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Ansysブログ

May 6, 2024

問題の核心に迫る

Ansysのヘルスケア専門研究チームは、革新的な心臓モデリング手法によって、心臓血管疾患をはじめとする様々な治療に革命をもたらしています。

エンジニアリングシミュレーションは、50年以上前に初めて登場して以来、ヘルスケア分野の研究に大きく貢献してきました。ほとんどのお客様は、Ansysにヘルスケア研究チームという専門グループがあることをご存知ないかもしれませんが、このチームは革新的な新しいモデリング技術を先駆けて開発し、医療分野に大きな影響を与えており、多大な貢献をしています。

主に欧州を拠点として活動しているこのチームは、博士号レベルの優秀なエンジニアや学生で構成されており、脳研究、整形外科モデル、呼吸器系シミュレーションなどの様々なヘルスケアテーマに取り組んでいます。また、チームの生物学的モデルの共同研究と現場での検証を進めるため、一部のメンバーは大きな病院で研究に従事しています。 

同チームは、一連の新しいベストプラクティスを確立し、それらをAnsysのユーザーに普及させることで、高度なシミュレーション理論を実際の用途に役立てる支援をしています。その主な目標の1つは、シミュレーションの専門家でない人たちでも高度なシミュレーション手法をより容易に利用できるようにし、この手法を学術、臨床、産業の様々なパートナーにとって身近なものにすることで、シミュレーション手法の一般化を推進することです。

これらの共同研究者は、高度なモデリング手法を活用して、新しいヘルスケア機器、診断方法、治療計画を設計し、最終的には、実際の患者の(病態)生理学的状態を反映させた個人のモデル、すなわち個々のデジタルアバターを開発することができます。これらのモデルは、医療イノベーターによって、以下の2つの目的で使用されることが期待されています。

  1. 新しい治療法を実施する前に、特定の患者のデジタルツインでテストする。
  2. 治療が安全で効果的であるという証拠を提示するために、多数の患者の仮想コホートを作成する。

心臓血管疾患に対する新たな非侵襲的な視点

Ansysヘルスケア研究チームは2019年以降、ヘルスケアにおける最も緊急な課題に取り組み続けています。その課題の1つが、世界の死因のトップに挙げられる心臓血管疾患の発見と治療を改善することです。

 世界保健機関(WHO)によれば、心臓血管疾患は世界全体の死因の約3分の1を占めており、この統計値は現代医学と研究努力にも関わらず増加傾向にあります。

世界の学術機関、病院、さらに民間企業は、心臓血管疾患の基本的なメカニズムを理解するために多額の資金を投じていますが、臨床的に測定不可能な心臓の内部をin vivo(インビボ)またはex vivo(エクスビボ)研究によって測定することができず、大きな障害となっています。

コンピュータシミュレーションは、リスクが低く、非侵襲的であり、より現実的な代替手段を提供します。シミュレーションにより、他の方法では測定できなくても関連性のある指標を別途入手できるため、臨床医は疾患に対する理解を深めることができます。in vivo(インビボ)試験に完全に取って代わることはないでしょうが、インシリコモデリング手法を用いることで、患者を危険に晒すことなく、in vivo(インビボ)での人体研究や治験よりもはるかに迅速かつ効率的で、しかもコスト効率の良い人体研究(循環器系など)が可能になります。さらに、これらのモデルは、研究者がヒトの生理学の基本的なメカニズムや、その生理学が特定の病変を発症させる過程をよりよく理解するのにも役立ちます。 

Heart models

心臓の筋繊維の形状と向きは、構造強度と電気励振の両方で極めて重要な役割を果たしている。研究者は、PyAnsys Heartを使用することで心臓の筋繊維を計算して可視化し、その後のシミュレーションで利用できるようになる。

Ansysヘルスケア研究チームは、心臓血管疾患の理解、診断、および治療に有効なツールを迅速に開発するために、「PyAnsys-Heart」と呼ばれるプロジェクトに多大なリソースを投入してきました。ヘルスケア研究チームのメンバーは4年以上に渡り、Ansys LS-DYNAを使用して、心臓の血流、組織力学、電気生理学的挙動をモデリングしてきたのです。これらのモデルにより、実際の流体-構造-電気生理学相互作用(FSEI)を詳細に研究し、患者固有の鼓動する心臓の特性を評価できるようになりました。

これらの詳細なFSEIモデルでは、構造応力、電気励振、筋繊維の向きなど、他の方法では複雑で測定することが難しい心臓の特徴を非侵襲的に再現することができます。また、心包(心臓を包む二重の袋状の膜で、液体で満たされている)を考慮するとともに、心臓の弁と心房を境界条件として考慮することも可能です。

マルチスケールおよびマルチフィジックス特性を持つ心臓のモデリングは計算的にも経済的にもコストがかかります。さらに、理論的な知識と実践的なシミュレーションノウハウの両方を必要とします。そのため、Ansysヘルスケア研究チームは臨床および学術パートナーと緊密に協力して、これらのモデルを作成し、世界の心臓血管研究チームに提供しています。

このチームが提供するPyAnsys-Heart Pythonライブラリを使用すれば、心臓の解剖学的構造の一部だけでなく全体のモデルも、さらにはシミュレーションモデルも作成することができます。このライブラリは近いうちにAnsysユーザーが利用できるようになり、これによって心臓モデリング作業がよりスムーズに行えるようになります。 

FSEI

ヒトのリアルな心臓モデルを開発することは、3つの異なる物理現象を緊密に連成して、流体-構造-電気生理学相互作用(FSEI)を研究することを意味し、現在の科学ではほぼ不可能な技術である。

普及を促進するオープンプラットフォーム

主要な目標の1つは、様々な研究課題を持つ幅広いユーザーがチームのモデルを活用できるようにすることです。そのため、PyAnsys-Heartモデルは、オープンソースのPythonプログラミング言語をベースとし、直感的でユーザーフレンドリーなインターフェースを備えています。PyAnsys-Heartモデルは、Pythonエコシステムの他の要素とも完全に互換性があります。専門家でない方でも、PyAnsys-Heartモデルのプリプロセス、シミュレーション、ポストプロセスの基本的な手順を簡単に進めることができます。

ユーザーは、AnsysのPyAnsys-Heartモデルを使用して、特定の分野に関連する心臓の部位に焦点を当てることにより、計算の複雑さを軽減して、ワークフローを効率化し、時間、労力、その他のリソースを節約することができます。研究者は、完全なシステムレベルのシミュレーションを行うことも、流体の流れ、組織力学、電気生理学的挙動のみをモデリングすることもできます。数値流体力学(CFD)ソルバー、有限要素法解析(FEA)ソルバー、電磁界(EM)ソルバーが1つの環境に統合されているLS-DYNAのマルチフィジックス機能は、人間の心臓の物理的な複雑さを捉えるのに理想的なソリューションです。

PyAnsys-Heartモデリングライブラリの最初のバージョンは、心不全を患っている実際の患者から得られた、一般公開されている複数の心臓形状でテストされました。Ansysヘルスケア研究チームは、将来的には、シミュレーション機能の進歩に応じて、ユーザーが患者固有のカスタマイズされた大規模なコホートモデルを作成できるようにしたいと考えています。

Ansysは、医療機器メーカー、大学の研究チーム、臨床医にこれらの構成ブロックを提供することで、革新的な新しい機器、発見方法、治療法の開発と採用を支援し、加速させることができます。PyAnsysがオープンソースであるということは、研究者自身がPyAnsysを自身の研究に簡単に組み込むことができるということです。ユーザーは、PyAnsys-Heartの既存の機能を基に、独自のシミュレーションワークフローやモデルを構築し、独自の要件に応じたシミュレーションを行うことができます。

Ansysでは、PyAnsys-Heartプロジェクトに多額の投資を行っています。患者の転帰が改善するという大きなリターンが期待できるほか、長期的には心臓血管疾患との闘いで重要な役割を果たすことになると考えているためです。これはヘルスケア業界全体へのシミュレーションツールの普及にもつながります。 

PyAnsys Heart

Ansysヘルスケア研究チームによって開発されたPyAnsys-Heartモデルは、血液で満たされ、鼓動する人間の心臓の複雑さをより深く理解し、研究するための視覚的でグラフィカルな手段を提供する。

ヘルスケアのイノベーションに全力で取り組む

PyAnsys-Heartプロジェクトは、Ansysが推進するシミュレーションの利用促進を通して社会的利益を創出している取り組みの一例に過ぎません。

多くの企業や病院は、患者固有の心臓の医用画像を格納した独自のデータベースを構築しています。これらの企業や病院がこの貴重なデータを活用する上で非常に効果的なのがPyAnsys-Heart手法です。一部の企業や病院は、様々なシミュレーションに合わせてカスタマイズできる汎用の心臓モデルを作成したいと考えているかもしれません。そのような場合には、より汎用的な市販のツールを使用する必要があるでしょう。 

市販のセグメンテーションソフトウェアは優れているものの、画像からシミュレーションへと進む一般的なプロセスは時間がかかるだけでなく、多大なリソースを必要とする上、予期せぬ課題が生じる恐れもあります。AnsysのPeggy HuangおよびChristoph Maurathと、Synopsys社のGeorge Hyde-Linaker氏およびChris Goddard氏の協力により、AIを活用したSynopsys社のAS Cardioを使用したワークフローが改善され、臨床画像から心臓のメッシュを生成し、それをAnsys LS-DYNAにスムーズにインポートできるようになりました。 

市販のツールを用いたこの手法では、4Dスキャンから始めて、患者の心臓のある期間の血流をLS-DYNAでシミュレーションするまでのプロセスを20分以内に終わらせることができます。LS-DYNAで精細かつロバストなメッシュが利用可能になれば、ユーザーは流体、構造、電気生理学、およびこれらの物理現象の組み合わせを含む標準的な汎用モデリングを実行できるようになります。このワークフローは、これまで複数のテストが完了していますが、数千人の患者の心臓画像に適用することで、ワークフローがより改善されます。

synopsys-cardio-ls-dyna.png

実際のところ、シミュレーションがヘルスケア研究に多大な成果をもたらす可能性はあるものの、学術、臨床、産業の開発チームの多くは、コンピュータモデリングのソリューションと手法に精通した経験豊富なエンジニアを雇う余裕がありません。また、これまでは、シミュレーションソフトウェアの新規ユーザーがマルチフィジックスやマルチスケールの生物学的モデリングの要求や課題に対応できるようになるまでに、長い時間を要していました。

Ansysは、ヘルスケアに携わる世界中のユーザーと密接に協力する専門のヘルスケア研究チームを設立し、PyAnsys Heartモデルをお客様に提供することで、心臓血管疾患との闘いに寄与する革新的なイノベーションを推進しています。

Ansys LS-DYNAヘルスケアのイノベーションにどのように役立つかについて、詳細をご覧ください。