Volkswagen Motorsport GmbH 様

CADプロセスに統合され、設計エンジニアが直感的に操作できるシミュレーションがもたらす可能性と課題とは

デジタル技術によってビジネスプロセスを変革し、新たな価値を生み出し、競争上の優位性を確立したり、社会を変えるような影響を与えたりするデジタルトランスフォーメーションが世界中の企業で進行している。製造業をはじめ産業界においても新たな価値を持った製品の設計開発や、製造、運用など製品ライフサイクル全般に、デジタルトランスフォーメーションによる急激な変革の波が押し寄せている。その中にあって、ANSYSのシミュレーションテクノロジーは、顧客企業やパートナーの知識と経験と技術力の融合により、新しい価値の創造に大きく寄与している。

 “Innovate everywhere, anytime”をテーマに、2019年10月4日にアンシス・ジャパンが開催した「ANSYS INNOVATION FORUM 2019」から、電動レースカーの短期開発を例に、解析専任者ではなく設計エンジニアが直感的に操作して使える新しい解析のアプローチが、開発にどのような影響を与え、またどのような可能性や課題があるのかについて解説したVolkswagen Motorsportの計算/シミュレーション責任者ベンジャミン・アーレンホルツ氏の特別講演「最新および従来のシミュレーション方法の適用によるレースカー開発の促進」を紹介する。

事例作成協力
Volkswagen Motorsport GmbH
Head of Calculation/Simulation 
ベンジャミン・アーレンホルツ 氏

こちらの事例はANSYS INNOVATION FORUM 2019にてご講演いただきました内容を元に作成
特別講演:最新および従来のシミュレーション方法の適用によるレースカー開発の促進

Volkswagen Motorsport初の電動レースカー「ID.R」

Volkswagen MotorsportはVolkswagenの100%子会社で、モータースポーツ車両の開発、製造、販売を手掛ける企業だ。作り出すレース車両は、過去50年以上にわたり、オンロード、オフロードのレースで数々の輝かしい成績を上げてきている。従来の車両では動力は内燃機関だったが、2016年に親会社のVolkswagenが、車両の動力のコンセプトを内燃機関から電気モーターに変更したことで、Volkswagen Motorsportも電動レースカーを製作することになったという。そこで開発されたのが、同社初のバッテリーと電気モーターによる完全な電動レースカー「VOLKSWAGEN ID.R」だ。

VOLKSWAGEN ID.Rは2018年にデビューし、山登りレースとして有名な米国コロラド州のPikes Peak International Hill Climbにおいて従来の記録を16秒以上も縮める7分57秒148という、電気自動車以外も含めたコースレコードを打ち立てた。このほかにもいくつもの記録を作っているが、2019年に入って難関コースとして知られるドイツのニュルブルクリンクの北コースで、電気自動車ではトップ、全車種でも2位となる6分5秒336というタイムをたたき出している。

VOLKSWAGEN ID.Rはドライバーを乗せた状態で1,100kg程度と軽量で、モーター出力は500kW(680HP)、バッテリー容量は50kWhで20分で満充電できるといったスペックだ。ほかのレースカーと比較して出力はそれほど大きくないが、空力性能と重量を組み合わせて考えると、非常に競争力が高い。静止状態から時速100kmまで加速するのに2.25秒しかかからないという。これほど高性能なVOLKSWAGEN ID.Rであるが、さらに驚くのは開発期間だ。プロジェクトのスタートは2017年10月、しかし2018年6月のレースに参加することになっていたため、ゼロから完成までわずか250日しかなかった。

短期開発を可能にしたシミュレーション主導設計

短期間で開発するため、シミュレーションを開発の早い段階から多用したことが役立ったと、アーレンホルツ氏は話す。

「従来のように経験だけに基づいて物理的な試験を続けても、最終的に走行可能な車両が製作できたかもしれませんが、すべてのパーツについて軽量化が厳しく求められるモータースポーツの世界においては、何かひとつが重くなるだけで他のレースカーに負けてしまいます。このため、最適な設計で高速走行ができるレースカー実現のためにシミュレーションに注目しました」

坂を上るためにどういったエネルギーが必要か、構造的にはどのような挙動になるのか、ダウンフォースはどうかということを知るためには、すべてのコンポーネントを解析する必要があった。Volkswagen Motorsportは少人数の企業であり、解析にはANSYSも多大な協力を行った。

こうした開発では、一般的には設計エンジニアが設計したものを解析担当者に渡して解析してもらい、そのフィードバックを設計エンジニアに返す、という流れになる。しかし最近では設計エンジニアが使っているツールの中で、数回クリックすると簡単にパーツやシステムについてのフィードバックを得られるようになってきた。こうした“シミュレーション主導設計”は、VOLKSWAGEN ID.Rの開発のように時間的制約がある場合は理にかなっているという。

アーレンホルツ氏は、VOLKSWAGEN ID.Rの開発における「ANSYS Discovery Live」を使ったシミュレーション主導設計の例として、ボディーの空力シミュレーションや、高圧ブラケットのトポロジー最適化をあげた。空力シミュレーションは、設計エンジニアがボディーのジオメトリを変更しながら、それが空力的にどう影響するかをリアルタイムに見ながら設計を進めようというものだ。ただし、シミュレーションの精度は「ANSYS Fluent」のような従来型ツールには及ばないため、ある程度設計が進んだら解析専任者が従来型ツールで検証する必要があった。

高圧ブラケットについては、もともとの設計では重量が1,800gあったものが、ツールに制約事項を与えてトポロジー最適化を行ったところ、130gにまで軽量化された。ただし、形状的に製造が難しい設計であったため、そのデザインを活かしつつ設計エンジニアが設計し直し、最終的に150gとかなり軽量なものを作ることができた。

アーレンホルツ氏は、シミュレーション主導設計ツールのシミュレーション精度について、比較的単純な形状のパイプの圧力損失の解析結果を、「ANSYS Discovery Live」と、従来型ツールである「ANSYS Fluent」「ANSYS CFX」で比較した結果を見せながら説明した。

「『ANSYS Fluent』と『ANSYS CFX』は同じような値になりますが、『ANSYS Discovery Live』だけは離れた値になっています。しかし、『ANSYS Discovery Live』のようなシミュレーション主導設計ツールは、圧力損失の値がどのくらいなのかを判断するために使うものではありません。あくまでも設計エンジニアが設計の早い段階で使用して設計と解析という反復作業を行い、ある程度進めたタイミングで、解析専任者が妥当性の確認や検証を行うという使い方になります」

解析画像1 解析画像2

シミュレーション主導設計ツールの可能性

精度の課題について指摘したアーレンホルツ氏だが、シミュレーション主導設計ツールによってVOLKSWAGEN ID.R開発のプロセスをスピードアップできたとし、利点と課題を次のようにまとめた。

「シミュレーション主導設計ツールを使えば、設計の最適解にたどり着くために、解析専任者だけではなく、設計エンジニアもその一端を担うことができます。もう1つの良い点は、非常にインテリジェントなアルゴリズムによって、何を解析すべきなのか、またどういう設計にすべきかということが分かるので、シミュレーションの回数を減らせることです。これは非常に役立ちます。一方で、精度においては課題がありますし、電磁界など制約のある解析分野もあって、利用範囲は限定的です。従来の解析ツールも併せて用いることが必要でしょう。

こうしたシミュレーション主導設計ツールは、設計プロセスを加速するためには非常に役立つツールですが、本当に解析したいのは何か、そして結果をどのように判断するかということに十分に気を付けてツールを選択する必要があります」

使用したANSYS 製品

  • Ansys Discovery Live
    3D CADとリアルタイム解析を統合した 設計者向けツール
Volkswagen Motorsport GmbH
https://www.volkswagen-newsroom.com/ en/volkswagen-motorsport-gmbh-3706

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