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通常の重力下(左)と微小重力下(右)における顕微鏡下の細胞
Yuri社は、宇宙の微小重力環境を利用してバイオテクノロジー製品を開発および製造している宇宙バイオテクノロジー企業です。同社は、細胞培養、タンパク質結晶、植物に対応するモジュール式のバイオリアクターとインキュベータを開発し、国際宇宙ステーション(ISS)をはじめとする宇宙機へ送っています。Yuri社は2022年以降、微小重力環境で誘発または製造されるバイオテクノロジー製品の独自のパイプラインを開発してきました。その一環として、バイオ製造に特化した新しい宇宙由来の細菌株を特定したり、宇宙環境での自然適応を誘発することで、特性が調整された非遺伝子組み換え微生物を生成したりしています。
Yuri社は、Airbus社の元エンジニアであるMaria Birlem氏とChristian Bruderrek氏に加えて、シリアルアントレプレナーであるMark Kugel氏によって、2019年に設立されました。Airbus社在籍中に数多くのISSペイロード開発に取り組んでいたBirlem氏とBruderrek氏は、政府主導の研究にとどまらない、微小重力環境のライフサイエンスにおける大きな可能性を見出しました。それ以来、彼らの研究チームは30人以上のメンバーを擁するチームへと成長し、南ドイツの本社とルクセンブルクのエンジニアリング拠点を中心に活動を展開しています。航空宇宙エンジニアと生物学者で構成されるこのチームは、数十年にわたる人類の宇宙飛行エンジニアリングと宇宙生物学に関する知識と経験を融合させ、地球上およびその先における人類の健康に明るい未来をもたらすことを目指しています。
Yuri社は、「Mission Possible(ミッションポッシブル)」の一環として、ボン・ライン・ジーク応用科学大学の実験用ペイロード2基をThe Exploration Company社のカプセル型宇宙船「Nyx」に搭載する契約をドイツ航空宇宙センター(DLR)と交わしました。Yuri社は、Ansys ApexチャネルパートナーであるCADFEM社の協力を得て、シミュレーションを活用し、このミッションを進めています。
ペイロードのハードウェアは、2つのScienceBox、インターフェースプレート、およびそのプレートに統合されたプラグで構成される。
欧州宇宙機関(ESA)は2023年の年末に、地球低軌道(LEO)にある宇宙ステーション間での貨物輸送するサービスを2028年までに実現することを目的としたコンペを開催しました。現在、欧州諸国は、他国のパートナーとの物々交換システムを活用して、貨物と乗組員を宇宙へ送っています。一方で、民間企業は世界中で宇宙競争の新たな動きを引き起こしており、ISSのような政府主導の宇宙ステーションではなく、民間の宇宙ステーションが開発されることも見込まれています。欧州諸国では、地球から宇宙へと輸送する代わりに、LEOにある宇宙ステーションとの間で貨物を運ぶ独自の方法を模索する動きが活発化しています。
2024年5月、ESAは、商業貨物計画に関する2つの契約締結を公表しました。そのうちの1つはThe Exploration Company社との契約であり、同社は現在、モジュール式で再利用可能、しかも軌道上で補給可能なカプセル型宇宙船「Nyx」を開発しています。Nyxは、古代ギリシャの宇宙創造の神の名前にちなんで名付けられました。
初期型のNyxは、最長6ヵ月間の運用で、最大4,000キロの貨物をLEOに運ぶことができます。現在、The Exploration Company社は、微小重力実験を含むさまざまな実験案を持つ企業からの事前予約申し込みを受け付けています。
DLRが関わっている研究プロジェクトは他にも多くありますが、この実験では、宇宙放射線下での胞子発芽に焦点を当てています。前述のように、地球上で微小重力を再現することは容易ではありません。さらに、宇宙の放射線量を地上で再現するとなると、研究者の健康が害される可能性もあります。
宇宙に送られる胞子サンプルは、アスペルギルス・カーボナリウスというカビです。これは、ポストアポカリプスを描いたテレビ番組『The Last of Us』の宇宙版を連想させるかもしれませんが、アスペルギルス・カーボナリウスはブドウの腐敗の主な原因となるものです。アスペルギルス・カーボナリウスは短時間で広範囲に広がる性質を持つため、科学実験の対象として適しています。
ベースプレート上で30℃で23.5時間培養されたアスペルギルス・カーボナリウス
Nyxに搭載されるYuri社のペイロードは、2つのScienceBox、機械的なNyxアダプターインターフェースプレート、およびそのプレートに統合された電気的なNyxアダプタプラグで構成されます。同社は、構造有限要素法解析(FEA)ソフトウェアであるAnsys Mechanicalを使用して、ペイロードインターフェースプレートとScienceBoxの構造解析を実施し、公称荷重と改善すべき箇所を特定しました。
構造有限要素法解析(FEA)ソフトウェアAnsys Mechanicalにより実施された構造解析(右)
各ScienceBoxには、3台の流体システムが収容されます。各流体システムには、2つの膜タンク、蠕動ポンプ、ベースプレート、および培養チャンバーが組み込まれます。Yuri社は、これらのシステムを開発し、顧客のニーズに基づいて3Dプリントします。流体システムは、以下のようなこの実験特有の科学的要件を満たすものでなければなりませんでした。
顕微鏡画像を取得するため、主たるScienceBox内の各流体システムにはレンズレス顕微鏡が搭載されますが、副次的なScienceBox内の流体システムには搭載されません。
主たるScienceBox(左)には、それぞれ1台の顕微鏡が搭載された3つの実験ユニットが配置され、副次的なScienceBox(右)には、顕微鏡なしの3つの実験ユニットが配置される。
Yuri社は、培養チャンバーの隣にカメラセンサーとマイクロLEDアレイを追加し、顕微鏡画像を収集しました。カメラは、主要な電力消費源かつ主要な発熱源となります。また、必要な画像を得るには、常に温度に敏感な生物学的サンプルの近くにカメラを置く必要があります。
Yuri社のCTOであるDaniel Kaschubek氏は次のように述べています。「問題は、最も温度に敏感なコンポーネントを、最も熱を発生させるコンポーネントの隣に配置しなければならないことです。」同氏は2021年に同社に入社し、レンズレス顕微鏡の開発を主導しました。
顕微鏡を搭載している実験ユニット(左)と顕微鏡のない実験ユニット(右)
胞子サンプルとカメラセンサーの間の距離は、わずか1.3ミリメートルです。胞子の温度解析を行ったところ、胞子が発芽するためには、温度が37℃を超えたり、20℃を下回ったりしてはいけないことが分かりました。
Kaschubek氏は次のように語っています。「Nyxカプセルは再突入実証機であるため、その熱システムはペイロードに合わせて最適化されるわけではありません。The Exploration Company社から提示された温度範囲は0~50°Cでしたが、これは胞子が許容できる範囲を大きく超えています。」
これには、カメラから発生する熱が含まれません。さらに残念なことに、ペイロードの電力に制限があるため、冷却システムを追加することはできません。ただし、小型の加熱システムは追加できます。
Yuri社は、加熱補助の有無による温度範囲の違いを確認するために、流体シミュレーションソフトウェアであるAnsys Fluentを使用して、2種類の熱解析を行いました。1つは温度を35℃と仮定したケース、もう1つは温度を7℃と仮定したケースです。
低温ケースの熱解析(流体シミュレーションソフトウェアAnsys Fluentを使用)
高温ケースの熱解析(流体シミュレーションソフトウェアAnsys Fluentを使用)
同社は、これらの設計ケースに基づき、培養チャンバーに簡単に取り付けられるカメラに加えて、加熱システムも開発しました。
Kaschubek氏は次のように述べています。「顕微鏡と熱解析は非常に密接な関係があります。シミュレーションにより、設計を迅速かつ効率的に繰り返して、すべての要件を満たすことができます。また、トレードオフを実行したり、制限を確認したりすることも可能です。たとえば、私たちは、熱解析を使用して、顕微鏡カメラセンサーを操作できる最大時間を導き出してから、それに基づいて顕微鏡に関連する設計判断を行いました。」
Fluentの高い忠実度と使いやすさにより、Yuri社は設計案を迅速に生成し、解析することができました。Kaschubek氏は次のように語っています。「Fluentはメッシュ生成が非常に簡単で、全体として非常に優れた統合ソリューションであるため、私たちはさまざまな解析ニーズを満たすことができます。」
設計面で大きな効率化を実現したYuri社ですが、まだやるべきことが多くあります。カプセル型宇宙船Nyxはペイロード用には設計されていないため、完成したScienceBoxをThe Exploration Company社に送り、ペイロードに適合するようにカプセルを組み立ててもらう必要があります。Mission Possibleは、現在2025年中の実行を予定としています。
Ansysの構造FEA機能の詳細については、Ansys Mechanicalのページをご覧ください。Fluentの活用方法については、こちらをご参照ください。
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