことを考えると、このプロジェクトは、シミュレーションなしでは不可能だったでしょう。ヘルメットを提出したとしても、良いものではなかったかもしれません。また、コンピュータ支援設計(CAD)ソフトウェアを使用して作業する設計者がコンセプトを持ち込んでテストするため、ワークフローを効率化するにはシミュレーションが不可欠でした。」
NFLが設定した目標を達成したチームはありませんでしたが、KOLLIDEは目標順位を上回る成績を収めることができました。このチームは、大きな可能性を秘めたヘルメットを開発したことで、ほかの2組のファイナリストとともに、プロトタイプ作成を進めるための資金援助を受けることになりました。
KOLLIDEはまさにそれを行う準備をしており、アップグレードされたヘルメットをより迅速に製造してHPS(Helmet Performance Score)の目標を達成するために、新しいコンセプトの探求と3Dプリントの利用拡大に取り組んでいます。NFLは助成金の規定に従って、1年間、KOLLIDEの進捗状況を追跡します。各チームは6ヵ月以内に新しいプロトタイプを提出してから、さらに6ヵ月間で先進的な最終製品を製作する必要があります。
詳細については、KOLLIDEのウェブサイトをご確認ください 。AnsysエリートチャネルパートナーであるSimuTechグループによる動画もご覧ください。