Skip to Main Content

      

Ansysブログ

September 12, 2023

Wolfspeed社、Ansys optiSLangでイノベーションを推進

Joe Biden米大統領が今年初めに米国の製造技術のイノベーションとリーダーシップに焦点を当てた「Invest in America(対米投資促進)」政策を打ち出した際、ノースカロライナ州ダーラムに本社を置くWolfspeed社を最初の訪問先として選びました。Ansysのお客様であるWolfspeed社は、さまざまな高電力用途でシリコンから炭化ケイ素(SiC)への移行を先導し、半導体業界を変革しています。同社は現在、世界のSiC材料の60%以上を生産していますが、生産量を飛躍的に拡大するために65億ドル規模の投資をして生産量拡大に取り組んでいます。

Wolfspeed社のシステムチームリードエンジニアであるBlake Nelson博士は、次のように述べています。「SiCは、まだ広く知られていませんが、高出力エレクトロニクスに理想的な半導体材料です。高出力が要求される分野では、これまで採用されてきたシリコンの代替材料として、性能面で多くの利点をもたらします。

多くの半導体企業は、デジタルコンピューティング用に1平方ミリメートルの空間に数百万個のトランジスタを実装しようと取り組んでいますが、当社では、単体で1平方ミリメートルの大きさであるトランジスタを開発しています。このトランジスタは自動車のパワートレインや車載充電システムなどの用途で、はるかに高い電力を供給します。」  

Nelson博士によれば、SiCはシリコンよりもバンドギャップ電圧が高く、相対抵抗が低いことに加えて、優れた熱放散を示す熱特性を有するなど、要件の厳しい用途に理想的な材料特性を備えています。同社のSiCベースのトランジスタは、シリコンよりもはるかに高い温度で確実に動作し、スイッチ速度も大幅に速くなるため、電気自動車(EV)の900Vおよび1,200Vの高電圧アプリケーションをサポートできます。

Silicon carbide XM3 half bridge power module

Wolfspeed社製のSiC XM3ハーフブリッジパワーモジュールは、電気自動車の1,200ボルトシステムに対応しており、従来のシリコンパッケージよりも機能性に優れている。

Nelson博士は次のように述べています。「当社の製品は、従来のシリコン製品よりもはるかに高電力かつ高温用途に適しています。トランジスタで実現できることを再定義しようとしているのです。」

3月にBiden大統領が本社を訪れたことで、すでに多くの業界専門家から高い評価を得ていたWolfspeed社は、内燃機関から電動パワートレインへの自動車の変革を推進する世界的企業として、多くの人に認識されるようになりました。また、Motor Trend誌の2022年度カーオブザイヤーに選出された完全電気自動車であるLucid Airは、Wolfspeed社が設計したトラクションインバータを採用しています。Lucid Airは、1,050馬力のモータを搭載し、EPAの測定基準では推定航続距離は516マイルであることが認められています。

車載用充電装置: 見落とされる重要なコンポーネント

Wolfspeed社のパワーモジュール事業部門に所属するNelson博士は、EVの充電システムに重点的に取り組む理由について、次のように述べています。

「充電システムには、まだまだ検討の余地があります。電気自動車をさらに普及させるためには、自宅を含む複数の場所でより簡単に充電できるようにする必要があります。」

その解決策は、どのようなコンセントにも簡単に差し込める車載用充電システムをすべての車両に搭載し、車両所有者の自宅からAC電流を取り込み、DC電力に変換してバッテリを充電することです。車載用バッテリ充電装置は、EVの動力を維持するための鍵となるだけでなく、車両自体から運動エネルギーを回収して、ブレーキ時に追加で充電することも可能になります。 

Onboard charging

Wolfspeed社のパワーモジュール事業部門のエンジニアたちは、Ansysのソリューションを導入し、小型で軽量ながら高出力を実現できる車載用充電システムを革新的な方法で設計している。

High frequency DC DC converter

Ansysのシミュレーションは、Wolfspeed社でのさまざまな製品開発をサポートしている。この6.6kWの高周波DC-DCコンバータは、バッテリからDC電力を取り込み、電圧を変換および調整して、ヘッドライトなどの各種自動車システムのニーズを満たす役割を果たしている。

車両の航続距離とエネルギー効率の両方を最大限まで高めるためには、車載用充電システムをサイズと重量の面で最適化する必要があると、Nelson博士は指摘しています。しかし、従来のシリコンでは、こうしたシステムの出力、サイズ、速度が大きく制限されていました。そこで、SiCに注目が集まりました。

Nelson博士は次のように述べています。「SiCは、高い性能を維持しながら、小型化と軽量化を実現することで、車載用充電装置を改善します。より高速なスイッチングが可能になるため、充電装置の設計では、より高いスイッチング周波数を利用できます。これにより、より小型のコンデンサやトランスなど、小さな受動コンポーネントを搭載できます。パワーモジュール事業部門の目標の1つは、車内スペースの有効活用を阻んでいるとも言える、このブロックの重量とサイズを最小限に抑えることです。」

Nelson博士のチームは、車載用充電装置をサポートする革新的なパッケージ設計や、急速な加速をサポートするトラクションインバータなど、他のEVコンポーネントの開発にも取り組んでいます。

Nelson博士は次のように述べています。「お客様のすべてのニーズを満たす方法で、SiCの小さなチップを外の世界と接続することに取り組んでいます。大容量の電流を流すために部品を絶縁し、チップ内で発生する損失から生じる熱をすべて放散できることが必要です。また、化学物質の流出にも耐え、湿気や湿度などの環境要因にも耐える必要があります。さらに、衝撃や振動など、機械的な力に耐えられるように設計する必要もあります。」

また、SiCパッケージの設計においては接続性を考慮しなければなりません。

Nelson博士は次のように述べています。「チップは、信号制御経路と電力経路の両方から電気的に接続して、大容量の電流を流す必要があります。チップから熱を除去するには、外部に熱を逃がすインターフェースが必要です。これらすべてを設計に組み込む必要があるため、設計とエンジニアリングが非常に複雑になるのです。」  

XM3 thermal FEA

Wolfspeed社のハーフブリッジパワーモジュールの熱シミュレーションの結果

革新的な製品に必要となる革新的なアプローチ

Wolfspeed社のパワーモジュール事業部門に所属するNelson博士が率いるチームは、Ansys optiSLangを介して統合されたAnsysのソリューションスイートを導入し、車載用充電装置、DCコンバータ、トラクションインバータなど、EVの商業化に不可欠となるコンポーネントのパッケージ設計の設計と検証を行っています。

同チームは、Ansys Electronics Desktopの電気シミュレーションとAnsys Icepakの伝熱シミュレーションを統合する新しいoptiSLangシミュレーションワークフローを活用して、実際のEV運用環境に設置されたSiCチップの最終温度を予測する閉ループプロセスを作成しています。Nelson博士は、このプロセス統合と設計最適化ソリューションが、チームが担当する複雑なマルチフィジックス研究に最適である理由を次のように述べています。

「チップの電気的特性は接合部の温度に大きく依存するため、それぞれの性能を単独で調べるだけでは不十分です。熱の結果を電気シミュレーションに直接マッピングし、不要なデータを取り除いた電力損失の推定値を熱解析に戻して反復する必要があります。Ansys optiSLangでは、こうしたシミュレーションを収束させて、真の閉ループを作成することができます。」

Ansys Mechanicalでは応力とひずみの解析がサポートされ、Icepakを組み込むことで熱膨張によって生じる応力を調べることができます。Nelson博士は次のように述べています。「ベースプレートの曲率の最適化を行い、ベースプレートの最適な機械的接続と熱的接続を実現しています。」

「同様に、パッケージに対して多数の電磁界解析も実行しています。この解析では、誘導寄生成分と抵抗寄生成分の両方を予測できます。特に、電力経路と信号経路の間の電磁結合を調べます。さらに、パッケージの絶縁を調べます。そして最後に、特に加速などのイベント中の熱特性を最適化し、装置からエネルギーと熱を除去することで、優れた性能を実現しています。」

「現在市場に出回っているツールには、このような閉ループ解析をサポートする機能がありませんでしたが、Ansys optiSLangはその不足している部分を補うことがわかりました。optiSLangを使用することで、パッケージのデジタルツインを作成し、電流出力が熱の発生にどのように影響するか、またその逆の影響についても、真のシステムレベルの性能を解析できます。」

EV市場は、2030年までに2,700万台近くまで拡大すると予想されており、業界内の大手企業は、近い将来3,500億ドルを超える投資を行うと予想されています。Wolfspeed社は、Ansysのマルチフィジックスシミュレーションによって実現する革新的なパワーデバイスソリューションで、リーダーシップを発揮できる立場にあります。

Nelson博士は次のように述べています。「Ansysは、より高度で複雑なパワーモジュールの最適化をサポートすることで、当社のパッケージのイノベーションを促進しています。Ansysのツールを使用することで、ダイのジオメトリからパッケージのジオメトリまで、独自の最適化ルーチン、マッピング、膨大な最適化セットを作成できます。Ansys optiSLangの導入で実現される閉ループ設計プロセスのあらゆる可能性と、当社で促進される製品のイノベーションの未来に期待しています。」

Ansys optiSLangがどのように役立つかをご覧ください。