ADAS の認識、予測、プランニングを設計

Gilles Gallee(フランス ラファーレー,Ansys,自動運転車ビジネスデベロッパー)

前方衝突警告システム(FCW),自動緊急ブレーキシステム(AEB),車線逸脱警報システム(LDW), 車線維持支援システム(LKA),死角監視システム(BSM)などの先進運転支援システム(ADAS) には,乗用車の衝突事故の3 分の1 以上を防止する可能性があると考えられます1.全米自動車 協会(AAA)交通安全財団のレポート2によれば,こうした衝突事故の削減により,乗用車衝突時 の負傷の37%,死亡の29% を防止できるとのことです.ADAS の可能性を最大限に引き出し, 完全自動運転からより高い安全性および利便性メリットを得られるようにするには,車両が周囲の 世界を認識して,次に起こる可能性のある事象を予測し,それに応じてプランニングできるかどうか をシミュレーションによって確認する必要があります.

Save PDF バックナンバー パスワード発行
Advanced driver assistance systems (ADAS)

ADAS の現状と,Level 5 の完全自動運転車の間には,文字通りにも比喩的にも大きなギャップがあ ります.このギャップを埋めるには,シミュレーションが不可欠です.

よく引用されるランド研究所 のレポートで明らかにされているように,死亡と負傷の観点から自動運転車の信頼性を証明するには, 数億マイル,時には数千億マイルもの距離を走行させなければなりません.たとえば,ランド研究所3によると,人間の運転手よりも自動運転車の方が深刻な衝突事故が少なくなることを証明するには, 自動運転車100 台を時速25 マイルで1 億2,500 万マイル走行させ続ける必要があるとのことです.こ れは,自動運転車を6 年間に渡って連続走行させなければならないことを意味します.同様に,死亡 事故が減少することを証明するには,同じ台数の自動運転車を88 億マイル走行させる必要があり,こ れには約400 年もかかってしまいます.

現在のところ,ほとんどのADAS 機能はLevel 1 またはLevel 2 の範囲に留まっています.特定の 運転条件が満たされている場合に限り,車両側で完全制御できるLevel 3 の自動運転を実現すること さえ,技術的飛躍と言えますが,これは容易ではなく,実機試験と,ハードウェア/ ソフトウェア/ ヒュー マンインザループシミュレーションを組み合わせて行う必要があります.自動運転車の技術スタック のあらゆる側面が重要であり,これらに取り組むには,それぞれ異なる技術と知識を有する複数のス タッフが必要になります.

自動運転レベル

levels autonomy

SAE International(Society of Automotive Engineers)は,J3016 自動運転レベルのガイドラインの初版を2014 年 に公表した.それ以降,このガイドラインは米国運輸省と国連の両方で採用されている.

センサーとAI によって認識とプランニングの問題を解決

ADAS の目となり耳となるのがセンサーです.人間の感覚と同様,センサーも,気候と複雑な走行条件 によって混乱し,困惑します.自動車業界のサプライヤーは,より高いレベルで機能し,晴れた日の交通 量の少ない高速道路だけでなく,ブリザードの中,交通量の多い街路,様々な「エッジケース」において も適切に動作するセンサーやセンシングシステムを開発することが求められています.エッジケースとは, 頻繁には発生しないものの,事故につながることが多い例外的なシナリオです.目の前の自動車を追いか ける犬,迂回指示する建設作業員,鉄砲水による通行不能は,数あるエッジケースのごく一部に過ぎません.

Hologram によって強化されたAnsys SCADE Vision を導入すれば,こうしたエッジケースを特 定して,AI の弱点を突き止めることができます.さらに,エッジケース情報を利用して,より多く のAI トレーニング動作と,新しい試験シナリオ条件をトリガーすることも可能です.Ansys SCADE Vision についての詳細は, " 自動運転認識システム" を参照してください.

ソフトウェア開発者は,シミュレーションから合成データを生成することで,様々な運行設計領域(ODD) でのAI トレーニングを迅速化したいと考えて います(ODD は,特定の環境特性,地理特性, 時間帯特性,交通特性,車道特性で走行条件 のサブセットを表すために使用される用語).開発者にとって,ODD を定義し,特定することは容易ではありません.なぜなら,ODD は試験, コンプライアンス,および実際のLevel 3 自動運転に影響を及ぼすからです.特定の条件下で自動車 が人間の運転手から運転を引き継ぐには,センサーがこうした条件を認識するとともに,ソフトウェ アがこれらの認識を解釈して,ODD 要件が満たされているかどうかを判断しなければなりません.開 発者がこうしたODD エッジケースを探索するのに役立つのがシミュレーションです.

OEM メーカーは,センサーセットの供給をサプライヤー層に依存していますが,自社が生産して いる自動車の安全性に最終的な責任を負う必要があるため,サプライヤーがこうした技術を十分に調 査していることを確認したいと思っています.サプライヤーは,ライダーとカメラに関しては Ansys SPEOS を,レーダーに関しては Ansys HFSS を使用するといったように,コンポーネントおよびパッ ケージレベルでシミュレーションを利用し,様々なセンシング技術の長所と短所を適切に把握してい ます ( "地中レーダーのシミュレーション" と "路上の新たな目"を参照). 目標は,個々のセンシング技術を改善するとともに,様々な技 術を組み合わせて使用することで,どのようなエッジケースが発生しても対応できるロバストなセン サーアレイを作り出せることを確認することにあります.

ADAS の開発サイクルに不可欠なのが,SCANeR を採用したAnsys VRXPERIENCE Driving Simulator です.Ansys VRXPERIENCE Driving Simulator により,ADAS 開発チームは,運転シナ リオを再現し,様々な目標と性能要件に対してテストを実施できるようになります.ADAS 開発チー ムは,高精度マップやアセットライブラリーから生成される道路のほか,交通状況,気象条件,車両 ダイナミクスなどを再現することで,センサーおよびAI モジュール,センサーシステム,車両モデル, ヒューマンマシンインターフェース(HMI)の妥当性を確認することができます.

ADAS 機能のシミュレーション

ADAS 機能は,ソフトウェア開発によって決まります.カスタムの車両モデルは,FMI,C/C++,Ansys Twin Builder,またはMathWorks Simulink を介して,Ansys VRXPERIENCE に取り込む ことができます.エンジニアは,特定の条件を持つ環境(特定の速度で交通渋滞に到達するハイウェ イなど)に車両を配置して,迅速に修正し,所望のシナリオと妥当性確認を実施することができます. その結果に基づいて,様々なレベルおよび種類のセンサーを想定したシナリオをシミュレーションし, センサー認識,センサーフュージョン,システムの動作を評価することも可能です.

VRXPERIENCE では,エッジケースの探索と,センサーのシミュレーションを迅速に行うことがで きます.ヘッドライトの開発を例に挙げてみましょう.夜間には多くの「見逃し」エッジケースが発 生するため,Ansys VRXPERIENCE には,光の物理現象をシミュレーションできる特殊なモジュー ルが備わっています.ハイビームのオンオフを自動化したり,自動調節によりまぶしさを最小限に抑 えたりするインテリジェント照明は,単なる便利な機能のように思えるかもしれませんが,自動車の カメラセンサーがこれに反応することを考えると,ADAS の重要な要素と言えます.標識,車線,対 向車を識別するカメラは,ヘッドライトの設計変更などの影響を受けます.VRXPERIENCE は,センサー入力の変更(照明の変更など)を繰り返せるプロセスを実現し,開発 にかかる時間とコストを低減します.

自動防止

automated prevention

AAA 財団の調査により,普及している先進運転支援技術が衝突事故の低減と防止に有効かどうかが評価された. 米国のデータを使用したこの調査結果により,すべての車両にADAS 技術を搭載した場合には,年間に270 万件以上 の衝突事故,110 万件の負傷,約9,500 件の死亡を防止できる可能性があることが判明している.

もう1 つの例として,ADAS の一部である緊急ブレーキ機能が挙げられます.緊急ブレーキ機能を 開発するには,多くの場合,最初にMathWorks Simulink やAnsys SCADE Suite を用いて,この機 能をモデルとして記述します.この機能をテストして,目標を達成していたら,より詳細なモデルと して設計します.その後には,ソフトウェアインザループとハードウェアインザループのシナリオと 突き合わせて,緊急ブレーキ機能のコーディングをテストすることができます.

advanced driver assistance systems

SCANeR を採用したAnsys VRXPERIENCE Driving Simulator は,ADAS と,その開発サイクルに沿った一連の作業 に不可欠なものである.

Ansys ユーザーは,SCANeR を採用したAnsys VRXPERIENCE Driving Simulator を導入するこ とで,モデルをテストして,SCANeR に取り込み,さらに同じ車両テスト環境を維持してソフトウェ アとハードウェアを接続し,様々なODD エッジケースをシミュレーションできるシームレスなプロ セスを構築することができます.時間を節約するこの効率的なワークフローにより,各地域に分散し ている様々な分野のチームやエキスパートがより簡単にコラボレーションできるようになります.

ヒューマンインザループのプランニング

ADAS は,他のドライバー,サイクリスト,歩行者の行動を予測するだけでなく,車内での人間の挙 動を把握する必要もあります.アイオワ大学の調査4によれば,ADAS 機能によって,人間の挙動が 変わる可能性があります.BSM システムや後退時車両検知警報システムを使用しているドライバーを 対象にした調査では,全体の約25% が,これらのシステムのみに頼りきりになり,目視チェックや, 対向車や歩行者への注意をおろそかにすることに抵抗を感じないと答えていました.また,FCW シス テムやLDW システムを使用している車両所有者の約25% が,運転中に他の作業をすることに抵抗が ないと回答していました. 5

ADAS 技術を早期に取り入れたドライバーを対象にした調査により,誤検知や不快な警報音が原因 で,これらのドライバーが安全機能を無視したり,オフにしたりする可能性があることも明らかにな りました.ADAS が安全性を確保するうえでより重要な役割を果たしていくにつれ,人間と機械の相 互作用がますます重要になっています.自動車メーカーやサプライヤーがシミュレーションを利用す れば,安全機能がどのように使用または誤用されるかを考慮して,ADAS を実装できるようになります.

SCANeR を採用したAnsys VRXPERIENCE Driving Simulator は,ドライバーハードウェアシミュ レータインターフェースと統合されており,バーチャルリアリティによる没入型運転体験を作り出す ことができます. Ansys VRXPERIENCE HMI モジュール を使用すれば,仮想ディスプレイまたはア クチュエータを含むHMI 対応のフルコックピット設計を,視覚シミュレーション,アイおよびフィ ンガートラッキング,触覚フィードバックによってテストし,その妥当性を確認することができます. 仮想テスト走行中のドライバーは,高精度なフィンガートラッキングシステムを通じて,タッチスク リーンからスイッチに至る仮想インターフェースを直接操作することができます.このシステムは, ドライバーの挙動を記録して,運転やインフォテイメントに関する情報を表示しながら,ドライバー の行動を認識して解釈し,適合したHMI 反応を自動的にトリガーします.

ansys vrxperience driving simulator

SCANeR を採用したAnsys VRXPERIENCE Driving Simulator では,大規模なシミュレーションの多様なシナリオの 作成を自動化できる.

ADAS は,乗用車の衝突事故の3 分の1 以上を 防止する可能性を秘めています. こうした衝突事故の削減により,乗用車衝突時の 負傷の37%,死亡の29% を防止することができます.

ADAS の開発者は,表示された情報の妥当性をリアルタイムかつ簡単に評価できるため,より安全 な運転を実現することができます.Ansys VRXPERIENCE では,設計評価のほとんどを仮想プロト タイプで行い,製品作りに必要な高価な実物大模型の数を削減できるため,設計にかかる時間とコス トを低減することができます.

これまでにない体験を実現

安全性は重要な要素ですが,HMI は,OEM メーカーが市場で差別化を図るための方法でもあります. エンジン音や,自動車のドアを閉めたときの感触と同様,人間と自動化のインタラクション方法も, ブランド構築手段となっています.

OEM メーカーとサプライヤーは,Ansys VRXPERIENCE を使用することで,様々なドライバーや 同乗者の体験を同じ開発プロセス全体に組み込んで評価することができます.Ansys VRXPERIENCE では,ADAS のシミュレーションにとどまらず,製造公差を考慮しながら,組立ずれと形状偏差が製 品の感性品質に与える影響を可視化することも可能です.

エンジニアは,材料,留め金具,許容誤差 などの設計および製造データに基づいて,感性品質への影響を確認・表示することができます.反り, 曲がり,歪みなどの複雑な変形効果をシミュレーションして,問題領域の根本原因を特定することも できます.

Ansys VRXPERIENCE SOUND モジュール では,直感的なサウンドグラフィックス表示機能とワ ンクリック増幅制御機能を利用して,サウンドシグネチャを作成することができます.また,リスナー パネルに基づいて心理音響テストを設定し,サウンドが実際にどのように認識されるかについて統計 を取ることもできます.このサウンド認識は,時間周波数表現に基づくツールを用いて評価すること ができます.

コラボレーションにより,技術的変革と文化的変革を統合

現状を打破する可能性を秘めているどのイノベーションにも言えることですが,技術はADAS に関す るストーリーの一部に過ぎません.こうした技術を最終的にどう使用するかで,市場で成功するか失 敗するかが決まります.センサーによって周囲の環境を認識し,AI によってセンサーデータを解釈し て,人間と自動化のインタラクション方法をプランニングする自動運転システムに関しては,あらゆ る側面を考慮する必要があります.

SCANeR を採用したAnsys VRXPERIENCE Driving Simulator では,新しい技術と,この技術に 対するドライバーと同乗者の応答を調査するのに必要なコラボレーションを促進する1 つのワークフ ローにすべてのプロセスを統合することができます.

自動運転車の開発は,現代の最も大きなエンジニアリング上の課題の1 つです.これからの道のり は長く,その過程には数々の節目があると予想されますが,この課題を解決するために,スタートアッ プ企業でも名だたる企業でもシミュレーションを利用し,安全かつ効率的な技術の開発に取り組んで います.


SOURCES

  1. A Long Road to Safety,RAND Review, July-August, 2016.
  2. Potential Reduction in Crashes, Injuries and Deaths from Large-Scale Deployment of Advanced Driver Assistance Systems” A. Benson, B. C. Teft, A.M. Svancara and W. J. Horrey. AAA Foundation for Traffic Safety, 2018.
  3. Driving to Safety. How Many Miles of Driving Would It Take to Demonstrate Autonomous Vehicle Reliability?” Nidhi Kalra and Susan M. Paddock. Rand Corp., 2016.
  4. Vehicle Owners’ Experiences with and Reactions to Advanced Driver Assistance SystemsA. McDonald, C. Carney and D. V. McGehee. University of Iowa, 2018.
  5. Understanding the Impact of Technology: Do Advanced Driver Assistance and Semi-Automated Vehicle Systems Lead to Improper Driving Behavior?N. Dunn, T. A. Dingus and S. Soccolich. AAA Foundation for Traffic Safety, 2019.

ANSYSへお問い合わせください

お問い合わせ先
お問合せ