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ABB FIAフォーミュラE世界選手権は、モータースポーツの世界において、レースと将来の電気自動車(EV)のイノベーションを結びつける重要な役割を担っています。このスポーツは、より効率的な電動モータやパワーエレクトロニクス、そしてすべてが電動化された未来の実現を近づける急速充電バッテリなどの新しいアイデアのインキュベーターと呼ばれています。
なぜそのように呼ばれているのでしょうか。レース中、ドライバーは、乗用車が通常の運転条件では経験できないような、機能的な限界に挑むことが求められるからです。コースで収集されたデータに加え、さまざまなシステムおよびコンポーネントのシミュレーション、風洞実験、ドライバーシミュレータから蓄積されたデータは、車両の性能を最大限に引き出す方法を理解するために別々に解析されます。
レースチームが、レースを左右するすべてのシステム、さらにはシステムオブシステムズを単一の仮想環境でテストできるとしたらどうでしょう?ここでは、TAG Heuer Porsche Formula E Teamが現在シミュレーションをどのように活用しているか、またAnsys Digital Mission Engineering(DME)が今後この解析をどのように強化できるかを考えてみましょう。
Ansys Systems Tool Kit(STK)は、運用環境でのシステム解析を支援する物理ベースのアプリケーションである。
DMEについて語る前に、ABB FIAフォーミュラE世界選手権の全体的なミッションを明確にしましょう。そのミッションとは、究極の性能を誇示することで、持続可能なモビリティを促進することです。Porsche社は、フォーミュラEのコース上でもコース外でも、このミッションを追求しようとしています。時速200マイルで45分間、究極の効率で走行することができる、Porsche 99X Electricのような電動レースカーを設計していることが、その確固たる証拠です。
TAG Heuer Porsche Formula E Teamのエンジニアとドライバーは、効率性が競争力の鍵となるスポーツで勝利を収めることに全力を注いでいます。チームのミッションは、車両を最適化する際に、Porsche 99X Electricを1回の充電で走行させ続け、予選と実際のレースで最高のパフォーマンスを引き出す「スイートスポット」を見つけることです。一方で、フォーミュラEでは、バッテリを再充電するための「ピットブースト」と呼ばれるピットストップが追加される予定です。
Porsche 99X Electricの開発ワークフローの効率を最適化する上で、重要な役割を果たしているのが、Ansysのシミュレーションです。Porsche社のエンジニアは、Ansysのシミュレーションを活用することで、短時間で多数のシミュレーションを並列に実行しています。目標は、Porsche 99X Electricの多くのコンポーネント、特に電動パワートレインのコンポーネントの相互作用を解析し、それらをセッティングして最高のパフォーマンスを引き出す方法を見つけ出すことです。
チームはシーズンを通じてさまざまな車両セッティングとトラック条件に対するシミュレーションを実行し、さらなる解析を行うためのベースラインを決定します。同時に、ドライバーはドライビングシミュレータで複数の車両セッティングを試したり、さまざまな条件下で異なる走行戦略をテストしたりし、変更を加えた際の車両の挙動を確認します。その結果得られたシミュレーションデータとトラックデータはすべて、データネットワークを介してデータセンターとコース間でやり取りされます。
しかし、FIAによってテレメトリー(データの自動測定および送信)が禁止されているため、レース中にレースカーからライブデータを受信する機会はほとんどありません。そのため、Porsche社のエンジニアができることは、タイミングベースの解析、すなわち速度、加速度、またはその他の要因に基づいて競合チームと比較しながら車両の性能を評価することに制限されます。
当然ながら、こうした活動の結果として、大量のデータが生まれます。チームのテストと解析は、さまざまな種類のソースからのデータをうまく統合できるかどうかにかかっています。これには多くの調整が必要です。なぜなら、TAG Heuer Porsche Formula E Teamを表彰台へ近づけるための結論を導き出すには、すべてのデータを一緒に解析する必要があるからです。DMEは、レース環境を完全にデジタルでモデル化した上で、車両の性能を考慮する単一の環境にすべてを統合できる可能性を秘めています。
Ansys DMEを用いた動的モデリング
DMEとは、デジタルモデリング、シミュレーション、および解析を使用して、システムを現実的な運用環境で表現し、システムエンジニアリング設計のライフサイクル全体におけるミッションの成果と有効性を評価することです。DMEは現在、航空宇宙・防衛分野でデジタルミッションとシステムモデルを組み込み、真のエンジニアリング解析環境を開発して、ミッションの有効性を評価し、開発から運用、保守、維持管理に至るまで、あらゆるレベルの忠実度でミッションの成果を定義するための土台となっています。
Ansys STKなどのツールを用いたDME手法は、簡潔に言うと、システム(またはシステム群)のデジタル表現を、そのシステムが運用されると思われる条件下でシミュレーションし、最終的に定量的なパフォーマンス指標を導き出すというものです。
フォーミュラEにおけるミッションの有効性は、コース上での究極の持続可能なパフォーマンスを実証することで具体的に測定され、その結果は効率と速度の両方の観点から表現され、将来的には公道へ応用される可能性を秘めています。
AnsysのProduct Management for DMEであるJoshua Reicherは次のように述べています。「私たちがPorsche社をはじめ、あらゆるお客様に提供しようとしているのは、これらのさまざまなシミュレーションを1つの共通の運用環境に統合し、適切なタイミングで適切な情報を確実に確認できるようにする方法です。また、必要に応じて情報を適切なシミュレーションツール間でやり取りできる仕組みを提供することも目指しています。目標は、このようなデータ共有によって「共通状況図(COP)」を構築することです。」
STKでは、都市環境内での車両間通信の品質を調査する際に、高周波の影響も組み込むことができる。
STKが提供するのは、Porsche社のエンジニアがいつでも利用可能な情報に基づいた「共通状況図(COP)」と、それらすべての情報を単一のミッション環境で表現する手段です。これにより、電子機器がどのように動作しているか、また車両に構造的な問題があるかどうかを判断できるようになります。
たとえば、ベルリンとサウジアラビアのジェッダとの気温差がバッテリの充電状態にどのような影響を与えるか、あるいは特定のコースを走行する際の同様の課題について検討する場合、STKでは、変数を単一の視点で解析し、すべてを1つの環境で確認することができます。
AnsysのDME部門のPrincipal Product ManagerであるWashington Wedderburnは次のように語っています。「現実的でタイムダイナミックな3次元シミュレーションの中でレース環境を細部にわたってモデル化することができます。運用環境の適切なモデルがあれば、高層ビルが正確な測定値の取得に影響を与える可能性のある都市部でのGPS性能を評価することができます。」
マドリードでのプレシーズンテスト走行で最速タイムを記録した新型のPorsche 99X Electric GEN3 Evo。
ここまで、チームが活用しているすべてのデータと、シミュレーションを利用してそれらのデータを統合し、レース全体の戦略を策定するプロセスについて説明してきました。もし、すべての車両システムとシステムオブシステムズを、高解像度の地形、画像、高周波環境が再現された現実的でタイムダイナミックな単一の3Dシミュレーション内にモデル化し、天候やトラックの状況を含め、いつでもどこからでもその動作を確認できるとしたらどうでしょう。
こうした新しい機能により、TAG Heuer Porsche Formula Eは、上海からロンドンまで、市街地のストリートコースを対象にした無数のテストケースに対して仮定を立て、それを徹底的に評価し、検証する機会を得ることができます。さらに、この新たに得られたすべてのデータを活用し、レース中にコース上で起こりうるすべての相互作用を想定した戦略を策定することができます。
車両の性能を深く理解するために、この運用環境でSTKにデジタルモデル(たとえばレースカーそのもののデジタルツイン)を組み込むことも可能です。デジタルツインとは、一定の頻度と精度で現実と同期される、現実世界のモノやプロセスの仮想モデルです。
Porsche 99X Electricのデジタルツインを作成して、システム環境に組み込み、物理的なレースカーとの橋渡しを行うことで、デジタル世界に物理的なシステムを反映させることができます。同時に、実際のデータを利用して、このデジタルモデルを動かすことも可能になります。エンジニアは、実際のレースカーに搭載された各種の車両センサーやシステムからリアルタイムで収集されたデータをデジタルツインに統合することで、Porsche 99X Electricの各要素がさまざまな条件下で効率に与える影響をシミュレーション環境でより正確に観察できるようになります。
モータースポーツでドライバーが直面する一般的な懸念の1つとして、レース中、特にコーナーリング時に発生する重力加速度によるドライバーの首への負担が挙げられます。非線形構造ダイナミクスシミュレーションソフトウェアAnsys LS-DYNAとSTKを連携させて使用すれば、ドライバーの人体モデルや、ドライバーを守るためのすべての構造要素のモデルを単一の仮想テスト環境に組み込むことができます。構造要素には、ヘルメット、頭部前傾抑制(HANS: Head And Neck Support)装置、安全ベルト、ドライバーを囲む安全ケージなどが含まれます。これらは、Ansysのソフトウェアがコース上でのドライバーの安全性をどのように向上させているかを示す、非常に適した例です。
Reicherは次のように語っています。「ミッションシミュレーションから実際のレースカーへ、またその逆へと情報が送られ、構造モデルに似たデジタルツインを組み込むことにより、STKでレース中の位置や速度に関する貴重な情報を取得し、プロットすることができます。そこから得られた情報は、複数のデジタルツインモデルに供給することができます。これらのモデルはバッテリや車両の各部位の電子モデルで、タイヤの摩損やバッテリの充電状態などの予知保全に使用できます。」
本稿では、Ansysのソフトウェアによってモータースポーツチーム全体の運用環境を仮想世界で拡張できる大きな可能性の一端をご紹介しました。詳細については、当社の『デジタルミッションエンジニアリング』ページをご覧ください。
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