住友電気⼯業株式会社様
光トランシーバの最適設計をANSYS の電磁界、回路・システム解析ツールが⽀援
試作回数を減らし開発期間短縮要求に対応
モバイル製品やIoT デバイスの急速な増加、動画配信関連サービスの拡⼤などによって、通信ネットワークを流れるデータ量の増加の勢いは⼀層加速している。それらデータ通信を⽀える光ファイバーネットワークの基幹部品として使われているのが、光信号と電気信号を相互変換する光トランシーバと呼ばれるデバイスだ。現在⼀般的な光トランシーバが扱う信号の速度は最⼤10Gbps であるが、さらなる⼤量通信時代に向けてその⾼速化が求められている。住友電気⼯業株式会社 伝送デバイス研究所は光通信向けレーザダイオード/フォトダイオードなどの光素⼦、さらに光素⼦とIC チップを組み合わせたモジュールの研究開発を⾏っているが、そこではANSYS の解析ツールが課題の解決に⼤いに活⽤されている。住友電気⼯業 伝送デバイス研究所で光トランシーバの解析を担当している機能モジュール研究部の⼤森寬康⽒に解析ツール活⽤の実態について伺った。
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住友電気⼯業株式会社 伝送デバイス研究所 機能モジュール研究部 ⼤森 寬康 ⽒ |
ANSYS ツール群で次世代⾼速通信デバイス開発の課題に挑む
光トランシーバは、光を出すレーザダイオードと受光するフォトダイオード、信号の制御と増幅をするIC が⼩さな基板の上に搭載され、それが⼩さなケースに収められた構造になっている。外形は規格化されており、各社のネットワーク制御機器に多数の光トランシーバを挿して使⽤される。⼤森⽒が取り組んでいるのは、1 つで100Gbps 〜400Gbps の通信ができる次世代製品の開発だ。こうした光トランシーバの開発に当たって課題となり、また顧客から求められているのが、きれいな信号で通信すること、モジュールの発熱を抑えるための省電⼒化、不要な電磁波の放射を減らすことの3 点だ。これらの課題に対して、⼤森⽒はANSYS HFSS とSI Option(ANSYS Designer) を活⽤し、基板上の伝送線路の解析、光トランシーバが出す電磁波や熱の抑制に役⽴てている。機能モジュール研究部には光トランシーバモジュールに使われている⼩型のバネの形状を検討するためにANSYS Mechanical を使っている研究者もいる。
試作前のデザインを解析ツールで評価することで試作回数を減らす
解析ツールを導⼊したのは10 年以上前のこと、光トランシーバに求められる通信速度がどんどん⾼速化する中、基板上に最適な伝送線路を引くための指針を得るのが⽬的だったという。「昔は通信速度も現在の4 分の1 程度でしたが、それでも開発期間は5 年ほどありました。ところが最近は⾼速化で難しくなっているのに3 年くらいで開発しなくてはならず、試作機を作って確認・検証していては間に合いません。完璧に試作機と同じものをシミュレーションするのは難しいですが、ものを作る前にネックになるところを解析ツールで検証します。また⾼速通信デバイスはチップも⾼価なものが多いので、コスト⾯からも試作機の数はできるだけ少ない⽅が良いのです」(⼤森⽒)
解析モデル
光モジュールの開発では、ある程度条件が決まっていれば、設計者が5 ないし7 通りのデザインを作り、それを解析ツールを使ってシミュレーションして最も良い結果が出たものを1回試作して確認し、製品にする。試作と解析結果はほぼ⼀致するため、ある程度流れができているものについては、試作なしで実機になることもあるという。シミュレーションで良い結果が出なかったデザインは、設計者も次はそのようなデザインをしないという知⾒が得られるため、間接的にその後の設計期間の短縮につながっている。
ANSYS 製品を導⼊するポイントになったのは、まずCAD との親和性だ。当時は基板CAD とメカCAD を使っていたが、⼤森⽒のグループでは基板単体だけでなく筐体に⼊れた状態での電磁放射も解析するため、メカCAD のデータを簡単に読み込めるANSYS HFSS が重要だった。また、ANSYS HFSS とANSYS Designer の協調解析機能は、電磁放射の電磁界分布を得ることができ、⼤森⽒が担当するEMC/EMI の課題解決が容易にできるという利点があった。「(導⼊当初は)信号の品質よりもモジュールからの電磁放射や、外部からの電磁波や静電気などによる誤作動が問題になっていて、どうすれば誤作動しなくなるかを解析していました。その後、通信速度が10Gbps を超えるようになってくると信号品質が問題となりはじめ、モジュール内部にある基板上の伝送線路の解析も必要になってきました」(⼤森⽒)
解析ツールだからこそできた原因追求、⾼まる信頼
解析ツールを使わなければ解決できなかった課題にも遭遇した。あるとき光トランシーバで信号同⼠が⼲渉するクロストークという問題が起きたが、そのとき⼤森⽒はANSYS HFSS とANSYS Designer を使って電磁界分布を調べることで、チップで起きた共振がその原因であると突き⽌めることができた。「解析ツールがなかったら、どうすれば改善できるか⾒つけることは難しかったでしょう」(⼤森⽒)
「以前は社内でも『シミュレーションと実測はかなり違うでしょう』と⾔われたのですが、解析条件が合っていれば、よほどのことがなければ実測ともかなり⼀致します」⼤森⽒らが着実に結果を出してきたことで、いまでは、設計者も社内でのプレゼンで「シミュレーション結果がこうだったからこのようにしています」というほどに解析ツールへの信頼は⾼まった。
次のチャレンジはマルチフィジックスという⼤森⽒。今後は基板に載せた部品の熱をどのように逃がすか、基板の配線も含めた解析をやりたいと話している。
![]() 対策前基板 |
![]() 実測と解析の⽐較(対策前) |
![]() 対策後基板 |
![]() 実測と解析の⽐較(対策後) |
使用したANSYS 製品
- ANSYS® HFSS™
電磁界解析ソフトウェア - RF/SI Option (ANSYS Designer)
電磁界/電⼦回路統合開発環境
ANSYS HFSS による主な利点
- CAD データとの⾼い親和性
- 精度の⾼い解析結果
- ANSYS Designer との協調解析
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住友電気⼯業株式会社 伝送デバイス研究所 http://www.sei.co.jp/technology/rd/transmission/ 所在地: 〒244-8588 神奈川県横浜市栄区⽥⾕町1 住友電気⼯業株式会社は、住友の銅事業に関連して電線を製造するために1897 年に開設した「住友伸銅場」を創業とする。以来120年に渡って電線・ケーブル関連技術を基に、絶縁技術、導体技術、敷設技術、伝送技術、粉末冶⾦技術など、さまざまな技術を磨き、電線・通信事業をはじめ電⼦部品事業、超硬合⾦⼯具事業、情報ネットワーク事業といった幅広い事業領域を持つ。住友電気⼯業グループ全体では世界約40 カ国に約390 社の関連企業を持ち、グループ社員数は24 万⼈超、連結売上⾼は3 兆円を超える。伝送デバイス研究所は、住友電気⼯業が各地に持つ研究開発拠点の⼀つとして、光および無線を使う通信関連デバイスの研究開発を⼿掛けている。 |
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