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Ansysブログ
April 18, 2024
世界中の企業が二酸化炭素排出量の削減に取り組む中、エンジニアや研究者は、再生可能エネルギー資源を最大限に活用するための革新的な技術を常に探し求めています。米国エネルギー省によれば、わずか1時間半の間に地表に降り注ぐ太陽光によって、全世界の年間エネルギー消費量を十分に賄えるとのことです。これほどのパワーを持っていることを考えると、太陽エネルギーが世界で最も有望な再生可能エネルギーソリューションの1つであることは驚くことではありません。しかし、ソーラーパネルは通常、簡単に確保することができない広大な土地を必要とします。
フランスに拠点を置く再生可能エネルギーソリューションのパイオニアであり、AnsysスタートアッププログラムのメンバーでもあるHelioRec社は、土地の制約を超えて太陽の力を活用するため、沿岸の海上に設置可能な浮体式太陽光技術を開発しています。
浮体式太陽光技術が成功するかどうかは、風、波、潮流などのさまざまな環境負荷と、係留索の設計などの運用要因に耐えられるかどうかにかかっています。HelioRec社は、これらのシステムの構造健全性と最適な性能を確保するために、Ansysのシミュレーションを活用し、高度な有限要素法解析(FEA)、数値流体力学(CFD)、材料選定を含む綿密な設計最適化を行っています。この最適化されたワークフローにより、HelioRec社は太陽エネルギー技術の開発を加速させ、事業を拡大し、持続可能なエネルギーへの世界的な取り組みを推進しています。
フランスのスタートアップ企業、HelioRec社はAnsysのシミュレーションを活用し、沿岸の海上に設置可能な革新的な浮体式太陽光技術を開発している。
浮体式のソーラーパネルにより、これまで設置できなかったエリアにも太陽エネルギー技術を導入できるようになるだけでなく、水冷効果によってソーラーパネルの効率も向上します。太陽光発電(PV)変換プロセスでは温度が重要な役割を果たし、パネルの温度が上昇すると太陽電池の性能が低下します。このため、ソーラーパネルの電気効率と出力はいずれも、動作温度に線形的に依存することになります。ある研究によると、相対的な年平均出力エネルギーは、陸上よりも海上の方が約13%高く、月によっては最大で18%高いエネルギー収量が得られるとのことです。
浮体式太陽光発電所では、湖、貯水池、池などの水域をソーラーパネルのプラットフォームとして利用します。この手法には、効率の向上、土地資源の保全、既存の水力発電との潜在的な相乗効果など、従来の陸上型の太陽光発電設備よりも優れた複数の利点があります。浮体式のソーラーパネルは、設置場所の確保に関連する問題を軽減するだけではなく、環境負荷の少ないエネルギー生産手段も生み出します。
浮体式太陽光発電システムのもう1つの利点は、送電網に依存しないため、独立したエネルギー源となることです。
前述したように、浮体式太陽光技術は環境負荷や運用要因に耐えなければなりませんが、FEMを使用すれば、さまざまな荷重条件下での構造挙動をシミュレーションして解析し、材料使用量と構造設計の最適化を図ることができます。一方、CFDは、波による運動や風荷重など、浮体式プラットフォームに作用する流体力の評価に役立ちます。エンジニアはFEMとCFDを組み合わせることで、設計パラメータを改善し、浮体式太陽光発電システムの安定性、耐久性、エネルギー出力を向上させることができます。
30度傾斜をつけた複数の浮体式のソーラーパネルに対する静的風荷重シミュレーション(Ansys Fluentを使用)
Ansysエリートチャネルパートナーである4CAD Group社が2022年後半にHelioRec社に紹介したAnsysスタートアッププログラムは、Ansysのマルチフィジックスシミュレーションソリューションとサポートを手頃な価格で提供し、起業初期から中期段階のスタートアップ企業を支援するプログラムです。
Ansysスタートアッププログラムのメンバーとなってから、HelioRec社は広範なシミュレーションを実施して、浮体式太陽光発電プラットフォームの設計を最適化し、エネルギー収量を最大化しながら、環境負荷に対するロバスト性の確保に取り組んでいます。
HelioRec社の創設者兼CEOであるPolina Vasilenko氏は次のように述べています。「シミュレーションソフトウェア業界を牽引するAnsysは、FEMとCFD解析に特化した包括的なソフトウェアを提供しています。その高度な機能により、複雑な現象を正確にシミュレーションすることが可能となり、再生可能エネルギーなどのさまざまな業界で設計の最適化が進められています。」
標準的な浮体式太陽光発電の基本的なシステムコンポーネントは以下の6つです。
HelioRec社の創設者兼CEOであるPolina Vasilenko氏
浮体式太陽光発電(FPV)技術の基本的なシステムコンポーネントは6つある(出典:米国エネルギー省)。
通常、PVパネルの各セット間には歩道が設けられており、作業者が歩道を通ってパネルや他の部品にアクセスできるようになっています。
HelioRec社の発電所には、基本的な機能に加えて、独自の設計、リサイクルプラスチックを用いた循環型経済アプローチ、機械学習(ML)アルゴリズムという3つの革新的な特徴があります。特に、このアルゴリズムはエネルギー生産の予測、運用メンテナンスの大幅な効率化、システムの最適化に貢献しています。
HelioRec社の技術の仕組みと、シミュレーションによる性能の保証について詳しく見ていきましょう。
浮力システム、FPV技術、係留索を含むソーラーパネルの一般的な設置を想定して、HelioRec社の設計を描いたイメージ図。
HelioRec社のエンジニアは、Ansys MechanicalでFEAを使用し、浮体式プラットフォームの構造構成を調整することで、材料の選定とレイアウトを最適化し、動的荷重に効果的に耐えるように設計しています。Mechanicalは、解析のためのジオメトリの準備から、より高い再現性を得るための追加の物理特性の接続まで、幅広い解析ツールを備えたダイナミックな環境です。直感的でカスタマイズ可能なユーザーインターフェースにより、あらゆるレベルのエンジニアが迅速に正確な回答を得ることができます。
歩道構造と係留索とのつなぎ部分に関しては、Ansys Mechanicalを使用して応力解析が行われた。
これに関連して、数千ものエンジニアリング材料に関する性能・コスト・環境負荷に関する情報を含むビルトインの包括的なデータセットであるMaterialUniverseをAnsys Granta Selectorで使用し、材料選定の効率化も図っています。さらに、Granta Selectorの体系的な材料選定手法により、エンジニアは特性の比較、可視化、および制限設定を行うことができます。
HelioRec社では、可撓性材料を使用しているほか、各浮体システム間に独自設計のコネクタを採用しています。この組み合わせにより、システム全体にかかる機械的応力が低減されています。また、ソーラーパネルと浮体間にエアギャップが設けられていることで、パッシブ冷却システムが機能し、発電所の効率が向上するとともに、自然水冷効果も高まっています。
HelioRec社では、自社のFPV技術に対応する最も持続可能で耐久性のある材料を特定するために、Ansys Granta Selectorを使用している。
HelioRec社独自のハイドロロック機能は、付加質量として作用する水を浮体内に保持するように設計されています。これにより、金属やコンクリートなどのバラスト材に追加コストをかけることなく安定性を向上させることができます。
Ansys Fluentは、プリプロセスからポストプロセスまでのCFDプロセスを効率化するユーザーフレンドリーな最新のインターフェースを備えています。
浮体とパネルの周囲の流れを示すシミュレーション(Fluentを使用)。
水面下に沈んだ歩道に生じる抗力をチェックするために、Fluentを用いて流体シミュレーションを行い、歩道をモデル化した。
HelioRec社では、CFDシミュレーションを利用して、流体力学的挙動に関する重要な知見を得て、係留索の設計とプラットフォームの安定性の向上を図っています。
HelioRec社はワークフローを迅速化したことで、生産業務をエストニアからフランスに移転し、新しい生産施設を設立することができました。現在までに、2箇所の浮体式太陽光発電所が稼働中で、その他3箇所の準備が進行中です。
Vasilenko氏は次のように語っています。「Ansysのソフトウェアを用いて、これまでにないレベルの設計最適化を実現した結果、フランスに新しい生産施設を設立することができました。」
フランスのブレスト港に浮かぶHelioRec社の浮体式太陽光発電所。
HelioRec社は、設計を改善し、運用効率を向上させることで、世界の再生可能エネルギー分野に大きく貢献したいと考えています。
持続可能なエネルギーソリューションとして浮体式太陽光発電技術の可能性を最大限に引き出すには、この技術の設計を最適化することが不可欠です。HelioRec社では、シミュレーションの統合を通じて、設計の最適化を継続し、より環境負荷の少ない、持続可能な未来をサポートする太陽エネルギーの推進に取り組んでいます。
Ansysが起業初期から中期段階のスタートアップ企業をサポートしているプログラムの詳細については、Ansysスタートアッププログラムをご覧ください。