東洋紡株式会社様

ハイリスクな意思決定の補助、現場の技術的知見の伝承 - ANSYS が広げる解析と解析部門の地平

創業以来130 年以上の歴史を誇る東洋紡株式会社は、フィルムやプラスチック、繊維など非常に多くの化学工業製品を製造し、多様な産業に向けてさまざまな素材や原料として提供している。その東洋紡株式会社の製品開発や研究を担う総合研究所にあって、インフラ、研究、開発、生産という全社全部門から依頼を受け、解析により問題の解決に当たっているのが、コーポレート研究所シミュレーションセンターだ。ANSYS PolyflowANSYS Fluent の長年のユーザーである同社シミュレーションセンターでリーダーを務める古市謙次氏に、ANSYS 製品を使い続ける理由と、生産現場におけるCAE ツールの利用のあり方についてお話を伺った。

東洋紡株式会社 コーポレート研究所
シミュレーションセンター リーダー 博士(工学)

古市 謙次 氏

粘弾性を扱える唯一のソフトウェア ANSYS Polyflow

古市氏が所属するシミュレーションセンターが手がける解析分野でメインとなるのは流体解析、構造解析、材料開発における分子シミュレーションの3つだ。このうち、溶けた高分子化合物の高粘度流体などの解析においてANSYS Polyflow、水や空気などの流れに関してはANSYS Fluent を利用している。ANSYS Polyflow については1990 年代に日本に代理店ができたばかりの最初期から20 年以上使い続けている古参ユーザーだ。特殊だが他にない機能を備えている点を評価している。

「扱うことが多い高粘度流体の解析においてPolyflow は信頼性が高いというのが使い続けている第一の理由です。“粘弾性”という、樹脂が持つ扱いの難しい特性を解析対象にできる汎用ソフトウェアはPolyflow だけだと思います。フィルムや繊維などの成型に特有の現象を解析できるのです」

ANSYS Fluent も9 年ほど使っているが、その理由は一般的なものとは少し異なっている。

「Fluent を使っているのは我々が素材メーカーであるからです。(CAE ツールでは)よく“計算が速い”とか“メッシュが早く切れる”といったことがアピールされますが、我々はそういう大規模計算を志向しているわけではありません。流れや物質自体の挙動が特殊なことが多く、社内の独自の問題にカスタマイズして対応できるようなツールを求めています。多数の物理モデルがあることに加え、製造現場で起こる特有の現象をモデル化する機能を備えていることで選択しました」

ANSYS Fluent+UDF で海水淡水化モジュール全体を世界で初めてモデル化

東洋紡株式会社が大きなシェアを持つ製品に海水淡水化モジュール用中空糸膜がある。中空糸膜は髪の毛より少し太いくらいの糸で、中心に穴が通っている。この中空糸膜をたくさん巻いたものを耐圧容器に入れたものが海水淡水化モジュールで、容器に海水を入れて高圧をかけると、海水から淡水が中空糸膜の穴にしみ出てくる。穴を通って出てきた水を集めることで海水から淡水を作り出す仕組みだ。国内外、特に中東で大規模な海水淡水化プラントが稼働している。古市氏はFluent を使って、この海水淡水化モジュールの内部における海水の流れから、海水が圧力によって中空糸膜の中心部に入るところまでを、世界で初めてきちんとモデル化して確度が高い答えを得た。

逆浸透膜モジュールにおける速度コンター
逆浸透膜モジュールにおける速度コンター


Fluent の豊富な物理モデルと、ユーザーが境界条件や材料物性値などを定義して新しいモデルを組み込むことができる柔軟性の高いUDF(User Defined Function)によって、海水淡水化モジュール全体のモデル化が可能になった。従来の海水淡水化モジュールのモデル化は、非常に部分的または限定的な条件下のものに限られており、設計に使えるレベルのものではなかった。新しいモジュール全体の解析モデルは、はるかに汎用性が高く、例えば中空糸膜の条件を変更したときのモジュールとしての変化のシミュレーションにも対応している。東洋紡株式会社が開発した、より大型の海水淡水化モジュールの詳細設計に、この新しいモデルが貢献したという。


意思決定のためのエビデンスを示すツールとして活用

繊維やフィルムは、巨大な製造設備を24 時間36 日連続稼働して連続生産しているが、現場の担当者が改良を加えたり、新しい機能を追加したいと考えることがある。これを実施するには稼働を止める必要があるが、連続生産を止めること自体、非常にコストがかかるため、それなりの説得力と確度がなければ上司にその意を伝えることさえも難しい。古市氏はこのように効果があるかどうかを実際に試すことが難しい場合に、改良や新機能の有用性を判断したり、意思決定のためのエビデンスを示したりする道具として、シミュレーションを活用してほしいと3年ほど前から社内にアピールしている。

「工場の現場はコストにシビアです。設備を止めると機会損失が大きいので、本当にやる必要があるのかとみんな二の足を踏むんです。止める前にシミュレーションによって設備改造の効果を検証して、良くなりそうだと分かれば、リスクの判断をする立場の人間も安心して決定を下せます。そのツールとして使える、リスクが減らせますよと伝えています」

この取り組みは、実際にいくつかの現場でうまく機能し、「製品のクオリティが圧倒的に上がった」(古市氏)という事例も出てきたことで社内の評価も上がり、依頼が増えてきているという。さらにマネジメント層の意識も変わってきた。

「シミュレーションは絶対に必要だという流れになってきました。シミュレーションセンターが作られた10年前とは全然違います。いま役員たちは、現場の生産技術の知見が今後もきちんと残っていくかを心配しています。現場ではなんとなく勘として蓄えられていますが、直感的な暗黙知なんです。知見をちゃんと言葉や数値にしてシミュレーションに載せ、数値化することで、現場の生産技術を伝承していくツールにもなると期待されています」

中空糸における速度ベクトル 中空糸における塩分の質量分率コンター
(左)中空糸における速度ベクトル (右)中空糸における塩分の質量分率コンター


意思決定ツールとしての利用、現場の生産技術を残すツールとしての利用、どちらも進行形だが、今後に向けて古市氏が目指すものはまだまだある。そのひとつは東洋紡株式会社が提供しているたくさんの独自素材のモデル化だ。

「お客様がシミュレーションツールで当社の素材のパラメーターを見ることができて、製品に使ったときの挙動が予測できるようになっていることが理想です。昔は素材を提供するだけで良かったのですが、今では独自素材については解析情報も提供して『弊社の材料はこのモデルを使って計算してください』というものでないとだめだと考えています。それには素材のモデル化や解析のやり方をきちんと構築していかなくてはなりません。そのためには豊富な物理モデルがあり、柔軟なユーザーインターフェースを持ち、ちょっと変えたいなと思ったときにUDF などを使ってすぐに変更できるソフトウェアが望ましいと思っています」


使用したANSYS 製品

製品使用における利点

  • ANSYS Polyflow は粘弾性を持つ流体を扱えるほぼ唯一のソフトウェア
  • 豊富にそろっている物理モデル
  • 製造現場で起こる現象をモデル化できるさまざまな機能を備える
東洋紡株式会社様 東洋紡株式会社
http://www.toyobo.co.jp/

所在地:
〒520-0292 滋賀県大津市堅田2-1-1 (総合研究所)

東洋紡株式会社は1882年(明治15年)に実業家渋沢栄一が日本初の民間大規模紡績会社として設立した「大阪紡」に起源を持ち、1914年(大正3年)「三重紡」と合併して現社名となった。現在の主力製品は工業用フィルム、包装用フィルム、エンジニアリングプラスチック、接着剤、塗料、フィルター材料、中空糸膜、臨床検査機器、医薬品、クッション材、エアバッグ用基布、衣料用繊維、超高強度繊維など非常に幅広い。従業員数は3,035人、連結従業員数は1万101人(2015年3月31日現在)。大阪府大阪市に本社を構え、近畿、北陸地方などに事業所や工場、研究所を持つ。

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