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多くの人は漠然とは理解しているかもしれませんが、海は、私たちの日常生活を支えている重要な基盤です。PierSight社の共同創設者兼CEOであるGaurav Seth氏は、次のように述べています。「家庭内で目にする物の9割は、海を渡ってきています。」Seth氏は海の重要性について真摯に取り組んでいます。PierSight社は、環境を保護し、海運取引をより効率的にするために、海上でのあらゆる動きを可視化することを目指しています。
海洋保護は容易なことではありません。海賊行為から、国際取引の妨害まで、海上にはさまざまな脅威が広がっています。現在直面している緊急課題の1つは、石油流出の検出です。石油の流出は、自然界だけでなく、私たちの生活にも大きな影響を及ぼす緊急事態を引き起こします。
石油流出を可能な限り迅速に検出することで、迅速に対応することが可能です。迅速に行動することで、生物学的多様性の維持、生息地の保護、地域経済や健康への危害抑制など、悪影響を最小限に抑えることができます。
排他的経済水域(EEZ)の監視における課題に対応するためには、迅速な検出と対応のプロセスが必要です。EEZには広範な海洋が含まれており、違法、無報告、無規制漁業(IUU漁業)、あるいは人身売買やテロなどのさまざまな脅威を回避するために、積極的な監視が必要です。
これらの問題に対処するために、各国は正確で広い範囲をカバーできる常時監視手法を必要としています。つまり、海事業界全体における持続的な監視手法が必要とされています。この課題に対するPierSight社のソリューションは、衛星の活用です。
アンテナのゲインおよび放射パターンを示すゲインプロット
PierSight社が開発している海運業界向けの持続的な監視システムは、合成開口レーダー(SAR)と船舶自動識別システム(AIS)衛星を組み合わせたものです。
Seth氏は、これらの技術がどのように機能するかを簡単に説明するために、AISを、ライブ位置情報を共有できるスマートフォンのアプリに例えています。海運業界では、一意のIDに関連付けられた位置信号をAIS衛星で受信して、船舶の位置を特定します。しかし、悪意のある者がAIS信号を遮断する、あるいはシステムをだまして別の場所にいるように認識させようとすることも可能であるため、AISだけでは完全な解決策にはなりません。
この問題に対処するために、海運業界では地球観測(EO)技術を導入して、船舶やその他の対象物の位置を確認できる地表画像を作成しています。しかし、それでも夜間、あるいは嵐や厚い雲などの特定の気象条件下で継続的な監視を維持することは依然として困難です。
Seth氏は次のように述べています。「こうした状況でSARが役立ちます。宇宙で懐中電灯を備えたカメラを使用するような方法です。位置が不明になった瞬間に、船舶を検出できるようになります。」SAR衛星に搭載された「懐中電灯」として表現されるものは、写真として撮影された光学画像ではなく、表面特性の変化を捉える電波です。このような電波による画像は、暗闇や気象条件によって妨げられることはありません。
SAR衛星は、海の画像を常時撮影し、宇宙でデータを処理して、中継衛星と通信して、AISをオフにした船舶や石油流出が疑われる船舶など、確認する必要がある情報を地上に送信することができます。その後、既存のEO衛星は、必要に応じて高解像度の画像を取得して、詳細な情報を提供します。
PierSight社は、SARおよびAIS衛星技術を使用して、低遅延のデータ処理、シームレスなデータ融合、海洋全域のカバレッジを備えた、天候に左右されない画像を提供することで、海事業界を支援することを目指しています。その実現に向けて、衛星の小型化とコスト削減を図りながら、適切で永続的かつ包括的な監視を提供できる、32機の衛星からなる完全なコンステレーションの構築を目標としています。
Seth氏は次のように述べています。「当社では、この技術を手頃な価格で大量生産できるように開発したいと考えています。」この価格帯を実現するために、PierSight社は海洋用途に特化した衛星を設計することに焦点を当て、制約を軽減しました。Seth氏は次のように述べています。「次に、システム設計と技術の面で革新を行い、CubeSatのフォームファクターで世界初となるSARを開発できました。今では、非常に低コストで製造し、市場に流通させることができます。」
このようなコスト効率の高さは、PierSight社の技術が未来を見据えて設計されているため実現されています。同社の衛星はソフトウェア制御されるレーダーを採用しているため、まっさらな新しい衛星を打ち上げるのではなく、次世代技術に対応するファームウェアを更新するだけでアップデートが完了します。また、この技術と並行して、実用的な警告や知見をもたらすダウンストリームアプリケーションプラットフォームも開発しています。
PierSight社の目標は、製品と同様に明確で一貫していますが、目標の実現は容易ではありません。まず、宇宙は多くのリソースを必要とする産業であり、これまでは製品の実現に長い時間と多額の資金が必要でした。多くのリソースを確保しながら、長いリードタイムでビジョンを実現することも非常に困難です。さらに、宇宙は非常に過酷な環境です。Seth氏は次のように述べています。「宇宙では、たった1つのミスで、それまでの努力や労力が無駄になることもあります。」これらの懸念に対処するために、同社はAnsysのシミュレーションを導入しました。
飛行荷重に対する限界調査のための展開構造のシミュレーション
Seth氏は次のように述べています。「シミュレーションは非常に重要です。正確なエンジニアリングを行うには、その前に正確なシミュレーションを実行する必要があります。」
たとえば、PierSight社は、デジタルミッションエンジニアリングソフトウェアであるAnsys Systems Tool Kit(STK)を使用して、宇宙環境におけるミッションと衛星の熱性能を正確に可視化することができました。
Seth氏が語るように、太陽の位置によっては、宇宙機の非常に狭い領域が数百度にわたる温度勾配を示すこともあるため、予測が極めて重要になります。同社は、STKを導入することで、太陽の惑星ベクトルデータを生成し、影響を調査することができました。
STKは、同社の利用者が抱える大きな懸念点である、将来の衛星コンステレーションの潜在的なカバレッジを予測することもできます。たとえば、該当するEEZを完全にカバーし、特定の周波数でデータを受信したいとします。STKソフトウェアを使用することで、打ち上げ前にコンステレーションをシミュレーションして、未来の特定の時間におけるEEZのカバレッジおよびデータ周波数を正確に予測し、視覚的な例を提示できます。
PierSight社のチームは、高周波電磁界シミュレーションソフトウェアであるAnsys HFSSとシミュレーション統合プラットフォームであるAnsys Workbenchを使用して、すでに販売している展開可能なアンテナを含め、複数の宇宙機アンテナを設計しました。
これらのアンテナは激しい振動に耐える必要があるため、同社はシミュレーションを使用してアンテナ性能を解析してから、Seth氏が「極めて過酷」と表現する物理振動試験に進みました。これは、3パネルのアンテナに1,500Gの衝撃を与える振動試験です。
シミュレーションと実際の振動試験を比較したところ、結果が一致していることが確認され、Ansysが示す結果の信頼性が実証されました。
このシミュレーション結果は、「実行困難な宇宙環境テストの前に、設計に自信を得るのに役立つ」とSeth氏は述べています。これは、エンジニアリング効率を向上させるのにも役立ちます。
PierSight社の財務目標についても、Ansysの製品群が役立ちます。Seth氏は次のように述べています。「当社のような、一回のチャレンジが勝敗を分けるスタートアップ企業にとって、ビジョンや海を守りたいという信念について高い賛同を得られても、そのための資本を確保することは容易ではありません。その1回のチャレンジを成功させるために、シミュレーションが必要になります。あらゆる角度からシミュレーションを実施することが非常に重要です。」また、同社はAnsysスタートアッププログラムを通じてソフトウェアを購入できたことで、コストを節約できました。
同社は、Ansysのシミュレーションを導入したことで、コストとエンジニアリングの両方で成功を収めることができました。同社の成果はこれだけではありません。同社の製品は、すでにVarunaミッションを通じて、運用環境での価値が実証されています。
電子パッケージの振動特性を把握するためのパッケージレベルのモーダル解析
テスト対象周波数で入力した平行軸(Y方向)でのモーダル解析の一致
PierSight社が目指す海運業界の変革は、実現しつつあります。2024年12月30日、同社のVarunaミッションにおいて、CubeSatフォームファクターのSARを軌道に乗せるために、インド宇宙研究機関(ISRO)のPSLV Orbital Experimental Module(POM)プラットフォーム上に極軌道打ち上げロケット(PSLV: Polar Satellite Launch Vehicle)が搭載されて発射されました。
Varunaミッションは、より高い技術成熟度(TRL: Technology Readiness Level)を目指すだけでなく、迅速に前進するPierSight社の能力を示すことも目的としていました。実際に、このミッションに採用された衛星はわずか9か月で開発されています。SAR衛星のプロトタイプを製作するための一般的な期間は約48か月であるため、開発時間を81.25%も短縮できました。
さらに注目すべきは、開発初期はわずか2名で開発をスタートさせ、9ヶ月間にチームのメンバーが徐々に増えたことです。この点においても、急成長する企業にとってシミュレーションは恩恵をもたらしました。Seth氏は次のように述べています。「シミュレーションを導入することで、さまざまな分野の深い専門知識がなくても問題を解決できるようになります。」
円偏光アンテナの偏光純度を示す軸率プロット
Varunaは、PierSight社の有望な未来の小さな一歩にすぎません。2025年末頃に打ち上げが予定されている次の商用衛星は、同社の新しい事業のスタートとなります。これらの商用衛星が打ち上げられ、コンステレーションを構築し、現状の問題を解決できるデータを提供できるようになれば、同社は大きな成功を収めるでしょう。同社は今後、以下のようなソリューションを提供予定です。
PierSight社が目指すものは、これだけではありません。同社は、包括的なデジタルミッションエンジニアリングのアプローチを採用し、世界最大級の衛星メーカーの1つになるという目標に向かって取り組んでいます。
STKが衛星開発ミッションにどのように役立つかご紹介します。
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