学校法人東京理科大学様

シミュレーションツールは、脳動脈瘤破裂の可能性を測るものさしになり得るか?

科学や工学を中心に発展してきたシミュレーションツールによる解析技術は、コンピュータハードウェアの進歩とツールの進化による高速化、高精度化、使いやすさの向上によって、その応用範囲をさまざまな分野に広げつつあるが、中でも医療分野への適用は最も注目されている。脳動脈の一部がこぶ状になる脳動脈瘤は、破裂すればくも膜下出血を引き起こす、命にかかわる病気だが、発見された脳動脈瘤を予防的治療として手術をするかどうかは、脳外科医が経験をもとに判断してきた

その医療の現場に、ANSYS のシミュレーションツールを使った流体解析技術を持ち込んで、脳動脈瘤の手術をするかどうかを判断する一助になることを目指した研究を進めている、東京理科大学副学長の山本誠教授(工学博士)と、東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座先端医療情報技術研究講座の髙尾洋之准教授(医学博士)にお話を伺った。

東京理科大学 副学長
工学博士 教授
山本 誠 氏

東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座 先端医療情報技術研究講座
医学博士 准教授
髙尾 洋之 氏

脳動脈瘤の“危険度”を判断する基準を作りたい

脳動脈瘤は日本人成人のおよそ20人に1人が持つとされ、それ自体は珍しいものではないが、そのうち2~3%が破裂してくも膜下出血を引き起こすという。このため脳動脈瘤が見つかったとき、特に5mm以上の大きなものの場合には、破裂の危険を避けるために外科手術が行われる。しかし、大きければ必ず破裂するというものではなく、手術自体にもリスクがあり、さらに手術をしたからといって破裂の危険がゼロになるというわけでもない。どういった条件で脳動脈瘤の破裂が起こるのか、確実なことは未だ分かっていない。脳動脈瘤があってもほとんどの場合は破裂に至らないとはいえ、患者にしてみれば「もしかしたら破裂してしまうかも」という不安を抱えたまま生きることになる。このため、どのような動脈瘤なら手術の必要があるのか、手術によって破裂の危険が低くなるのかどうかなど、脳外科医が脳動脈瘤の大きさや形、さらに家族の病歴や飲酒歴、喫煙歴などをもとに経験と勘で判断してきたのだ。

流体工学が専門で長年CFDシミュレーションの研究に携わってきた東京理科大学の山本教授は、東京慈恵会医科大学の髙尾准教授の協力を得て、脳動脈瘤を3Dモデル化し、その中を流れる血液をシミュレーションツールによって流体解析する共同研究を進めている。目指すところは、どのような動脈瘤なら手術の必要があるのか、手術によって破裂の危険が低くなるのかどうか、勘と経験で判断してきた脳外科医に、科学的見地に基づく判断材料として、シミュレーションツールで得た解析結果から動脈瘤が破裂する仕組みや条件の基準を作ることだ。

未破裂内頚動脈瘤(左)と破裂内頚動脈瘤(右)

未破裂内頚動脈瘤(左)と破裂内頚動脈瘤(右)

「脳動脈瘤がどうやって出来て、成長し、破裂するのかを流体力学的に解明できないか。(悪化するかどうかに)流体力学的な違いが何かあるとするなら、それを手術のための診断に使えないかと2010年に研究がスタートした」(山本教授)。現在はさらに進めて、脳動脈瘤の手術の1つであるコイリング(非常に細いコイルを、血管カテーテルを使って脳動脈瘤の中に詰め込み、血液が流れ込まないようにする手術)の効果や、手術後再び悪化した場合の原因の解析も行っている。

脳動脈瘤の解析は、まず造影剤を使ったCT(Computed Tomography)で撮影した頭部の断層画像から、脳動脈瘤を含む血管の3Dデータを作成して、これをシミュレーションツールに読み込ませて行う。3Dプリンターを使って脳動脈瘤の実物大模型をプリントして診断に使ってもいる。ただ、エンジニアリングシミュレーションで想定しているパイプのような部品と比べると、人の血管は太さや凹凸など非常に形状が複雑なため、細かくメッシュを切る必要がある。血管壁の変形などを考慮に入れないにしても、解析結果が出るまでに長い時間がかかるという。

脳動脈瘤を流体力学的アプローチで研究することは、世界各地で行われているとのことだが、東京理科大学と東京慈恵会医科大学の組み合わせには大きな強みがある。「動脈瘤を破裂前に受診するのは日本くらいなのです。(結果として)経過観察中に脳動脈瘤が破裂した患者さんについては破裂前の画像も使って解析ができる。海外の研究はすべて破裂後に撮った画像を解析しているのです」(髙尾准教授)。実際の診療では、破裂前の画像を見て判断しなくてはいけないわけで、破裂前の画像を解析できることは非常に重要だ。2,000~3,000もの症例を研究対象としており、実際の論文でも他大学が1、2例からせいぜい20~30の症例しかないのに対し、100以上の症例について破裂前の段階から解析している。

脳動脈瘤破裂の診断に有効なパラメーターは何なのか、これまでの研究ではまだまだはっきりした知見は得られていない。研究者の間で関係が深いのではないかと言われている血管壁の摩擦応力(Wall Shear Stress)も、それだけではだめだ。他のパラメーターはないかと探して目を付けたのが圧力損失係数(Pressure Loss Coefficient)で、これに血圧や脂質異常症(高脂血症)などの臨床情報を加えていきたいと髙尾准教授は考えている。

医療分野におけるシミュレーションツールの有用性と課題

医療現場ではいま、さまざまな施設でシミュレーションツールを使った研究が始まっているという。過去にはオリジナルツールを開発して研究されてきたが、商用シミュレーションツールを使うことで、解析結果を得るまでの時間は大きく短縮された。「オリジナルのツールでやろうとすると、どういう風に動かしたらいいかというノウハウなどを会得するのに半年から1年かかりますが、商用ツールなら圧倒的に短期間で使えるようになるので断然有利です」(山本教授)。研究に使用しているANSYSツールは、学生は1カ月程度のトレーニングで習得するという。一方で課題もある。いまのシミュレーションツールは医療従事者が使うには機能が多すぎ、操作が複雑すぎることだ。データを入れて、出力形式を指定すれば、あとはワンタッチで答えが得られるような製品、医療用に特化したインターフェースが望まれている。

今後シミュレーションツールを使った研究としては、動脈瘤に入れたコイルなどの変形を連成解析したり、患者さんごとに異なる血液の粘度を考慮した解析、また血管のバイパス手術の前にどうつないだら最善かを予測することなど、やりたいことは多いという。さらに患者への手術前の説明に、シミュレーションツールで血流を可視化して見せることで、手術への不安を減らすことも期待できるという。医療分野へのシミュレーションツールの応用は始まったばかりだが、一歩一歩着実に進んでいる。

STA-MCA バイパス症例の解析

STA-MCA バイパス症例の解析

使用したANSYS 製品

  • ANSYS CFD
    熱流体解析ソフトウェアパッケージ
  • ANSYS CFX
    汎用熱流体解析ソフトウェア
  • ANSYS Fluent
    汎用熱流体解析ソフトウェア

製品使用における利点

  • データを取ることが不可能な血管内部の血流の可視化
  • 症例の定量的な基準作り
  • ツール操作習得の容易さ

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http://www.tus.ac.jp/

所在地:
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東京理科大学は、東京大学を卒業した青年理学士らが“理学の普及”を目指して1881年(明治14年)に創設した「東京物理学講習所」(のち「東京物理学校」に改称)を前身とし、130年以上の歴史を持つ。戦後の学制改革によって1949年(昭和24年)に東京理科大学となった。神楽坂キャンパスに加え東京、埼玉、千葉、北海道に5つのキャンパスを置くほか、1995年に山口東京理科大学、2002年に諏訪東京理科大学を開校した。

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